[東京 19日 ロイター] 地球温暖化防止に向け歴史上初めて国別の温室効果ガス削減を義務付けた京都議定書。1997年12月、同議定書を取りまとめた国連気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)で議長を務めた大木浩・元環境相はロイターのインタビューに応じ、今月9日に福田康夫首相が発表した包括的な温暖化対策について、温室効果ガス削減の「中期目標を出すべきだった」と指摘した。また、国民の意識についても、「今後大変なことになるという緊迫感が足りない」と苦言を呈した。
インタビューの主なやりとりは以下の通り。
――今月9日、福田首相が低炭素化社会を目指す包括的な温暖化対策を発表した。印象、評価は。
「首相としてかなり細かい問題について列挙した。中身は70点になるかならないか。温室効果ガス削減の中期目標をぼかしたのは戦略的にまずかった。大気中の二酸化炭素(CO2)の濃度を450ppmに止め、気温上昇を2度から2.5度くらいに抑えないといけないのだから、そこを目がけて2020年、30年に何をするのかを決めればよい。あくまで見通しで、科学的に証明しなければいけないものではないから」
――1990年を削減基準年とする京都議定書は欧州に有利で、日本に不利な不平等条約という指摘がある。EU(欧州連合)は「ポスト京都」となる2013年以降の中期目標の策定でも90年を基準年としているが、福田首相は「90年にこだわる意味があるのか」と疑問視している。
「90年は日本にはきつい基準年次といえるが、EUの立場、旧ソ連・共産圏の立場、どの時点でエネルギー対策を講じたのかで事情が違う。では90年に代わってほかにいい年次があるかといえば、結局、誰も合意できない。京都議定書は削減を途上国には義務付けず、先進国に義務付けた点で、そもそも不平等条約なのだ」
――EUが掲げる「2020年に90年比20%」の削減目標は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が先進国に対し2020年にCO2を25%─40%削減すべきとしたことが根拠だ。EUは「何をすべき」から発想している。日本は、削減目標を産業別・分野別に積み上げる「セクター別アプローチ」がその典型だが、「何ができるか」から発想している。
「EUと日本の一番の違いは、EUは京都議定書の後でいろいろな制度を入れて、温暖化対策に積極的に取り組んでいる点だ。EU域内の排出量取引を導入したし、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの導入率も高い。日本は京都議定書の以後で努力していることがあまりない。『京都議定書は不平等条約だ。日本は損した』ということばかり言っていたからだ」
「第1次産業では魚が獲れなくなった、収穫できなくなった農作物が出ていると実感する人がいるが、日本にはまだ、温暖化で今後大変なことになるという緊迫感が足りない。国民の間でも、子供たちのほうが危機感を強く感じているのではないか」
――洞爺湖サミットや来年末のコペンハーゲンでのCOP15は、中国やインドといった新興国にも何らかの削減取り組みを求めるべきとの声が強い。日本はどう働きかけるべきか。
「温暖化に限らず中国は環境問題を多く抱えている。かつて先進国で起きた公害問題が起こらないように、先進国が中国やその他の途上国に『過ちを繰り返すな』と主張すべきだ」
――CO2排出削減の技術導入の資金はどうするのか。中国は外貨準備高で世界一だ。無償で技術の移転をすべきなのか。
「中国の場合、国民の格差がものすごく大きい。13億人のうち、2億―3億人は途上国レベルではない面もあるが、あとの10億人は途上国の状態。中国国内でも格差への反発が高まっている。それについて中国政府も考えないといけないし、国際社会も指摘すべきだ。日中間だけでなく、国連や国際会議の場で考えていくべき」
――米国はブッシュ政権が京都議定書から離脱した。科学的な不確実性が理由の1つだった。
「科学的に立証されていないという議論は、もう国際的に通用しない。日本でも温暖化懐疑論の本が多くあり、その方が面白いからよく売れるが、あのような論調を国際的な舞台で主張すれば、少なくとも科学者の間ではまともな議論とは見なされない。サミットでそうした主張をしていたら、とても持たない」
――洞爺湖サミットで福田首相は、ブッシュ米大統領に温暖化問題に対する消極的な態度を改めるよう強く主張すべきか。
「最近でいえば、小泉(純一郎元首相)さんの政策は、米国と協力するということでやってきた。温暖化について米国に気を遣いすぎたという面はある。安倍(晋三前首相)さんのときは、世界全体でやらないといけないとして、日本はEUの主張しているところに寄った。今度のサミットで福田さんは、日本はアジアの一員としてアジア諸国と協力して温暖化対策に取り組む、ということを言えばよい。また、温暖化問題に関してはブッシュ大統領を怒鳴りつけるくらい、したっていい」
インタビューアー : 浜田健太郎 (このインタビューは6月12日に実施しました)
(ロイター日本語ニュース、浜田 健太郎記者)