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コラム

コラム:負のフィードバックループからの脱却=ローレンス・サマーズ氏

ローレンス・H・サマーズ

6月3日、元米財務長官のローレンス・サマーズ氏は、弱い内容となった米雇用統計など過去1週間の展開を踏まえると、世界経済が健全な成長軌道に戻りつつあるという見方は非現実的になっていると分析する。2010年、米ワシントンで撮影(2012年 ロイター/Molly Riley)

[3日 ロイター] 弱い内容となった米雇用統計、欧州での金融状況の緊張の高まり、中国からのネガティブなニュースなど、過去1週間の展開を踏まえると、世界経済は健全な成長軌道に戻りつつあるという見方は、かなり非現実的になっているようだ。

むしろ、所得の減少によって信頼感が低下し、支出の減少につながり、さらに所得が減少するというように、負のフィードバックループが再び形成されている可能性が高い。金融状況の緊張は特に欧州で、実体経済に打撃を与え、すでに存在する緊張をさらに高めている。そして輸出に依存する新興国市場が、先進国経済の鈍化によって苦しんでいる。

問題は、現在の政策進路が容認可能かどうかではなく、何をすべきかだ。実行可能な解決策を打ち出すには、多くの先進諸国の金利水準に注目すべきだ。米政府は名目上、約0.5%で期間5年の借り入れが可能だ。期間10年では1.5%、期間30年では2.5%だ。名目金利はドイツではさらにかなり低く、日本はもっと低い。

インフレ連動債の金利はもっと注目に値するだろう。世界の投資家は、米国に5年間資金を投資しておくのに実質ベースで100ベーシスポイント(bp)以上、10年間では50bp以上を支払う姿勢を示している。満期が20年以上でなければ、インデックス債の金利はプラスにならない計算だ。

ドイツ、日本では実質金利もさらに低い。前週、英国が実施した期間50年のインフレ連動英国債の入札では実質利回りが4bpとなった。

長期債にまで見られているこうした低金利は、長期借り入れコストを低水準で確定させる機会を市場が提供していることを意味する。例えば、米国では期間5年の資金を政府が借り入れる場合、今後5年間の名目金利は約2.5%、実質金利はほぼゼロになる。

このことは、マクロ経済政策については何を意味するのか。欧米では、長期金利の押し下げに向け、追加量的緩和が必要との見方が大勢だ。現在の弱い経済状況を踏まえると、政策をまったく取らない方が、取り過ぎるよりもリスクが大きいため、追加緩和は適切かもしれない。

しかし、異例の低金利環境で投資が手控えられるなか、さらに25bpや50bpの利下げをしたらどうなるかを考える必要がある。実質金利が60bpのマイナスで不採算と判断される事業が、それよりもさらにマイナスの実質金利で実施されるかも考えなければならない。極めて低い実質金利がさまざまな資産バブルを引き起こさないかも検討する必要があるだろう。

量的緩和観測の再燃には奇妙な点もある。そのような政策の重要な目的は、公的セクターが保有あるいは発行する債務の短期化だ。分別のある民間セクターの最高財務責任者(CFO)であれば、中央銀行と反対のことをして、債務のデュレーションを長期化し、低金利を確保する機会と受け止めるだろう。米財務省の債務管理政策に関する議論ではまさにこのことが強調されている。だが、中央銀行があらゆる債券市場で積極的に行動する場合、債務の期限をコントロールするのは財務省だけではなくなる。

では、何をすべきか。各国政府は、すでに低い金利を押し下げることに注力する代わりに、低水準の借り入れコストを利用し、借り入れを増やし、将来の財政状況改善に投資することで、信用力を向上させることが可能だ。

そうすることで、必要なメンテナンス事業が促進される見通しだ。メンテナンスコストが全般的なインフレ率と同じペース、あるいはそれを上回る水準で上昇すると想定すれば、債務の発行は国を貧しくするのではなく、裕福にする。

わが同僚のマーティン・フェルドシュタイン氏が指摘しているように、これは軍用品の代替サイクルを早める際に用いられる原則だ。これと同様に、政府が国債を発行し、現在借りている場所を買うことは、財政状況改善につながる。借入金利が、物件価値に対する賃貸料率を下回っている限りそういうことになる。

こうした例は実質的な裁定となり、まず考えてみるべきだろう。政府はより安いコストで同じサービスを提供することが可能となる。ゼロを大幅に上回る実質リターンが見込まれる公共投資プロジェクトが多くないとしたら驚きだ。国内総生産(GDP)に対し実質ベースで恒久的に年4セントを生み出す1ドルのプロジェクトの例を考えてみよう。このプロジェクトは、1ドルの支出に対し、少なくとも年1セントの収入を新たにもたらすことになるだろう。実質金利が1%を下回る状況では、そのプロジェクトはケインズ効果を考慮する以前にそれ自体が有効であることがわかる。

このロジックは、低コストで長期の借り入れが可能で安全とされる国は、この機会を利用するべきということを示している。債務危機が懸念される国が共有すべき考え方だ。なぜなら、将来の借り入れ能力に対する懸念が大きければ大きいほど、現時点での長期の借り入れに有効であると考えられるためだ。

もちろん、さらなる借り入れが政府の信用度への懸念を増幅させるのではないかという疑問はある。ただこれは、調達資金が将来の歳出を減らしたり歳入を増やすために使用される限り当てはまらない。

合理的なビジネスリーダーなら、今のような状況を債務の条件決定に大いに利用するだろう。先進国の政府もそうすべきなのだ。

(ローレンス・H・サマーズ氏はハーバード大学教授。元米財務長官)

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています

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