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コラム

コラム:「根拠なき熱狂」とは限らない米株の最高値=カレツキー氏

[25日 ロイター] - 米株式市場は、ウクライナやパレスチナ自治区ガザ、シリア、イラクで地政学的な惨事が繰り広げられているにもかかわらず、ほぼ毎日のように高値を更新し続けており、投資家の間に広がるこうしたリスクへの不可解な無関心ぶりに当惑が広がっている。

 7月25日、イエレン米FRB議長が示しているように、米株の最高値が根拠なき熱狂の証拠か、それとも単に緩やかな景気回復に対する合理的な反応かは、時が過ぎないとわからない。写真はニューヨーク証券取引所で6月撮影(2014年 ロイター/Brendan McDermid)

多くのエコノミストやアナリストは、市場の自己満足に見えるこうした状況を、さらに深刻な弊害がもたらされる兆候だと受け止めている。つまり株価をどうしようもないほどの過大評価といえる水準にまで押し上げたのは「根拠なき熱狂」だというわけだ。

こうした見方を唱える人々の中で最も有名なのは、ノーベル経済学賞を受賞したエール大の経済学者、ロバート・シラー氏であり、2000年の米株式暴落と住宅バブルの崩壊を予見したことで高く評価されている。そのシラー氏の行動経済学に関する学問的な取り組みがノーベル賞にふさわしいかどうかはともかくとして、投資に向けた実際の指針としてみるならば、彼のアプローチは現実世界の経験によって完全に反証されている。

シラー氏が投資の世界において権威を確立したのは、2000年3月にIT(情報技術)バブルがはじける直前に著書の「根拠なき熱狂」を発表したことによる面が非常に大きい。しかし、彼の予想が評価された後もその前も、何十年もの期間でみて彼の分析によって示唆される株式投資戦略は明らかに間違いだと判明しているという事実は、それほど知られてはいない。

株価が非合理的な水準にまで高騰しているというシラー氏の主張の根幹をなすのは、シラーPER(株価収益率)と呼ばれる指標だ。

通常の向こう1年間の利益見通しで算出するPERを用いると、S&P総合500種は現在17倍程度。これならば米連邦準備理事会(FRB)のエコノミストを含めた多くのアナリストは、米国株が適正に評価されていると結論を下す。

PERが17倍の時、企業がこの収益力を維持できるなら投資家の年間リターンは5.9%と長期国債の実質利回りの1%程度よりもずっと妙味を持つことになる。

これに対してシラーPERは、過去10年の物価調整後の平均実績利益に基づく。また株式のバリュエーションが妥当かどうかを判断する上で、金利水準ではなく、シラーPERの長期平均と比較しており、そうなると米国株は極めて過大評価されているように見える。S&P総合500種のシラーPERは現在26.3倍で、長期平均の16.1倍よりもずっと高い。シラーPERが16倍に戻るには、少なくとも株価が40%の調整に見舞われる事態を覚悟しなければならないという。

 そして実際に想定される株価の下落率は理論的には40%よりもずっと大きくなるはずだ。平均という定義からすれば、長期にわたって平均を上回る株価水準が続いたのなら、株価が非常に過小評価される局面も同じぐらいの期間続いてつり合いを保たなければならない。

ではなぜ投資家はパニックにならないのかといえば、シラー氏のアプローチには多くの反論材料があるからだ。彼の10年平均という考えには、景気サイクルの長さや深さへの配慮がなく、会計上の償却の入り込む余地もない。シラーPERは、先の景気後退が米国の歴史上最長だったことや、銀行が当時、米企業の歴史上最大の償却を余儀なくされたことから、2019年までは上方バイアスがかかり続けるだろう。

さらなる欠陥は、シラー氏が算出した実績利益は会計処理方式の変更や在庫評価に及ぼす物価変動の影響を織り込んでいない点にある。これは1970年代に利益を実態より相当大きく膨らませ、過小なPERを生み出した。

最も根本的な反対意見には、これらのテクニカルな論点すべてが含まれる。つまり技術や経済政策、金利、社会政治構造、税制の変化を考慮に入れない限り、長期間をカバーするバリュエーションを比較するのは意味がない。結局のところ、現在の株式市場で予想されるリターンと、1880年代の農業ブームと不況、あるいは1930年代の大恐慌、1970年代の高インフレ時代などに投資家が稼いできたリターンとの間に、いったいどうして何らかの関係性があるのだろうか。

もっともテクニカルな論点はさておいても、シラーPERの何が投資の指針として実際に使えないのかということについては、もっと最近の材料で結論が出ている。過去25年間、シラーPERはほぼ一貫して間違っているのだ。1989年以降、S&P総合500種は8倍になり、配当を含む総リターンは投資元本の12倍に達している。

ところがだれかシラーPERに基づいて株式投資をしていた人がいるなら、その人はこれらのリターンを得る機会を逃していただろう。過去25年のうちの97%の期間で、シラーPERは過大評価のシグナルを示しており、1990年第初頭と2008年11月─09年4月という長期平均を下回ったごく短い2つの期間でも、買いシグナルは決して点灯しなかった。

むしろシラーPERは、1990年と2009年のバリュエーションが適正水準よりもほんの少し低いだけであること、つまり株価上昇余地は非常に限られることを示唆していた。実際には超強気相場が始まり、株価は1990年から2000年までに5倍、09年から今年これまでに3倍になっている。

またもしもシラーPERがもっと昔に存在していたとしても、同じように投資指針としては役に立たなかったとみられる。例えば1950年代と60年代の強気相場についてみても、シラーPERは1955年初めから1973年までの96%で株価は過大評価とみなしていたことになる。

この約20年のうち、1974年1月はシラーPERが当時の長期平均を下回り、株式購入に際して「安全な」時期であろうと示唆した初めての局面だったが、その直後から1年間で株価は40%も下落してしまった。

イエレンFRB議長が示しているように(そしてそれはまさにわたしの考えでもある)、株価の最高値が根拠なき熱狂の証拠か、それとも単に緩やかな景気回復に対する合理的な反応かは、時が過ぎないとわからない。

だがわれわれがそれを判断する上で安心して無視できる材料の1つが、シラーPERだ。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKal Dragonomicsのチーフエコノミストも務める。

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