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コラム

コラム:期待通りに世界経済が回復しない理由

[ロンドン 6日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 国際通貨基金(IMF)はこのほど、今や年中行事と化した成長率見通しの下方修正を行った。世界の国内総生産(GDP)伸び率見通しが引き下げられるのは4年連続だ。

 8月6日、世界経済の成長率が一貫して失望を誘っていることに多くのエコノミストは居心地の悪さを感じている。写真は4月、ニューヨークの高層ビル群(2014年 ロイター/Carlo Allegri)

下方修正の幅はさほど大きくないとはいえ、成長率が一貫して失望を誘っていることに多くのエコノミストは居心地の悪さを感じている。

ラリー・サマーズ元米財務長官はこうした富裕国の問題に説明を与え、「長期停滞」と呼んでいる。彼の主張には複数の要素があるが、中心的な論点は、約20年間にわたって投資が不足しており、その原因は金利が高過ぎ、かつ政治家が十分な大きさの財政赤字を許してこなかったことに求められる、というものだ。

2008年の金融危機以来の年月に見られるように、金融バブルが存在しない時には常に成長率が痛ましいほど低かったという彼の示唆は、物議を醸している。

金融・財政政策に対するサマーズ氏の不満は度を越しているように見受けられる。危機の前、各国中央銀行は世界中にインフレを伴わない着実な成長をもたらしたと称賛を浴びていた。彼らの政策が厳しすぎたなら、そうはいかなかっただろう。しかも危機以降の多くの先進国の財政赤字は、GDP対比で見て平時として過去最大で推移してきた。不十分とはとても思えない。

期待通りに世界経済が回復しない理由としてもっと信じられそうな金融面の説明は、20年以上に及ぶ借金の膨張によりバランスシートがゆがんでいたことに原因を求めるものだ。この結果、家計、企業、政府の多くは金融的に圧迫された。負債をごっそりそぎ落とさない限り、これら主体の支出は抑制されたままだろう。負債削減の方法は償却、新たに生み出したマネーによる返済、あるいはインフレによる浸食などさまざまだ。

金融・財政政策に関するサマーズ氏の主張の正否に関わらず、こうした議論は危機後の成長率低下の主たる原因を覆い隠す恐れがある。主たる原因とは、良好な雇用が着実に減っていることだ。

これは公式の失業率で完全に把握できるものではないが、失業率は金融危機後に劇的に上昇しており、例えばユーロ圏で6.8%から10.9%に悪化した。不本意にも労働市場から去った人々や、渋々パートタイムや低賃金の職に就いている人々の数も多すぎる。米労働省労働統計局(BLS)の推計では、労働年齢人口の5.9%が「労働人口に辛うじてとどまっている」か「経済上の理由でパートタイムで雇われている」。職探しの意欲を失った労働者の本当の数はおそらくずっと多いだろう。

こうした傾向は所得とGDPを押し下げる。生産だけでなく労働者を包含する経済全体として見れば、労働者のスキルや尊厳が低下することはGDP回復率の低さよりも深刻な影響をもたらす。

雇用創出不足を投資不足に帰する長期停滞論の説明は、後ろ向きに映る。金利水準がどうあれ、十分に職を得られない労働者の支出力不足が設備投資を慎重にさせている、という方が本当だろう。

実際、労働市場の最大の問題は、金融とはほとんど関係がなく、雇用創出と雇用喪失の非対称性と深く関係している。新技術や効率化を通じて雇用を破壊したり、雇用の価値を引き下げるのはたやすい。逆に新たに良い雇用を生み出すのは難しい。多くのニーズが既に満たされている官僚的な先進国においてはなおさらだ。

この非対称性は何世代にもわたり、多くの地域に脅威をもたらしてきた。しかし各国政府や財界リーダーは、ドイツで最終的に「社会的市場経済モデル」と呼ばれるようになった創造を通じてその痛みを和らげようと尽力してきた。

このモデルの目標はシンプルで、経済の働きによって社会を良くするというものだ。そのために賃金は全般に公正な水準に保たれ、生産性の向上に伴い労働時間は減少した。政府の雇用創出プログラムは失業率を制御するのに役立った。そして法律と社会的コンセンサスが観光や医療といった労働集約的産業の発展を支えた。

残念なことに、このシステムは1980年代までに、特に欧州においては硬直化してしまった。あまりにも職が保証され、雇用コストが高くなったために、雇用主にとって人員採用は大きな賭け、一方で人員削減は収益力向上に大きく寄与するまでになった。加えて政治家と財界リーダーは失業や職不足という社会的課題にあまり注意を払わなくなった。

金融危機によって明らかになったのは、過度に制限的な法律とトップらの無関心という組み合わせがもたらした痛ましい結果だった。米欧いずれにおいても、企業と政府は素早くレイオフに踏み切ってパートタイム労働者を雇い、賃金抑制のために外注に励んだ。しかし採用となると、雇用主はこれまでも今も及び腰だ。

今では失業率は低下しているが、できることはもっとある。長期停滞といった言葉は間違った印象を与える。人口の伸び減速は長期的傾向だ。しかし過度の失業は主におそまつな政策選択の帰結である。

社会的市場経済モデルは再起可能かもしれない。概ね成功した過去10年間のドイツの労働改革が、その進め方についていくつかのヒントを示してくれる。有効な手段としては、雇用にかかる税金の引き下げ、採用に対する政府助成金の拡大、債務過剰がもたらした制約を取り払うための大規模インフラ計画や金融再編などがある。

こうした努力はGDP成長率の押し上げにつながるだろうが、それを主な目的としてはならない。労働の非対称性に対する闘いを経済政策の中心に据えるべきだ。その理由は単純で、良い職が失われることは、GDP伸び率が数ポイント下がることよりずっと大きな害をもたらすからだ。そして目下、各国政府はその闘いに敗れつつある。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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