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コラム:ドル円、「アノマリー」に反した静かな1月 長期的には上昇トレンド入りか=尾河眞樹氏

[東京 16日] - 例年、1月はドル円相場に何かと波乱が起きる傾向がある。ここ数年を振り返ってみても、急にボラティリティが上昇してヒヤリとさせられる場面はしばしばみられた。

 2月16日、例年、1月はドル円相場に何かと波乱が起きる傾向がある。ここ数年を振り返ってみても、急にボラティリティが上昇してヒヤリとさせられる場面はしばしばみられた。写真は円紙幣。2010年9月撮影(2021年 ロイター/Yuriko Nakao)

2020年は、1月2日に米国政府が空爆でイラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官を殺害したと発表。これを受けて米株安、円高となった。もっとも、その後の新型コロナウイルスの衝撃が大きかったため、1円程度の下落はかすんでしまったが、イランが米軍駐留イラク基地に報復攻撃したと伝えられるなど中東情勢が緊迫化するなかで、その後も円高基調が続いた。

2019年は1月3日にフラッシュクラッシュ(瞬間的な相場急変)とも言えるドル円の急落があった。米アップルが売り上げ予想を大幅に下方修正し、それに伴う「アップルショック」が背景との見方もあるが、いずれにせよドル/円は1日で約4円もの下落となった。

また2018年は、1月10日の日銀によるサプライズの国債買入れオペ減額をきっかけに円高が進行。ドル/円は1円50銭程度の下げ幅を記録した。さらに、2017年は1月5日未明、前年12月開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録が公表され、その内容が市場の予想以上にハト派的だったことに加え、円安けん制などもあり、円高が進行した。その他、2014年1月のアルゼンチンペソショックなど、ドル円相場に波乱が起きた例は枚挙にいとまがない。

しかし、相場急落の背景はそれぞれ異なっており、新しい年が始まったこと以外に共通点を見出すのは難しい。いわゆる「アノマリー」(合理的な説明がつきにくい経験則)と言える。

<今年は例年になく静かな1月>

では、今年、2021年の1月はどうだったか。一言でいうと、ドル円相場急落というアノマリーは当てはまらなかった。むしろ極めて穏やかな1月だったうえ、1月6日に付けた102円台半ばを底に、じりじりと反転上昇し、1月末には105円に迫る展開となった。

今年1月が例年になく静かなドル円相場になっている背景には、4つの理由が考えられる。

第1に、各国政府の積極的な経済対策、中央銀行の金融緩和が金融市場を安定させ、相場の「波乱」が起きにくくなっていることが挙げられよう。ちなみに、1月末から2月初旬にかけて、米ゲームストップ株を巡る投機的な動きによって株式市場が混乱し、NYダウが1週間で1000ドル以上下げる局面があった。しかし、この間のドルと円の名目実効為替レートを見ると、穏やかなドル高と円安が進行しており、「リスクオン」の地合いに変化はみられなかった。

第2に、FOMCメンバーの一部から、米連邦準備理事会(FRB)の出口戦略に関する発言が相次いだことも、ドルを押し上げる要因となった。シカゴ連銀のエバンズ総裁や、アトランタ連銀のボスティック総裁による「テーパリング」発言は、やや唐突にみえたものの伏線はあった。昨年11月のFOMC議事要旨には「量的緩和の縮小(taper)と停止は、利上げ開始のある程度前に行われることが資産買入ガイダンスと整合的である」と記されている。FRBは足元で緩和のアクセルを踏みつつも、同時に将来を見据えてブレーキ、つまり緩和からの出口の議論も行っていることが見て取れる。

2008年のリーマンショック後に量的緩和によって4.5兆ドルまで膨らんだFRBの資産は、コロナショックへの対応により、現在は7.4兆ドルまで拡大しており、FRBの動向が金融市場に与える影響も極めて大きくなっている。おそらく、今後景気が回復するなかで、いかに市場に波乱を来すことなく出口に向かうか、その戦略を今のうちに立て、早いタイミングでコミュニケーションを取ろうとしているのではないか。それを見越してか米長期金利はじわりと上昇し、ドルの上昇につながっている。

第3に、米国のかじ取りがトランプ政権からバイデン政権に移行したことも市場を安堵させた。トランプ氏は大統領選での敗北を認めていなかったが、1月6日のトランプ支持者による連邦議会議事堂占拠事件をきっかけに、自ら去ることを表明しなければならない状況に追い込まれた。

これまでバイデン政権の閣僚人事なども遅れていたが、ようやく本格的に新政権が始動している。今会計年度予算の大枠となる予算決議案が可決され、バイデン大統領の掲げる1.9兆ドル(約200兆4500億円)の経済対策案が、大きく減額されることなく向こう数週間に民主党の賛成のみで可決される可能性が高まったことも好材料だ。

最後に、米国でワクチンの普及が加速していることもポジティブだ。直近で最低1回ワクチンを接種した国民の割合は、イスラエルが突出して高く、2月12日時点で45.1%となっているが、米国も1月中旬以降、ワクチンの普及がハイペースで進んでおり、現時点で同接種率は11%を超えた。先進国ではイギリスの22.2%に次いで高い接種率となっている。さらに人数でみれば、米国の3800万人の接種は、世界でも群を抜いている。

こうしてみると、前述した1月のアノマリーが今年当てはまらなかっただけの材料はそろっていた。そしてこれらは今後も、極めて緩やかなペースながら、徐々にドル/円を押し上げるだろう。

<米長期金利の上昇も徐々にブレーキ>

米国政府やFRBの政策に支えられて、米国の企業景況感を示すPMIをみると、ほぼV字回復となっている。先述したとおり、これらをみて市場参加者は既に、FRBの出口戦略を大分先取りしているようだ。しかし、直近の米失業率は6.7%と完全雇用とは言えず、インフレ率についても、PCEデフレーターが前年比1.4%と、いずれもFRBの目標を大幅に下回っている。弊社(ソニーフィナンシャルホールディングス)は利上げ時期を2025年、テーパリングは2022年前半と予想している。パウエルFRB議長が「出口の議論はまだ早い」と繰り返し述べているとおり、少なくとも目先はFRBの強力な緩和が続くことを踏まえれば、短期的には米長期金利の上昇も一本調子には続かず、徐々にブレーキがかかってくるのではないか。

したがって、目先はまだドル円相場ももたつく局面がありそうだ。ただ、足元のドル円の値動きに変化が見られることも確かだ。コロナショックでドルと円が共に急騰した昨年の3月以降、名目実効為替レートではドルも円も共に下落し、ドルと円の「弱い者比べ」でドル円相場が動いてきた。しかし年明け以降は、円安が続いている一方でドルには底打ち感が広がっている。したがって、ドル円は長期的には既に上昇トレンド入りしている可能性が高い。

ドル円は既に90日移動平均線を上抜け、105円台半ばに位置する200日移動平均線超えも視野に入る。米国でワクチンがこのままのペースで普及すれば、米国経済が再稼働するなかで、ゆくゆくはドル円のもう一段の上昇を促すのではないか。ドル円相場にも春の足音は徐々に近づいてきているようにみえる。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

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編集:北松克朗

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