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コラム:日銀点検は緩和限界論を打破できるか 政策変更に3つのメニュー=植野大作氏

[東京 18日] - 昨年12月に日銀が表明した金融政策点検の結果が、約1カ月後の3月19日に公表される。政策目標の達成を目指し、現行施策の効き具合や持久力をチェックするのは、普通に考えれば日銀の通常業務だ。にもかかわらず、日銀はわざわざ「点検」の開始と3月カ後の公表を予告した。「何らかの政策変更」を発表することを念頭に、市場関係者に「心の準備」を促す事前通告だと思われている。

 2月18日、 昨年12月に日銀が表明した金融政策点検の結果が、約1カ月後の3月19日に公表される。 日銀本店前で2020年5月撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

日銀が点検結果として打ち出すとみられる政策変更はどのようなメニューなのか。為替相場にはどう影響するのか。以下、想定される3つのポイントを考えてみる。

<リスク資産購入、減額打ち出す好機>

第1は、日銀によるリスク資産の購入指針の見直しだ。現在、日銀は新型コロナウイルス対応の臨時措置として、上場投資信託(ETF)の購入上限を年間約12兆円にまで引き上げて柔軟に買い入れる方針を示している。しかし、世界的な株高の追い風を受けて日経平均株価は30年ぶりに3万円台に復帰しており、現下の局面で日銀がなおも株を買い続ける意義は徐々に薄れている。

「中央銀行がオープンエンドで株式を買い入れる」という政策は、世界的にみても異例であり、やり過ぎると信賞必罰、優勝劣敗という資本市場の大原則をゆがめる恐れもある。最近は日銀の株式購入残高が年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を上回るなど、やや違和感を覚える現象も起きつつあり、政策の枠組みは維持しつつも事実上の減額を示唆する文言を声明文に盛り込んだり、総裁会見で表明したりする可能性はあるだろう。

日銀が次回会合でこの変更を表明したとしても、世界的に株高が進んでいる今の時期なら極端な株安ショックを招く可能性は低い。為替市場へのインパクトも薄そうだ。逆に言えば、日本株が30年ぶりの高値圏まで値上がりしている状況下で購入減額の可能性すら示唆できないとなると、日銀がいつこの政策を止められるのか分からなくなる。今なら日銀が出口に向けた準備をほのめかしても、大方の市場関係者は「さもありなん」と受け止めるのではないか。

<副作用目立つ長期金利への対応>

政策変更として考えられる第2のポイントは、日本の長期金利の許容変動幅の拡大や国債購入の柔軟化による事実上の長期金利の上昇容認だ。

現在、日銀はかつて年間80兆円に設定していた長期国債購入額のめどを廃止、10年国債金利がゼロ%の上下0.2%程度の範囲に収まるよう誘導する方針を採用しているが、これまでの「国債買い占め」による累積ストック効果により、実際には日本の長期金利はほとんど動かなくなっている。異例の低金利の長期化で金融機関の経営や年金等の運用を圧迫するなどの副作用も目立っており、長期金利の上昇余地を広げて悪影響を緩和するという方針が示される可能性がある。

米国では追加経済対策への期待とコロナワクチンの普及観測を背景に長期金利が大幅に上昇している。日銀が次回会合でこの政策修正を行っても、今の時期なら、為替市場への影響は限られそうだ。実際、一部の通信社がこの政策変更の可能性を報じて日本の長期金利が地味に上昇しても、米長期金利の上昇幅の方がはるかに大きかったため、為替はほとんど円高に振れなかった。

日銀が政策点検の開始を予告した昨年末の時点で、年明け後に米国で株高・金利上昇のリフレ相場の展開になると正確に予見していたとは思えない。だが、図らずも今は、極端な円高ショックを引き起こさずに日本の長期金利の変動領域を拡大できる情勢となった。市場機能を回復させ、金融機関の収益環境の改善にも役立つ長期金利の上昇を容認できるチャンスが到来していると言える。

金融緩和の「超長期化」は避けられない、と日銀が腹をくくったタイミングが、米国でリフレ・トレードが大流行する直前の時期と偶然に一致しただけだったかもしれない。ただ、結果的にみると、これ以上ないほど良い環境で点検結果を公表できそうだ。機敏な判断だったと言えそうだ。

<追加利下げの余地拡大も>

第3は、短期マイナス金利の弊害緩和だ。現在、日銀は当座預金の政策金利残高に0.1%のマイナス金利をかけているが、この枠組みは維持したまま、特別な付利制度を別に設けたりして金融機関の負担を軽減する可能性はあるだろう。あるいは、将来マイナス金利の深掘りに動く際に「何らかの負担軽減策」とセットにすることを予告してくる可能性もある。

日銀がこの政策を採用した場合、当初意図していた金融機関の経営合理化や資産配分の見直し効果は、一部骨抜きになる面はある。ただ、「マイナス金利の長期化による金融機関の収益圧迫」という現行政策の副作用を軽減しておけば、政策継続の持久力が増す一方、将来何らかの金融危機や思わぬ円高ショックが襲ってきた時に備えて追加利下げの余地を広げることができる。

黒田東彦日銀総裁はこれまでも、「マイナス金利の深掘りは選択肢」だと言い続けてきたが、実際には一度も「深掘り」を駆使した追加利下げを行っていない。このため、「副作用の強さを考えると、マイナス金利の深掘りカードは事実上封印されている」とみる市場関係者は少なくない。短期マイナス金利の弊害緩和措置は、「日銀緩和の限界論」を打破し、政策の機動力を回復するための選択肢として、有力な案だと言えそうだ。

日銀が短期の政策金利を即座に下げるわけではないので、仮にこの政策修正を発表しても目先の為替インパクトは軽微だろう。ただ、マイナス金利の深掘り余地の拡幅を国内外の市場関係者にアピールできれば、円高抑止の見えない力になる可能性はある。実際、先週後半に複数の通信社がこの可能性を報じた際、ドル/円市場では気持ち円安気味の反応が観測された。

<日銀の政策後退と誤解される懸念>

以上の3つが、筆者が現時点で想定している点検結果のオプションと為替相場への影響だ。米国でリフレ・トレードが大流行して市場の注目がそちらに向いている今のタイミングなら、日銀が事実上のETF購入の減額や長期金利の上昇容認などに踏み切って異次元緩和の弊害や副作用を緩めても、極端な株安・円高ショックの引き金になるリスクは小さそうだ。

ただ、あえて心配事を述べるとすれば、日銀が点検結果を公表すると予告している次回会合は、日本の会計年度末の目前という非常に際どい時期に開催されるという点だ。金融・為替市場の注目テーマは栄枯盛衰が激しく、次回の日銀会合の直前まで米国でリフレ・トレードが流行っているかどうか、100%の保証はない。

日銀の政策修正が一方的な金融緩和の後退だと誤解されたら、思わぬ株安・円高ショックによる痛撃を期末前の日本の金融機関に与えかねない。緩和長期化の副作用を軽減しながらいかにして政策の持続力と機動力を増進できるのか、上記3つのメニューに加え、声明文に盛り込む先行き指針の表現強化なども検討の俎上(そじょう)にあるかもしれない。

いずれにしろ、日銀による「市場との対話」の巧拙が、本邦会計年度末の金融・為替市場に無視できない影響を与える可能性がある。日銀のコミュニケーション能力が問われることになりそうだ。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

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編集:北松克朗

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