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コラム:政局大転換が日本株押し上げ、世界の緩和マネーの受け皿に=藤戸則弘氏

[東京 8日] - 8月米雇用統計において、非農業部門雇用者数は前月比23.5万人増にとどまった。内訳を見ると、娯楽・ホスピタリティ部門が横ばい、レストラン・バーが4.2万人減と、明らかに「デルタ株」の感染再拡大が、サービス部門に悪影響を及ぼしていると思われる。

資産運用者は常に有利な投資先を求めて世界中に目を配っているが、そ こに飛び込んできたのが、日本の政治情勢の劇的な転換だ。藤戸則弘氏のコラム。写真は2012年9月、東京証券取引所で撮影(2021年 ロイター/Yuriko Nakao)

しかし、基調としての雇用の回復を示す数値も出ている。失業率は前月の5.4%から5.2%に低下し、平均時給は前月比プラス0.6%と事前予測のプラス0.3%を上回り、前年比でもプラス4.3%の高い伸びだ。週平均労働時間も34.7時間と高止まりしている。

しかも、7月の非農業部門雇用者数は、当初の94.3万人増から105.3万人増に上方修正されており、「デルタ株」による一時的な下振れと解釈するのが妥当と思われる。

<米欧緩和に長期化余地>

象徴的なのは米債券市場の反応で、雇用統計の発表直後には、米10年国債利回りが反射的に1.262%まで低下する局面があった。ところが、その後は徐々に長期金利が反転し、結局、前日比0.039%の上昇で引けている。やはり、投資家は、米雇用の改善傾向自体が腰折れしたとは見ていないようだ。

ただし、米連邦準備理事会(FRB)はテーパリング(量的緩和策の段階的縮小)に関して、雇用を注視する姿勢を表明していたため、テーパリング開始時期が後ズレするシナリオが台頭する可能性はある。

もし、コロナの感染拡大が続いて雇用の回復が鈍化するならば、FRBがテーパリングの年内開始に執着する必要はない。つまり、現行の超緩和策のさらなる長期化も想定できる。FRBのバランスシートは、9月1日時点で8兆3492億ドルにまで膨張しているが、一段とカネ余りが拡大・継続すると思われる。

一方、欧州中銀(ECB)は、FRB以上に超緩和策長期化の可能性が濃厚と思われる。一部の各国中銀総裁からは、「PEPP」(パンデミック緊急購入プログラム)の資産購入を見直すべきとの声も出ている。マークイットの8月PMI(購買担当者景気指数・総合)を見ても、ユーロ圏は59.0で、米国と逆転するまでの回復を見せている。また、4─6月期の実質国内総生産(GDP)成長率も、前期比プラス2.2%、前年同期比同14.3%の高い伸びだ。

しかし、ラガルドECB総裁は、超緩和策継続の姿勢を崩していない。財政状況が脆弱で、「観光立国」の色彩が濃い南欧諸国は「デルタ株」による感染拡大が続けば、再び下振れするリスクを重視していると思われる。金融政策のガイダンスも見直し、強い景気回復モメンタムの継続を確信しない限り、引き締め策への転換は遠い将来のことと想定される。

ECBのバランスシートは、8月27日時点で8兆1913億ユーロにまで拡大している。この両中銀に比べると緩慢なテンポだが、日銀も8月31日時点で726兆7103億円に膨らんでいる。この3極中銀で24兆6241億ドル(ドル換算)という空前の膨張となっており、「超過剰流動性相場」は、さらに継続する可能性が高いと思われる。

<菅首相辞任表明に反応した海外勢>

したがって、資産運用者は常に有利な投資先を求めて世界中に目を配っているが、そこに飛び込んできたのが、日本の政治情勢の劇的な転換だ。日本人である我々でも「菅義偉首相が自民党総裁選に出馬せず」のニュースには驚いた。

しかし、この報道に一番驚がくしたのは、日本株をアンダーウェイトに放置していた海外投資家と思われる。昨秋来を振り返ると、外国人投資家は高い支持率で誕生した菅政権を好感し、日本株(現物株式)を昨年10月から今年4月まで4兆0512億円の大幅買い越しだった(東証データ)。

ところが、日本の景況感悪化や後手に回ったコロナ防疫対策もあって、菅政権の支持率は今年5月以降に急落する展開となった。求心力を喪失した内閣の下で、目前に迫った衆院選を戦わなければならない状況だったと言える。こうした政治リスクの台頭とともに、外国人投資家は5月から8月までに8756億円の日本株大幅売り越しに転じた。

ファンダメンタルズ面を見ても、国際通貨基金(IMF)の日本の成長率予想は、今年が2.8%と緩慢な回復である。また、マークイットのPMI(8月・総合)も45.5と欧米に劣後している上に、「デルタ株」の感染拡大で内需サービス業の回復が、いつになるかも判然としない。したがって、海外投資家は日本株をアンダーウェイトし、夏までの日本株の年初来パフォーマンスは低迷の一語に尽きた。

自民党の川島正二郎・元副総裁は「政界の一寸先は闇」との名言を残したが、今回の政治的大変動は日本株に劇的な転換をもたらした。日本株の最大の重石であった政治情勢が、急速に好転する期待を投資家は抱いたようだ。これから自民党総裁選、衆院選と政治イベントが続くが、メディアで報道されているどの候補が総裁になっても、支持率は上昇する可能性が濃厚である。

そして、求心力の高い内閣が、新たな景気浮揚策のパッケージや、統合的なコロナ防疫体制の構築等の政策を吟味すれば、緩慢な回復にとどまる日本経済に好影響を及ぼすと思われる。9月3日後場からの日本株急騰は、投資家の日本株評価が一変したことを示唆しているようだ。

<過去3回の衆院選、自民勝利と株高>

こうした展開になると、やはり世界の投資家は、「衆院選と株高」のアノマリーを想起せざるを得ないと思われる。以下は、過去3回の衆院選と株価の動きだ。

1)2012年12月の第46回衆議院総選挙では、自民党が選挙前の118議席から176議席増の294議席獲得という圧倒的な勝利となっただった。日経平均は、2012年11月安値8619円から2013年5月23日高値の1万5942円まで、7323円高・85.0%の記録的上昇となった。

2)2014年12月の第47回衆議院総選挙では、自民党が291議席を確保し、安倍晋三首相による長期政権への道が開かれた。日経平均は2014年10月17日安値1万4529円から2015年6月24日高値の2万0952円まで、6423円高・44.2%の上昇波動を形成した。

3)2017年10月の第48回衆議院総選挙では、いわゆる「森友学園・加計学園問題」の影響で、自民党には厳しい環境だった。しかし、結果的には、自民党が選挙前議席と同じ284議席を獲得した。日経平均は、2017年9月8日日安値の1万9239円から2018年1月23日高値の2万4129円まで、4890円高・25.4%の上昇を記録した。

つまり、過去3回の衆院選と株価の関係を見ると、浮揚策のパッケージが景気や企業業績の向上につながると期待が高まり、既に選挙前から株価が上昇するパターンを描いている。そして、選挙結果で自民党勝利となると一段高の展開となった。上昇期間も平均して半年前後と、大勢的な上昇波動を形成している。

こうした「衆院選と株高」のアノマリーは、ヘッジファンドが選好する傾向がある。反騰初期段階では、こうした短期筋の動きが活発化するが、新総裁・新政権による政策発動に期待が高まり、ファンダメンタルズの好転が展望されるようになると、過去のケースでは海外年金基金等の中長期マネーも流入する傾向が見られる。株価が中期的な上昇波動を形成するのは、こうした実需筋が参入するためと想定される。

バリュエーション面でも、割高感が目立つ米国株よりも、相対的にリーズナブルな日本株への注目が高まる可能性がある。どの候補が自民党総裁になり、やがて新首相になったとしても、日本株の久々の上昇モメンタムは継続すると期待している。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載された内容です。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*藤戸則弘氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券 参与・チーフ投資ストラテジスト。1979年早稲田大学卒業。1999年に国際証券入社。その後、三菱証券、三菱UFJ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で投資情報部に在籍。2018年7月から現職。国際証券入社前、約20年にわたって生命保険会社で資産運用業務に従事し、ファンド・マネージャー、年金資金のポートフォリオ・マネ ージャー、企画担当を経験。バイ・サイドの視点による説得力のある分析には定評がある。

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