[ロンドン 15日 ロイター Breakingviews] - 日本は今回、円安によって笑顔より涙の方が増えそうだ。通貨安は輸出業者に恩恵をもたらす。しかし目下の円安は、原材料価格の急上昇によって生じた痛みに輪を掛けるものだ。
円相場は今週、ドルに対して約3年ぶりの安値を付けた。年初からは10%下落している。米連邦準備理事会(FRB)が資産買い入れの縮小を計画し、それに伴って米国債利回りが上昇したことが一因だ。しかし円は最近、ユーロに対しても下落している。
このことは輸出企業の競争力を高めるが、輸入物価、とりわけドル建てで取引されるコモディティなどの価格急上昇に弾みを付けるというマイナス面がある。これまでの円安は既に物価に浸透しつつある。日銀が12日公表した9月の企業物価指数では、輸入物価の前年同月比上昇率が31%と記録的な水準に達した。木材・木製品の輸入物価は同72%、石油・石炭・天然ガスの輸入物価は同78%、それぞれ上昇。日本は海外から輸入するエネルギーに大きく依存しているだけに、頭の痛い問題だ。
原材料価格が落ち着いたとしても、円安が進めば輸入物価は上昇するだろう。日本企業は既に影響を被っている。例えば日本ペイントホールディングス(HD)は13日、原材料コストの上昇を理由に2021年12月期の利益見通しを25%近く下方修正し、株価が急落した。今後数カ月、こうした悪いニュースはさらに増えそうだ。消費者物価が上がらないことに慣れた日本の家計は、値上げに拒否反応を示しやすいため、企業がコスト上昇を価格に十分転嫁できない可能性もある。
岸田文雄首相の新政権はこの問題を注視している。しかしFRBに起因する為替レートの流れを反転させることは、首相にも日銀の黒田東彦総裁にも無理な相談だ。コモディティ価格も両氏の管理が及ぶところではない。せいぜいできるのは、国内企業をさらに苦しめることのないような財政・金融政策を運営していくことだ。
●背景となるニュース
*15日午前の東京外国為替市場で、円は一時、1ドル=113円92銭と、2018年11月以来の最安値を付けた。年初からは10%の円安・ドル高となっている。
*日銀が12日公表した9月の企業物価指数は前年同月比で6.3%上昇し、指数、伸び率ともに2008年以来、13年ぶりの高水準となった。輸入物価指数は同31.3%の上昇と、1981年1月以降で最高の伸び率。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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