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コラム:FRB、超緩和策から急速な引き締め転換に内包するリスク=藤戸則弘氏

[東京 12日] - 年明け早々の米株式相場は、ダウ工業株30種平均、S&P500種指数が史上最高値更新と、華々しいスタートを切った。ところが、1月5日から急反落となり、結局1月第1週のS&P500種指数は、昨年末比マイナス1.87%に沈んだ。新年第1週のS&P500種指数が、これほどさえない展開となったのは、2016年のマイナス5.96%以来のことである。

 1月12日、年明け早々の米株式相場は、ダウ工業株30種平均、S&P500種指数が史上最高値を更新したが、1月5日から急反落。最大の要因は、この日公表された12月FOMCの議事要旨が、想定以上に「タカ派色」を強めていたためだ。2013年7月、ワシントンのFRB前で撮影(2022年 ロイター/Jonathan Ernst/File Photo)

また、兜町の大発会も好調で、日経平均は510円高と素晴らしい船出だった。しかし、欧米株の急反落を受けて、1月6日には日経平均が844円安の大幅安となり、大発会以降の上昇分は全て帳消しとなった。今年相場の前途多難を示唆するかのような不穏な動きである。

<FRBのタカ派色に動揺>

世界の株式相場が急変した最大の要因は、1月5日に公表された12月米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨が、想定以上に「タカ派色」を強めていたためである。

その骨子は、1)「最大雇用の達成」は近く、2)「物価への警戒感は一段と深刻」で、3)「利上げは従来の想定よりも早期」の可能性を示唆した──内容だった。

しかし、12月FOMCで「テーパリング(資産購入の段階的縮小)の加速」が決定された事実から、この程度の内容ならばマーケットは織り込んでいたはずである。投資家にショックを与えたのは、4)利上げ後の早期にバランスシートの圧縮に着手、5)QT(量的引き締め策)のピッチは前回の正常化局面よりも迅速─等の文言が盛り込まれていたためだ。

0.25%程度の段階的な利上げであれば、株式を初めとするリスク・アセットへの影響は限定的であろう。しかし、QTの早期発動かつ迅速なピッチでの執行となると、これは株式への影響が甚大になるリスクを内包していると判断する。

FRBは、2015年12月─2018年12月の間に合計9回の利上げを実施したが、QTに踏み切ったのは2017年10月からであった。極めて慎重なアプローチを採用し、1回目の利上げから2年近い猶予期間を経ての実施である。

この段階的アプローチは「9回の利上げと株高の共存」を実現し、金融政策のノーマル化を達成した。そのまさに当事者がイエレン元FRB議長であり、継承したのが現パウエル議長であった。

<QT後に株価下落の前例>

ただ、2017年10月からのQT発動以降の株式相場を詳しく見ると、株価の振幅が大きくなっていることが明瞭である。ダウ工業株30種平均は、2018年1月高値2万6616ドルから同年4月安値2万3344ドルまで12.3%下落。その後も夏場にかけて停滞相場が続いた。

2018年10月には高値2万6951ドルまで上昇に転じたものの、その後は鋭角的な下げで同年12月安値2万1712ドルまで19.4%の調整を余儀なくされた。異例の「暗いクリスマス相場」を招来している。

今回の超緩和策によって、FRBのバランスシートは1月5日時点で8兆7657億ドルという前代未聞の高水準に達している。この膨大なバランスシートの圧縮を「早期かつ迅速なペース」で実施すれば、株式市場への厳しい影響は避けられないと思われる。

気になるのは、パウエル議長以下のFRBメンバーには、「命題」に対するいちずさ、真摯(しんし)さが極めて強い点だ。1期目のパウエルFRBの「命題」は「最大雇用」の実現だった。まさに、この命題に向けてまい進し、他のファクターや超緩和策の副作用を軽視する姿勢を継続した。

物価が、想定外のサプライチェーン混乱やコモディティ相場の急騰もあって、警戒を要するシグナルを発し続けていたにもかかわらず、パウエルFRBは「物価高は一過性」であり、「利上げに対しては忍耐強く対処する」と一貫して主張して来た。

今回2期目を迎えようとしているパウエルFRBの「命題は」、昨年までとは真逆の「高物価の抑制」である。この命題達成に向けて突き進み、今度は物価以外のファクター、例えばマーケット動向を軽視することも想定し得る。

<グリーンスパン議長のバブルつぶし>

過去の歴史では、中央銀行が超緩和策から極端な引き締め策に急転換した場合、株式相場のみならず、実体経済も大きなダメージを被っている。

第1には、グリーンスパン元FRB議長の「ITバブルつぶし」である。IT関連株の「根拠なき熱狂」に対して、グリーンスパン元議長は1999年6月─2000年5月の短期間に合計6回の利上げ(4.75%から6.50%)を実施した。

この結果、ナスダック総合指数は2000年高値5132ポイントから2002年安値1108ポイントまで約5分の1になる大暴落となり、グリーンスパン元議長の狙いは実現した。

しかし、このITバブル崩壊は実体経済にも大きな影響を及ぼし、米経済は2001年に向けて後退色を強めた。結局、この実態悪に対して、FRBは2001年から2003年にかけて、実に13回連続の利下げ(6.50%から1.00%)を余儀なくされている。そして、これが住宅・クレジットバブルを生み、リーマンショックへと「負の連鎖」が続いた。

<澄田・三重野両総裁の金融政策>

第2には、三重野康・元日銀総裁による「平成バブルつぶし」である。1985年9月の「プラザ合意」によって、ドル/円相場は1985年2月の1ドル=262.8円から1986年9月の152.0円まで4割を超える円高進行となった。輸出関連産業全般に大きなダメージとなり、この「円高不況」に対処するために、澄田智元日銀総裁は1986年1月から1987年2月までに5回連続利下げ(公定歩合は5.0%から2.5%)を実施した。

しかし、結果的にはこれが膨大な余剰マネーを生み、土地と株式の壮大なバブルにつながって行った。日経平均は1989年12月に3万8915円の大天井を形成した。これに対して日銀は、澄田元総裁の末期から利上げに転換していたが、後任の三重野元総裁が1回で1.0%の大幅利上げを含め、公定歩合を1990年8月までに6.0%と急速に引き締めた。

結局、超緩和策から急速な引き締め策への転換によって「平成バブル」は崩壊し、日本経済もまた「失われた10年」と呼ばれる長い停滞と不良債権問題に苦しむことになった。

こうした歴史の最大の教訓は、株式相場と実体経済が表裏一体で不可分であり、性急な金融政策の転換は、相場の崩壊だけではなくリアル経済をも疲弊させてしまう点だ。株式相場の騰落は、個人の家計や消費行動、企業の設備投資や年金財政にも大きな影響をもたらしている。

超緩和策からの性急な引き締め転換には、大きなリスクが潜在している。もし、FRBが「高物価抑制」の命題に向けて疾走し、他のファクターを軽視すれば、リスク・アセットにかげりが差すことになろう。

パウエル議長は、2015─18年の段階的引き締めアプローチを継承した当事者である。元来、慎重かつ「意見調整型」であるパウエル議長の穏健な采配を期待したいところだ。

<自動車産業に差す光明>

一方で、明るい兆しもある。12月のISM製造業景況指数で、入荷遅延指数が前月の72.2から64.9、仕入れ価格指数も82.4から68.2と改善傾向を見せていることだ。

また、同非製造業景況指数でも、入荷遅延指数が75.7から63.9に改善している。まだ、絶対水準は楽観できる状況ではないが、高インフレ率の最大の要因であったサプライチェーンの混乱が、改善傾向に向かっていることを示唆している。

GMでは半導体不足が改善傾向にあり、12月末のディーラー在庫が9月末対比で55%改善したと発表した。同社によると「好調な経済と半導体不足の改善を生かして、売上高とシェアを拡大する」という。

これを受けて、GM、フォード、BMWの株価は、新年早々に52週高値を更新した。日本でもトヨタ自動車の堅調が続くなど、世界的に自動車株は強い展開だ。高物価に直結するサプライチェーンの混乱が収束に向かい、FRBの利上げと相乗効果を挙げれば、極端な引き締め志向が緩和する可能性は十分ある。

タカ派で著名なセントルイス連銀のブラード総裁も「インフレが一部予測者の期待通りに落ち着けば、年後半に利上げペースを落とすか、それほど急ペースで利上げせずに済ますことができる」と述べている。

特に、年後半には高インフレ率の鈍化とともに、株式相場にも期待が持てる展開を想定している。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載された内容です。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*藤戸則弘氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券 参与・チーフ投資ストラテジスト。1979年早稲田大学卒業。1999年に国際証券入社。その後、三菱証券、三菱UFJ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で投資情報部に在籍。2018年7月から現職。国際証券入社前、約20年にわたって生命保険会社で資産運用業務に従事し、ファンド・マネージャー、年金資金のポートフォリオ・マネ ージャー、企画担当を経験。バイ・サイドの視点による説得力のある分析には定評がある。

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