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コラム

コラム:日本でも始まった物価上昇、一時的と断定できるのか

[東京 14日 ロイター] - 日本でも物価上昇が本格化する可能性が高まっている。国際商品価格の上昇と円安が主要なエンジンになっているが、この動きが「一時的」かどうかが次の大きな論点になる。2%の物価目標を掲げる日銀は一時的との見方に傾いているようだが、それは果たして本当なのか。17、18日の金融政策決定会合では、その点に多くの時間が割かれそうだが、筆者の視点で物価上昇の要因を整理してみた。

 1月14日、 日本でも物価上昇が本格化する可能性が高まっている。都内で2021年12月撮影(2022年 ロイター/Issei Kato)

<国際商品価格の上昇は続く>

日銀が14日に発表した12月国内企業物価指数は、前年比プラス8.5%だった。輸入物価指数は同プラス41.9%と11月の同45.2%から小幅低下したが、2021年中では2番目に大きな伸びとなっている。原油価格が12月に下落した影響とみられるが、今年1月に入って原油は再び上昇。1月の輸入物価は伸び率を高める可能性が高い。

主要な国際商品で構成されるCRB指数は足元で約7年ぶりの高水準となっており、一部の商品専門家は「スーパーサイクル」に入り上昇基調が続くと予想している。WTI原油先物も1月に入って1バレル=82ドル台に上昇し、下がる気配はない。

国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で脱炭素の方針が明確になり、産油国は大幅な増産につながる大規模な新規投資に慎重な姿勢を見せている。世界経済が何かのショックで大幅な景気後退に入らない限り、エネルギーやその他の原材料価格が低下する要素は少ない。したがって当面、輸入物価の上昇傾向は続き、企業の価格転嫁の必要性は、時間の経過とともに高まる可能性がある。

<米金融引き締めと円安>

ドル/円は足元で113円後半─114円付近とやや円高方向に振れている。しかし、米連邦準備理事会(FRB)が3月から利上げを始め、7月から保有資産規模の縮小(QT)に着手するという市場の予想通りに引き締め政策が展開されれば、ドル/円は120円方向へとシフトする可能性が高い。

榊原英資・元財務官は日本経済新聞とのインタビューで、2022年から23年にかけて130円程度まで円安が進む可能性があるとの見解を示している。円安の進展は、円建ての輸入物価を押し上げ、企業に価格転嫁を迫る力を蓄積させる役割を果たす。ここでも物価上昇が一時的とは言えない要因があると指摘したい。

<3%賃上げの実現性>

岸田文雄首相は、今年の春闘で企業側に3%の賃上げ実施を要請している。すでに一部の大企業首脳の中には、3%賃上げ実施を明言したケースもある。もし、3%の賃上げが実現すれば、生産性の向上で吸収できない分を値上げで消費者に転嫁するという企業が続出する可能性がある。このサイクルが現実性を帯びれば、今年よりも23年以降の物価上昇につながる可能性がある。

しかし、この10年間で最も賃金が上がったのは2015年の2.20%。21年は1.78%だった。そのうち定期昇給分の寄与度は1.8%ポイント程度あるとみられ、企業側はトータルとして賃上げによる大幅なコスト上昇に直面せずに済んだ。3%の賃上げ実現は、物価上昇が一時的になるかどうかを巡る「天王山」のせめぎ合いと言えそうだ。

<物流コストの上昇圧力>

今年1月から4月にかけて値上げを公表した製品に関する理由を見ると、原材料価格の上昇とともに「物流コストの上昇」を挙げるケースが目立っている。その背景にあるのは、ガソリン代の上昇とトラック運転手の不足による雇用コストの上昇だ

新型コロナウイルスの感染拡大によって水際措置が強化され、その一環として外国人の再入国条件が厳しくなり、結果として労働条件が相対的に劣後している職種における人出不足が深刻化している。そのうちの一つが運送業を支える運転手であり、その確保のための賃上げは運送各社にとって避けて通れない道になりつつある。

外国人労働者の再参入が本格化する時期は、新型コロナのオミクロン変異株の感染拡大により全く見通せなくなっており、この要素も長期化が予想される。

<下請け企業の価格転嫁チェック>

政府は昨年12月27日、中小企業が大企業から「買いたたかれる」ことを防止するための政策パッケージを公表。毎年1月から3月を集中的な取り決め期間とし、適正に価格転嫁ができるよう促す体制を整備した。

また、公正取引委員会は今月12日、独占禁止法上の「優越的地位の乱用」を未然に防止するという「法規制」を武器に、下請けの中小企業が適切に価格転嫁できているか調べるため、2月中旬に新組織を設立すると発表した。

この政府側の対応強化は、一見すると地味に見えるが、物価押し上げの観点からすれば「かなり効く」ムチになると予想する。この点は、賃上げ実現に次ぐ大きな押し上げ効果を期待できるとみている。

<サービス価格の上昇>

東急電鉄は今月7日、23年3月からの運賃値上げを国土交通省に申請した。値上げは17年ぶり(消費増税分の値上げを除く)となる。鉄道各社はコロナ禍で定期券収入が落ち込んだままで、広く合理化に取り組んできたが、コスト増にも直面し値上げを決断したとみられる。横並び意識の強い私鉄各社は、値上げへの反発が小さいとみれば、追随する動きが波及する可能性がある。

モノの値段だけでなく、サービス分野まで値上げの動きが拡大した場合、物価押し上げの「起動力」は一時的ではなく、継続する可能性があると見た方がいいのではないか。サービス価格の動向は、方向性を分ける「分水嶺」として注目すべきだ。

このように見てくると、物価上昇の動きは「一時的」と即断できない要素がいくつもあることに気付かれたのではないか。日銀には、多くの国民が理解できるよう、わかりやすくかつ論理的な説明が求められている。

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