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コラム:世界の流れに逆行する日銀のマイナス金利とYCC、円売りの潮流続く=佐々木融氏

[東京 20日] - 日銀は今回も現状の金融政策を維持した。世界ではいよいよスイス中銀まで利上げを開始しており、間もなく先進国の中では、日銀だけがマイナス金利を維持する中銀になるだろう。日銀は先物市場の機能を壊してまで10年国債金利の上昇を強引に抑えようとしている。そもそも日銀は財務省に比べてマーケットに寄り添うことにより、市場の声を吸い上げ、政策に生かすことを得意としていたはずだ。しかし、最早その面影はない。

 日銀は今回も現状の金融政策を維持した。世界ではいよいよスイス中銀まで利上げを開始しており、間もなく先進国の中では、日銀だけがマイナス金利を維持する中銀になるだろう。佐々木融氏のコラム。写真はイメージ。2017年6月撮影(2022年 ロイター/Thomas White)

<英ポンド危機と同じ構図の日銀指し値オペ>

日銀は市場の投機的な動きを封じるため、と言いつつ毎営業日の固定金利指値オペを実施している。しかし、ファンダメンタルズに逆らって投機的な取引が行われる場合、ヘッジファンドのような投機筋は負けてしまうが、今回のようにファンダメンタルズに沿った方向でヘッジファンドが中央銀行にチャレンジする場合は、恐らくヘッジファンドの方が勝つことになるだろう。日本国債の売りポジションには逆方向、つまり金利が大きく低下するリスクがそれほど大きくない。イギリスのポンド危機と同じような構図だ。日銀はテクニカルにはずっと国債を買い支え続けることができるが、どこかでそうした取引を止めざるを得ないプレッシャーに打ち勝つことはできなくなるだろう。

日本を除く主要国のインフレ率はすでに6%台まで上昇している。日本は世界から隔離されて生活しているわけでもなく、日本の財の消費者物価指数は既に前年比5%以上上昇している。日本の消費者物価指数前年比が2.5%しか上昇していないのは、サービス価格の上昇率がほぼゼロパーセントだからだ。日本の消費者物価指数のウエイトは概ね財とサービスが半々だ。財のインフレ率5%、サービスのインフレ率がゼロパーセントで、合計すると2.5%だ。

そして、サービス価格の4割を家賃が占める。日本では家賃が上昇しづらい。しかし、それは裕福な資本家にとってマイナスとなっているということになり、住んでいる間にも家賃が上げられていくような米国に比べれば、優しい社会と言えるのではないだろうか。

だが、それ以外のサービス価格も上がらない。これは賃金が上がらない中で、消費者が値上げに敏感になっているため、企業がコストアップ分を吸収しているためである。今やどんなサービス業でも、電気料金やその他のコストが必ず上がっているのだから、コストが上がっていないはずがない。それを日本企業が吸収しているからサービス価格が上昇しない。これは金融政策でどうにかできる問題ではない。

<デフレからインフレに移行した世界経済>

そもそも、日銀は変動の大きい生鮮食品とエネルギーを除いた上昇率に注目しているが、それは物価が「上下動」していて、トレンドが見極めづらい時に注目すべきものだろう。国民がエネルギーや食品価格の上昇で苦しんでいる時に、それらを除いて「物価は上昇していない」と言うことが正しいとは思えない。世界経済の潮流は、既にデフレからインフレに転換している。

以前にも本コラムで指摘したことがあるが、デフレからインフレへの転換は、人口動態の変化や、世界が経済合理性より保護主義や脱炭素などイデオロギーを優先するようになったことによってコスト高になったことが原因だ。

コモディティ価格が構造的な要因で上昇トレンドをたどる可能性が高く、実際の国民生活に影響するエネルギー価格が上昇して国民を苦しめている時に、それを無視して金融政策を遂行するのには疑問が残る。

<日本のマクロ政策は成長に寄与したのか>

このように世界経済が構造的な変化を続けている中で、新型コロナウィルス感染拡大、ロシアによるウクライナ侵攻で、変化はさらに大きなものとなっている。2016年に正しいと思えた政策が仮に当時は正しかったとしても、これだけ変化した世界で現在も正しいとは思えない。さらに言えば6年前に導入されたマイナス金利政策、イールド・カーブ・コントロール(YCC)政策によって、日本経済がその他の主要国よりも成長したという証拠は乏しい。

多少話は脱線するが、日本の政策は世の中の変化に鈍感なケースが散見される。これだけ脱炭素が叫ばれている中で、ガソリン価格に対して上昇を抑えるために補助金を払うというのは、どういう意味なのだろう。こういう時こそ 時勢を捉えて判断するべきなのではないだろうか。

石油会社にガソリン価格上昇に対して補助金を出すくらいなら、脱炭素に向けた方向転換のための補助金を出す方が、未来の日本のためになるのではないだろうか。もちろん、それはガソリン価格上昇を招いて不人気な政策となるだろうが、ここまで自民党「一人勝ち」の状況で、自民党がそのかじを切れないのなら日本の未来は明るくはない。

<世界の構造変化のスピードと日本の政策>

黒田東彦日銀総裁がトランプ大統領就任や、新型コロナウイルス感染者拡大、ロシアによるウクライナ侵攻以前に正しいと思った政策をいまだに続け、日本国政府も鎖国を止めないようであれば、日本の通貨は売られ続け、日本国民は購買力を失い続けるだろう。ディスインフレの時代はすでに終わり、先進国の中で入国時にPCR検査を義務付ける国はもうない。世界の変化のスピードはとても速く、6年前に正しかったことが今も正しい可能性はあまり高くない。

1日当たりの入国人数を制限したり、ツアーグループでの来日を強いて、行動を制限するような日本は、欧米から北朝鮮と同じミステリアスな国として見られ始めている。マイナス金利も、YCCも、PCR検査義務づけも世界ではもう時代遅れなのだ。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

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