for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up

コラム:店頭FX出来高が過去最高、厚いドルサポート=植野大作氏

[東京 8日] - 日本の店頭外国為替証拠金取引(FX)が歴史的な活況を呈している。金融先物取引業協会が公表した店頭FX月次速報によれば、2022年6月の報告会員50社の全通貨ペアの出来高は1230兆円と過去最高記録を樹立した。

 日本の店頭外国為替証拠金取引(FX)が歴史的な活況を呈している。金融先物取引業協会が公表した店頭FX月次速報によれば、2022年6月の報告会員50社の全通貨ペアの出来高は1230兆円と過去最高記録を樹立した。写真はFX取引大手の都内事務所で6月13日撮影(2022年 ロイター/Issei Kato)

従来の最高記録は、当時未知の存在だった新型コロナウイルスが世界に拡散する初期段階で為替市場が大混乱に陥った2020年3月の1016兆円だった。当時はドル/円が6日間で7円以上暴落した後、一気に切り返して12日営業日で10円以上も急騰するなど、短期間に生じた為替の乱高下が出来高急増の背景だった。このため歴史的な出来高の急増は1カ月で収束した。

一方、最近の店頭FXの盛況は、当時と違って持続性がある。昨今の店頭出来高の急増は、当時として過去4位だった894兆円を樹立した今年3月から始まっており、続く4月は1002兆円と当時2位、5月も同3位の977兆を記録するなど、歴史的な活況が4カ月も続いている。

<3─6月出来高、4103兆円に急増>

月次の店頭FX出来高記録の上位5番目までのうち、トップを含めた4つは今年3月以降の4カ月間に集中している。この結果、今年3月から6月までの合計出来高は4103兆円に達した。ちなみに、昨年度の日本の名目国内総生産(GDP)は542兆円だ。当該4カ月間の店頭FX出来高は、日本のGDPの7.6年分に匹敵する。注目すべき金額だ。

今春以降の外為市場では、インフレ抑止の利上げに動く諸外国と動かぬ日本の金融政策の違いや、ロシアのウクライナ侵攻で起きた資源高による日本の貿易赤字定着などを背景に、円の全面安が近年に類例を見ない速度と値幅で進んだ。

この間に観測されたドル/円やクロス円の歴史的な高騰が、「外為太郎・花子」の売買興味を激しく刺激したようだ。業界の知己に話を聞くと、まだ、公表されていない7月の出来高もかなりの高水準を維持したらしい。店頭FXの歴史的な活況は梅雨明け後も続いたとみられる。 

以上の状況認識を踏まえた上で、空前の活況を呈している日本の店頭FX取引愛好者の外為売買動向が、今後のドル/円相場の価格形成にどのような影響をもらすのかについて考えてみたい。この先、我々が留意すべきインプリケーションは2つある。

<増える新規参加者>

第1に、日本の店頭FX業界は、外為市場に潤沢な流動性を供給する主体としての存在感を今後も強める可能性が高い。最近相次ぐ日用品や食料品の値上げによる家計圧迫の一因として、歴史的な円安の進行がテレビの情報番組などでも取り上げられる中、これまでは日々の為替変動に無関心だった人々が為替の動きに興味を持つようになっている。

この結果、今春以降の円安局面では、既存のFX口座の取引量が増えただけでなく、新規の口座開設によって店頭FX愛好者の裾野も広がった可能性が高い。現在、日本の店頭FX業界で確認されている取引実施口座数は80万件前後、顧客からの預託証拠金は1.7兆円前後まで増えているが、今後も若い世代を中心に口座数や証拠金残高が増えていけば、現在は「空前」と称されている月間1200兆円超の出来高が「絶後」にならない可能性がある。

日本の店頭FX業界で不動の一番人気を誇る「ドル/円」を中心に、短期空中戦トレード愛好者の人数増加を伴う出来高の膨張は、為替市場にさらなる厚みと多様性を与えて平時におけるボラティリティーを抑制する一方、不測のイベント・リスクが発生した際の外為相場の乱高下を増幅する可能性もある。「外為太郎・花子」の売買動向は、今後も為替需給分析における必須のチェック項目の1つであり続けるだろう。

<日米金利差拡大、増えるFX愛好者のドル買い>

第2に、日米短期金利差の拡大を受け、最近は急速なドル高が進んでも日本の店頭FX愛好者の「ドル/円」持ち高が、売り越し超過に転じなくなっている。

昔から日本の店頭FX愛好者は「逆張り志向」が強く、米国の中央銀行が新型コロナ対応で「ほぼゼロ金利政策」を導入した頃からは、ドル/円が110円、115円、120円など、「5の倍数」前後まで上昇すると、その都度ポジションがドル売り・円買い超過に転じる様子が観測された。

ただ、米国が今年3月にゼロ金利政策を解除した後に通常の「2倍速」や「3倍速」の利上げを断行して日米短期金利差が急激に拡大し始めると125円、130円、135円などの節目に達しても、ドルの買い越し額が減るだけで売り越し超過には転じなくなっている。

現在、日本の店頭FX業界では日米短期金利差の拡大により、「ドル/円」を買い持ちにした際に日割りで受け取る買いスワップの魅力が急激に強まる一方、毎日負担する売りスワップのコストが急速に重くなっている。

日本の店頭FX業界には一定程度の割合で日米短期金利差に概ね連動して拡大するスワップ・ポイント狙いのポジションを好んで持つ低レバレッジ志向のプレイヤーが存在しており、今後米国の中央銀行による超速利上げが進んで日米短期金利差が開けば開くほど、ドル/円の反落局面では従来よりも浅いレベルでドル買い興味が湧出しやすくなるだろう。

他方、日本の店頭FXで許されている最大25倍までのレバレッジを活用した超高速の短期回転売買を好むプレイヤーにとっても、買いスワップと売りスワップの差が開けば開くほど「時間を敵に回す」ドル売りポジションの保有期間は短縮されやすい一方で「時間を味方にできる」ドル買いポジションを持つ際の心理的プレッシャーは軽くなる。

結果として、今後の日本の店頭FX全体でみた場合、歴史的な高値圏でさらなるドル高・円安が進む場合は、ドル買い持ち高の一部解消が進んでドル/円の上昇速度を弱めるものの、ドル売り越し超過の領域に踏み込む手前のどこかでは押し目買い優位に転じて、ドル/円の下値を固める役割を果たしそうだ。

<3%の米短期金利、高金利通貨に映る事情>

米連邦準備理事会(FRB)が7月の会合で通常の「3倍速」に当たる0.75%の追加利上げを実施した結果、米国の政策金利の水準は2.25─2.50%まで上昇している。パウエル議長は会見で利上げペースを緩める可能性に言及したが、インフレの抑え込みに成功するまで利上げを続ける方針は崩していない。年内に米国の政策金利は3%台に達しそうだ。

一方、日銀の黒田東彦総裁は現在の金融緩和を維持する姿勢を崩していない。日本の短期政策金利は当分の間、マイナス0.1%に固定された状態が続きそうだ。

7月の理事会で欧州中銀(ECB)は8年も続けたマイナス金利政策を終了しており、次回9月の理事会では政策金利の下限をプラス圏に引き上げる可能性が高い。現在、大陸欧州でマイナス金利政策を採用しているスイスやデンマークがその後を追うと、今秋にも日本は「世界で唯一のマイナス金利国」になる。

その場合、短期政策金利がマイナスの国に6年半以上も暮らしている「外為太郎・花子」の目からみて、3%台の短期金利の魅力を備えた米ドルは、異次元の高金利通貨に映るはずだ。日本の店頭FX業界全体でみると、「ドル/円」の持ち高は昔のように「万年ドルロング」の状態が定着するようになり、下値サポート力が増すのではなかろうか。

そのような筆者推測の真贋(しんがん)を確認すべく、今後も店頭FX業者が公開している為替売買注文の板情報やポジション比率情報などを注視する必要があるだろう。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍。国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up