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コラム:ドル145円の攻防、どうなる円買い介入=高島修氏

[東京 15日] - 145円に迫るドル高・円安となる中、日本の通貨当局の警戒感は高まっており、円買い介入への階段を一歩ずつ上がっているように見える。だが、実際の介入実施までにはまだ、相当な距離が残るのではないかと思われる。来週の日銀金融政策決定会合でも、金融緩和政策の一部修正に向けた具体的な変化は想定しがたい。

 9月15日、145円に迫るドル高・円安となる中、日本の通貨当局の警戒感は高まっており、円買い介入への階段を一歩ずつ上がっているように見える。都内の為替ボード前で8日撮影(2022年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

ただ、今年6月以降、原油相場の調整が進んでおり、昨年来の円安の底流になってきた日本の貿易赤字の拡大には早晩、歯止めがかかろう。ドル/円はこの間、実は春先以降の中長期的な上昇モメンタムが既にピークアウトし始めた兆しが見られる。日本当局の円買い介入がなくとも、ドル/円は150円を大きく超えることなく、今回の上昇局面における天井を付けるのではなかろうか。

<ハードル高い岸田首相訪米前の介入>

14日には、日銀による金融機関へのレート・チェックが行われたと報じられた。鈴木俊一財務相は「市場であらゆる手段を排除しない」と述べた上で「やる時には間髪入れずに瞬時に行う」と語った。

為替市場では、13日に発表された米消費者物価指数(CPI)が上振れ、来週の米連邦公開市場委員会(FOMC)を控える中、米連邦準備理事会(FRB)の引き締め観測が改めて強まったことで、ほぼ全面的な米ドル高の様相を呈した。

その中でドル/円も先週に付けた145円目前の高値を試したが、日本当局の円安けん制の効果もあって、14日は142円台まで値を崩した。当局の口先介入は一定の効果を発揮していると言えよう。

今週の鈴木財務相らからの円安警戒発言は8日に行われた財務省、金融庁、日銀による三者会合に続く対応で、9日には日銀の黒田東彦総裁が官邸を訪問し、岸田文雄首相と会談。週末には民放テレビ番組で、岸田政権の経済政策におけるキーマン、木原誠二官房副長官が「一方的な為替の動きについては注意しながら、やるべき手だてをやっていく」と語ったところだった。

日本政府、通貨当局が円買い介入に近づいているのは間違いない。ただ、過去に介入が実施された時の経験から言うと、介入実施の前に当局者のけん制発言には「断固たる措置をとる」との表現が含まれていた。

いったん、この表現が使われると、数円程度の円安でも介入実施に至る可能性が高まる。だが、今回、この表現はまだ、出てきていない。145円を巡る防衛線でこの表現が出てきていないということは、実際の介入は少なくとも150円程度までドル高・円安が進まないと行われないということではないか。

冷静に全体の状況を見渡せば、今月下旬には岸田首相が国連総会に出席するために米国を訪問し、バイデン米大統領との首脳会談が行われる可能性が高い。首脳会談で為替相場が議論されるとは考えずらいが、イエレン財務長官率いる米財務省は総じて為替介入に否定的な態度をとっている。首脳会談前にわざわざ為替介入を実施したいとは、日本政府、当局は考えてはいないだろう。

このように考えると、足元でボルテージが上がってきた日本当局の円安けん制は、岸田首相の訪米前に実際の行動が取りにくい中、現実に円買い介入を行わなければならない状況に陥ること(もしくはさらなる円安進行でも介入できないという苦しい事情が露呈してしまう状況に陥ること)を口先介入で避けようとしているようにさえ見えてくる。

<黒田日銀は動くのか>

海外勢の間では、日銀の金融政策の変更に対する思惑も再燃しており、改めて日本国債売りが過熱し始めている。こうした中、14日には日本の10年国債利回りが、日銀によって上限とされている0.25%に張り付いている局面もあった。

だが、来週の金融政策決定会合を含めて、近い将来に日銀が海外勢の期待するような政策調整を行う可能性もやはり低いように思われる。

海外勢のロジックはこうだ。円安加速は政治的に不人気であり、いずれ日本政府は円買い介入に動く。その際に介入効果を補強するには、日銀が金融緩和効果を圧縮させる必要がある。その方が円買い介入に関し、米財務省からの合意を得られやすくもなる。従って海外勢からみれば、円安加速に円金利上昇リスクが加わっている現状では「日本国債はショート(売り)だ」──ということになる。

だが、この円安への日銀の対応方針に関しては7月の決定会合の際、黒田総裁が記者会見で明確に示している。黒田総裁は全面的な米ドル高が円安の最大の理由と指摘。その上で「金利をちょっと上げたら、それだけで円安が止まるとは到底考えられない。本当に円安を止めるのであれば、大幅な金利引き上げになって、経済の大きなダメージになる」と語った。

極めて正しい認識だと筆者は思う。現在の日本の経済と物価の状況を考えた場合、日銀が本格的な金融引き締めを行うことは困難だろう。できることは一度か、二度ほどの政策調整がいいところか。

小幅の政策調整しか打ち出すことができない中で、下手に円安を止めようと行動すると、発動できる政策の弾薬が乏しいことが歴然となり、市場に手の内を見透かされてしまい、むしろ円安を加速させる可能性がある。

黒田日銀が円安に直接、金融政策で対処することに消極的であるのも無理なない。

むしろ、日銀だけでなく財務省、金融庁を含めた日本の当局は、海外勢を主体とした日本国債への売り圧力を、彼らの信認に対する深刻な挑戦と考えていると思われる。円安問題と金融政策を切り離し、日本の威信をかけて現在の日銀政策の枠組みを守りぬく意向ではないか。

<財務省の前に存在する複数の障害物>

財務省にしても、日銀が取りうる手段に限りがある中、円安を止めるために実際に使える十分な弾薬を持っているわけではない。日本の外貨準備高は1.3兆ドル(約185兆円)近くに上るが、米財務省は原則、為替介入に否定的な態度を取っている。

米国の合意は最終的には為替介入に必須の要件ではなかろうが、介入実施後に米国との不協和音が漏れ伝わると、円買い介入は効果を失い、むしろ投機的に円売りを加速させる口実を与えかねない。

その米財務省は現在、インフレ懸念とその抑制に動くFRBの果敢な金融引き締めを受けて、米国債市場が不安定化する問題に直面している。こうした中で日本の円買い介入で米国債が一段と売られ、米金利が不必要に一段の上昇圧力を受けることは望んでいまい。

日本当局としても自らの為替介入の結果、進んだ米金利上昇のため、むしろドル高・円安を加速させてしまうような「下手な対応」は打ちたくはないはずだ。

しかも、現在、為替市場では円のみならず、ユーロや豪ドルなど資源国通貨、新興国通貨を含めて、米ドルが全面高の様相を呈している。

万一、米金利上昇が米ドル高をあおってしまうと、一段と窮地に陥る国も出てくるかもしれない。そうした国がさらなるドル売り介入を始めてしまうと、世界的にも収拾がつかない事態に陥る。

こう考えると必然的に、日本当局にとって兆円単位の大規模介入は困難な選択肢となり、仮に介入を実施するにしても、数千億円程度のスムージング・オペレーションにとどまる可能性が高くなる。

日銀の限られた政策対応では、むしろ円安を加速させかねないのと同じように、このような小規模な円買い介入による対応では、実際に使える弾薬の乏しさが明らかとなってしまう。市場に手の内を見透かされると、むしろ逆効果になりかねない。

円買い介入が実施された1997─98年の前回の例をみると、97年12月17日に2804億円のドル売り・円買いが実施され、瞬間的には5円ほど円高となったが、早々に円安基調へと回帰。その後も散発的な介入が続き、合計で4.1兆円に上る円買い介入が行われたが、ドル/円は130円前後から98年8月にかけて147円台に達する円安進行となった。

市場規模が格段に拡大している今日に、本気で円安を止めようとするならば、当時とは比べものにならないほどの円買いが必要になろう。それは米国との関係や発生しうる米金利上昇のリスクを考えると現実的ではない。

なお、米財務省は為替操作国認定の3つの基準の1つとして、名目国内総生産(GDP)比2%を超える外貨買いという目安を設定しており、一定の為替介入を許容する余地を残している。

日本にとってこの基準は円売り介入の際に問題になるが、円買い介入にしてもその程度の規模であれば、最終的に米財務省も受け入れる範囲なのかもしれない。日本の名目GDPは約550兆円なので、1年間で11兆円(約770億ドル)までなら円買い介入は黙認されうる計算になる。

だが、これで十分な円安抑制効果を持つか微妙なところだ。冒頭に書いたように、原油相場の調整による国際収支改善、それに伴う自然体での円安から円高へのトレンド転換を待つのが上策ではなかろうか。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

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