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コラム:日銀新総裁の下で予想される政策対応、円安阻止効果も=上野泰也氏

[東京 17日] - 岸田文雄首相は11月10日午後、首相官邸で黒田東彦日銀総裁と会談した。会談終了後に記者団の取材に応じた黒田総裁によると、日銀は賃金上昇を伴う形で物価目標2%の実現を目指すと説明し、岸田首相からは国民生活の安定、構造的賃上げに取り組むとの話があった。

 「海外の知見」を参考にしながらの「出口」論議の解禁は、海外勢の円売りをけん制する効果も、おそらく有することだろう。 上野泰也氏のコラム。写真は都内の日銀本店で2016年9月撮影(2022年 ロイター/Toru Hanai)

焦点の1つである為替相場に関しては、黒田総裁の方から一方的で急速な円安は望ましくないと説明し、岸田首相からはこの点について、コメントは特になかったという。来年4月に任期満了を迎える日銀総裁の後任人事についての話はなかったと、黒田総裁は述べた。

<岸田・黒田会談、中身は何か>

だが、定期的に行われている首相と日銀総裁の会談にしては、今回は前回(9月9日)からのインターバルが約2カ月に過ぎず、短い。

岸田内閣発足以降の首相・日銀総裁の会談日は、21年11月4日、22年3月30日、6月20日、9月9日、11月10日。その前の菅義偉内閣では、20年9月23日、21年2月18日、6月23日だった。だいたい3─4か月のインターバルが通常であることがわかる。しかも今回は、ドルの対円相場が151円台でピークをつけた後、10円ほどの幅でドル安・円高方向に揺り戻し、日本政府の緊張度が低下した後の会談設定である。

このため、岸田内閣の懸案事項である次期日銀総裁・副総裁選びが具体的に動き出しており、現総裁である黒田氏から適任と思われる人物名などを首相が聴取する場面があったと推測することも、おそらく可能だろう。

<微妙に修正された総裁発言>

23年4月8日に黒田総裁の任期が満了するまで、日銀の金融政策は修正されず、現状のまま走る公算が大きい。市場関係者が「黒田総裁は意地になっているのではないか」「あまりにもかたくなだ」といった感想を口にするほど、黒田総裁が政策の修正を否定する際のトーンは強い。

金融市場で観測が出ている選択肢のうち、長期金利の許容変動幅の上限(0.25%)を引き上げる可能性は、利上げに相当する影響があるとして否定されている。異次元緩和からの将来の「出口」に関する議論も、黒田総裁は「時期尚早」であるとして封印し続けている。

ただし、後任者の政策運営を縛るのはまずいという配慮からか、黒田総裁が発言内容を修正する場面もあった。

日銀は金融政策決定会合終了後の対外公表文に、政策金利のフォワードガイダンスと呼ばれるものを盛り込んでいる。

現在は下記の通り「当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇(ちゅうちょ)なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」と、新型コロナウイルス危機にひもづけた書きぶりになっている。

金融政策決定会合終了後の9月22日の記者会見で黒田総裁は「金利の見通しといい、マネタリーベースについてといい、フォワードガイダンスというのは、やはり当面、当面というのは、数カ月の話ではなくて、2─3 年の話というふうにお考えになっていただいた方がよいと思います」と述べた。

自らの任期満了を超えて今後2─3年にわたり、政策金利のフォワードガイダンスは基本線として修正されないと受け取れる発言である。

この点について黒田総裁は、9月26日の大阪市で行った記者会見で、発言内容を修正。「政策金利のフォワードガイダンスは、感染症にひもづいたものであり、ここでいう『当面』は『新型コロナウイルス感染症の影響を注視』しつつ政策を行う期間であり、必ずしも『2─3年』という長期ということではないと思います」と説明し直した。

<フォワードガイダンスの修正>

部分的に延長されてきている新型コロナ対応金融支援特別オペ(コロナオペ)が最終的に終了する23年3月末を過ぎると、上記の政策金利のフォワードガイダンスは必然的に書き換えられることになる。その最初の機会は黒田氏の次の日銀総裁が議事を取り仕切る23年4月の金融政策決定会合になる。

新型コロナウイルス危機にひも付けるより前のフォワードガイダンスは「政策金利については、『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れ(おそれ)に注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」となっていた。

この「モメンタムが損なわれる惧れ」というのが実にあいまいで、市場関係者の間では不評だったのだが、それはともかく、23年4月に論点になりそうなのは、マイナス金利の深掘りや長期金利ターゲットの引き下げという選択肢を表している「または、それを下回る水準」を、削除するかどうかである。

筆者は、新体制の日銀が刷新感を醸し出す、ありていに言えば「新しいことをやっている感」を漂わせるためにも、上記の部分の削除が十分起こり得るとみている。

「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)における23、24年度の消費者物価見通しが前年度比プラス1.6%まで来ており、四捨五入すれば2%。物価目標の達成に向けてそこそこの位置につけている、という説明を、日銀の新執行部がすることも可能だろう。

追加緩和を行う際の主要なツールである利下げの選択肢を明記しなくなることは、日銀が正常化に向けて小さな一歩を踏み出したという印象を、世の中に与える。

ただし、「必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」という言い回しを文章上(あるいは口頭ベースで)残しておけば、日銀が追加緩和を排除したわけではないという論理構成は成り立つ。

そして、日銀が当面の利下げを否定して金融政策の正常化にやや近づいたとうメッセージは、為替市場で円売りを進めてきた海外投資家にも届くはずである。ドル/円相場の主要な材料はあくまで米国の金融政策なので、文章をいじるだけで円買いドル売り・円買いがどこまで進むかは定かでないものの、彼らの円売りをけん制する効果は相応に期待できそうである。

<出口戦略の議論解禁>

もう1つ、黒田総裁が封印し続けた「出口戦略」論議の解禁も、実現する可能性が高いと筆者はみている。物価目標達成前ではあるものの、「出口」のブレーンストーミングをしておいた方がよいという声は、国会を含む市場の内外から出続けている。

日銀が議論の参考にし得る量的引き締め(QT)の実例は、米国、英国、カナダで蓄積されつつあり、ユーロ圏でも23年には開始される見込みとなっている。

そうした「海外の知見」を参考にしながらの「出口」論議の解禁は、海外勢の円売りをけん制する効果も、おそらく有することだろう。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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