[東京 25日 ロイター] - 米債務上限問題の着地点が見えないまま、デッドラインとみられている6月1日が近づいてきた。上限の引き上げがない場合、米財務省が支出のやり繰りをしても6月上旬には米短期債の償還ができなくなりデフォルトになる可能性が高い。その場合、市場ではドル不足が顕在化し、外為市場でドル買いが活発化する展開が予想される。
デフォルト時にはリスクオフ心理が優勢になり、円高になるとの見方が東京市場では多いが、ドル不足に市場の焦点が集まれば、円安加速の展開もあるのではないかと筆者はみている。
<Tビル償還できない可能性>
イエレン米財務長官は22日、議会に書簡を送り、連邦債務上限が引き上げられなければ、6月1日にも政府の支払いが滞る「可能性が極めて高い」という認識を示した。24日にはデフォルトに陥る可能性のある期限を6月上旬とする見通しを維持し、政府の財政状況を近く議会に報告すると明らかにすると述べている。
もし、債務上限の引き上げで合意ができない場合、最初に問題になるのは、米財務省短期証券(Tビル)の償還になるだろう。同省によると、Tビルの償還は6月1日、6日、13日、15日と順次到来する。JPモルガンの調べによると、1日が1170億ドル、6日が1230億ドル、8日が1080億ドル、13日が1230億ドル、15日が2460億ドルとなっている。
15日に法人税などの大口の税収があるが、複数の市場関係者によると、その前にデフォルトになる可能性があるという。
<大手米銀がドルを抱え込む事態も>
Tビルは大手米銀などが保有している。償還されない場合はその分のドルが不足することになり、米連邦準備理事会(FRB)はニューヨーク連銀を通じて大規模なドル資金供給を実施することになるだろう。
ただ、ドル不足が誰の目にも明らかになれば、中小も含めた多くの銀行がドルを囲い込むため、ノンバンクや一般企業はドル資金不足が短期的に深刻化するリスクが出てくる。
これを米国以外の国の銀行から見ると、米銀からドルを調達するニーズが飛躍的に高まる事態に直面するということになる。
この場合、日銀は大量のドル資金供給オペを実施して国内銀行のドル需要に対応するだろう。しかし、米債務上限問題が解決しないうちはドル不足が根本的に解決しないとの見方が市場で広がれば、外為市場でもドル買いニーズが高まると筆者は予想する。
<デフォルト長期化なら混乱拡大>
25日午後の東京市場で、ドル/円は139円半ば付近で推移している。もし、米国でデフォルトが発生すれば、リスクオフの円買いが優勢となり、ドル安・円高になるというのが、足元での市場関係者の多数派の声だろう。
しかし、米市場でドル不足が深刻化するなら、ドル買い・円売りが優勢になる可能性があると予想する。多くの市場関係者が「想定外」とみれば、ドル/円が140円台に乗せた後も、さらに円安が進むことがあり得る。
その時に、円安を材料に海外勢が日本株を買ってくるのか、それともデフォルトと同時に急落が予想される米株と連れ安になるのか──。
現時点では、変数が多過ぎて確定的な判断が難しい。ただ、Tビルが償還できなくなり、米市場発で世界の金融・資本市場に激震が走れば、米国における民主・共和両党の対立が解け、債務上限の引き上げが可能になるという道筋も残されてはいるだろう。
もし、合意までの道のりが遠いと市場に分かった時は「未知との遭遇」とも言うべき、大変動に直面するリスクもある。
*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」