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コラム

コラム:アルツハイマー病新薬承認、米医療費増大に拍車か

[ニューヨーク 7日 ロイター Breakingviews] - 米国の医療サービスにつきまとう問題は、患者に対して希望に値段をつけるのを要求することだ。ある病気に本当に必要でも有効でもないかもしれない薬や治療方法にまで、過大な支払いが自由に認められていることもあり、米国の医療費は他のほとんどの先進国より高く、しかも常に良い結果が得られるとは限らない。7日に米食品医薬品局(FDA)が承認したバイオジェンとエーザイが共同開発したアルツハイマー病新薬「アデュカヌマブ」は、こうした「とりあえず何でも使ってみる」やり方が生み出す米国医療のジレンマをまさに体現している。

6月7日、米国の医療サービスにつきまとう問題は、患者に対して希望に値段をつけるのを要求することだ。写真は薬品とドルのイメージ。2014年8月撮影(2021年 ロイター/Srdjan Zivulovic)

アデュカヌマブは、アルツハイマー病の原因と考えられている脳内の「アミロイドベータ」と呼ばれる有害タンパク質を除去して患者を救おうとする長年の医薬品業界の取り組みの最新版といえる。そして確かにアデュカヌマブはこのアミロイドベータを取り除く力はあるようだ。しかしそれが本当にアルツハイマー病治療に有効なのかはまだはっきりしていない。昨年11月に開かれたFDAの専門家諮問委員会も効果は不明だとの結論を下したが、FDAは少なくとも当面、販売することを承認した。

アデュカヌマブによって得られる可能性がある収入規模は「大当たり」と言っても差し支えない。バイオジェンの試算では、アデュカヌマブの治療を受ける条件を満たす米国の患者は150万人に上る。価格は年間で5万6000ドルとなる見通し。この対象者の4分の1が実際に治療に使うと想定した場合、売上高は200億ドルを超える。バイオジェンの昨年の売上高全体でも約130億ドルだった。

新薬の販売状況は予想外に低調なことがしばしばあるし、アデュカヌマブが普及するかどうかの不確実性は大半の新薬よりも高い。効果がはっきり証明されていないため、医師は処方に消極的になるかもしれず、医療保険会社が払い戻しに応じないこともあり得る。肝心のFDAも、市販後の追加試験で効果が確認されなければ承認を撤回する余地を残している。バイオジェンとしては共同開発したエーザイと利益分有する必要もある。バイオジェンの時価総額は7日に180億ドル増加。4日終値時点の時価総額が430億ドルだった点からすると企業価値はかなり膨らんだが、それでも投資家は慎重な姿勢を維持していることを示唆している。

たとえアデュカヌマブの需要が期待外れだったとしても、効果が不確かな薬を治療に使ってくれと要求できる権利を患者に与えたことで、米医療費増大を巡る危機に拍車をかける恐れが出てくる。そうした状況こそがFDAの決定に疑念を呼んでいるのだ。米国の医療費は既に国内総生産(GDP)の18%に達していることが、政府統計で確認できる。これは経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の2倍に相当する。アルツハイマー病は非情な敵であるにしても、肥大化して崩壊の危機にある米国の医療もまた恐ろしい相手だ。

●背景となるニュース

*米食品医薬品局(FDA)は、エーザイとバイオジェンが共同開発したアルツハイマー病新薬「アデュカヌマブ」を承認した。この病気の原因とされる物質に直接働き掛けて進行を遅らせる薬としては初めての承認となる。具体的には、比較的初期のアルツハイマー病患者の脳内の「アミロイドベータ」と呼ばれるタンパク質を減らし、認知機能の悪化を抑える効果がある。

*FDAは、市販後に有効性を確認する新たな臨床試験を実施することを義務付けた。この試験で効果が証明されないと、承認を撤回する可能性もある。バイオジェンによると、アデュカヌマブの価格は年間で5万6000ドルに設定される。

*エーザイとバイオジェンは2019年3月、アデュカヌマブの開発をいったん中止している。外部の分析によって試験で有効性が証明されそうにないと判断されたためだ。ただその後、より詳しい分析で初期の患者には1つの試験で一定の効果が示されことが判明した。20年11月に開かれたFDAの専門家諮問委員会は、アデュカヌマブの効果の証明は不十分と結論付けた。

*バイオジェンは、米国でアデュカヌマブによる治療を受ける条件を満たす患者は約150万人と試算している。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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