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コラム

コラム:日本「復興の一年」

イアン・ブレマー 国際政治学者

2月15日、福島原発危機をもたらした東日本大震災の発生から、間もなく約1年が経つ。日本が直面している課題は深刻だが、日本は社会構造のレベルで、こうした難問に対処する準備ができていると国際政治学者イアン・ブレマー氏は指摘する。写真は昨年3月、岩手県田老町で撮影(2012年 ロイター/Carlos Barria)

福島原発危機をもたらした東日本大震災の発生から、間もなく約1年が経つ。日本は広島と長崎への原爆投下以来の危機を経験したといっていいだろう。

今回の震災では、特に津波により、1万を超える人々が犠牲になっており、最終的な死者数は、震災時に適切な医療を受けられなかった人たちを含めればさらに増える可能性もある。地震後には一時約40万人の大人と一緒に、多くの子どもたちが自宅を離れて避難生活を強いられた。福島第1原子力発電所の事故による放射性物質の影響を受けた地域では、がれきの除去作業などは始まったばかりだ。

こうした災厄はすべて、世界的経済危機や日本の産業減速の最中に降りかかったものであり、日本にとっては過去数十年経験したことのない出来事だった。

日本は現在、電力供給の柱だった原子力発電が事実上封じられているという事態に対処しなくてはならない。新しい原発建設という概念そのものが言下に退けられる風潮がある中で、電力インフラをどう再構築していくのか。また、いまだに自宅に戻れない多くの人たちの支援を国はどう続けていくのか。避難生活者の多くは、福島原発事故で警戒区域に指定された場所の住民だが、彼らには自宅に戻るという選択肢はないかもしれない。この国が直面している課題は深刻だ。

しかし、これまでの日本の震災への対応は見事と言うほかない。日本人はひたむきに復興に取り組んでおり、それは称賛に値する。自身を泥臭いどじょうに例えた野田佳彦首相が率いる政権もそうだ。日本政府は自衛隊と官僚組織を復旧活動に動員しており、私の知る限り、その取り組みは財界からも評価を得ている。

実際のところ、日本のビジネスリーダーたちは、私が過去何年も見たことがないほど楽観的だ。これから何年先もさらに不安定さが増していく中で、日本は自らが有利な立場にいること、つまりは最悪の事態への準備が出来ている事を知っている。日本経済は品質に力を注ぎ、細部にまで注意を払う。日本社会は老いも若きも大切にし、先進国としてでさえ驚異的な長寿を実現している。震災という大きな試練を経験し、日本のリーダーたちの間には、この国の衝撃に対する耐久力が証明されたという安心感がある。

国内外の一部には、人口減少の続く日本はもっと移民を受け入れるべきだという議論もある。しかし私は、日本ほどの同質的社会でなければ、震災に同じようには立ち向かえなかったのではないかと思っている。「占拠せよ(Occupy)」と銘打って始まった抗議運動は東京でも行われたが、私が見たときは六本木ヒルズに3人しか集まっていなかった。この国には暴動や略奪が起きやすい下地はないが、それはおそらく、その社会的構造によるものだろう。

日本に改善しなくてはならない分野が1つあるとすれば、イデオロギー的により一貫性があり、より安定した政党を作ることだ。自民党は戦後長らく与党として君臨してきたが、政権交代によって政治システム全体が不安定化し、政党間の終わりなき離合集散プロセスに突入したように見える。与党となった民主党の指導部は党内掌握と政権維持に追われており、今年にも大きな政変により、政党制度がさらに寸断される可能性もある。

日本が取り組まなくてはならないもう1つの大きな課題は、潜在労働力のフル活用、つまりは女性の活用だ。私が今年の世界経済フォーラム(WEF)で米日経済協議会の会合に参加したとき、日本側の幹部は全員男性だった。日本は多くの面で高度化した社会だが、女性への雇用機会や雇用訓練の提供という点では、他の先進国に後れを取っている。慣習や伝統に屈したくない女性にとって、日本国内にはキャリアの選択肢が少ない。そうした女性の多くは多国籍企業の日本オフィスで働くか、もしくは日本から完全に脱出するかだが、どちらも日本を助けることにはならない。メディアが取り上げる高齢化社会への心配は誇張されているかもしれない一方、女性の社会進出の遅れは軽視されているのではないだろうか。

日本が抱えている問題は多いものの、他の先進国が現在直面する問題に比べて極端に多いわけではないという点は驚きに値する。日本の国内外では、この国が困難を乗り切り、やるべきことを成し遂げると信じられている。それが簡単なことだと言うつもりはない。日本がすでにすべての答えを持っているとか、除染や復興のプロセスで、汚職や無駄、厳しい選択といった典型的な問題に直面しないとも思わない。しかし、重要なことは、日本は社会構造のレベルで、こうした難問に対処する準備ができているということだ。そのことは、日本がなぜ戦後の大半において成功を収めることができたのか、日本がなぜ21世紀にも同じことを成し遂げるチャンスがあるのかを如実に物語っている。

(15日 ロイター)

*脱字を補って再送します。

*筆者は国際政治リスク分析を専門とするコンサルティング会社、ユーラシア・グループの社長。スタンフォード大学で博士号(政治学)取得後、フーバー研究所の研究員に最年少で就任。その後、コロンビア大学、東西研究所、ローレンス・リバモア国立研究所などを経て、現在に至る。全米でベストセラーとなった「The End of the Free Market」(邦訳は『自由市場の終焉 国家資本主義とどう闘うか』など著書多数。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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