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コラム

コラム:金利低下でQE3実施に「副作用」も、日銀も同じ環境

田巻 一彦

7月17日、米FRBのバーナンキ議長(写真)による米上院における証言内容から明らかになったのは、量的緩和第3弾(QE3)への慎重な姿勢だ(2012年 ロイター/Yuri Gripas)

[東京 18日 ロイター] 米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長による17日の米上院における証言内容から明らかになったのは、量的緩和第3弾(QE3)への慎重な姿勢だ。

米長期金利は16日に一時、過去最低水準の1.442%まで低下しており、長めの金利の低下を促すというQE3の目的は、すでに達成されているとも言える。ここから米国債やモーゲージ担保証券(MBS)を購入していけば、副作用が効果を上回るリスクが高いとみているのではないか。日本でも長期金利がすでに0.7%台に低下しており、日銀もFRBと似た状況に直面しつつある。

<今回も量的緩和政策のコスト指摘したバーナンキ議長>

バーナンキ議長は、「何もすることがなくなった」とは絶対に言わないという「中銀のルール」にしたがって、この日の証言の中で追加緩和の具体的な選択肢に言及した。証券買い入れプログラムの可能性を認め、対象として米国債もしくは米国債とMBSの組み合わせの例を挙げた。さらにコミュニケーションの利用にも触れた。これはゼロ金利政策の時間軸延長を指示している可能性が高い。超過準備金利引き下げの可能性にも言及した。

しかし、バーナンキ議長は「それぞれに利点とコストがあり、検討する上で重要な点だ」と付け加えた。6月20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見でも「一段の措置を講じる用意がある」と示しつつ、「市場機能や金融安定、解除のプロセスという点で、様々なコストとリスクがある」と指摘した。コストやリスクを強調している点は、6月20日と変わるところがない。17日の証言では、非標準的な政策措置の発動について「軽率に利用されるべきはない」とも述べた。QE3実施へのハードルは、依然として相当に高いと考える。

<米長期金利の低下、QE3の効果を先取り>

私は、バーナンキ議長がQE3に慎重なスタンスを示している背景には、米長期金利の大幅な低下現象があると指摘したい。10年米国債利回りは16日に一時、1.442%と過去最低水準に並ぶところまで下がった。17日はバーナンキ議長の証言を受けて、1.5%台に上昇したものの、過去最低水準の付近で推移していることに違いはない。

量的緩和政策の効果について、バーナンキ議長は長めの金利を低下させ、その効果を起点に米経済拡大のモメンタムを強めことが政策目的であると表明している。米国債を購入することで通貨供給量を大幅に増やすことが直接的な目的ではなく、長期金利の低下がもたらすプラスの経済効果の有効性に着目しているわけだ。

<QE3の副作用、効果上回る可能性>

とすれば、過去最低水準に下がっている米長期金利は、QE3発動時に期待されている効果を、すでに出しているのと同じではないだろうか。ここからQE3を実施し、さらに長期金利を押し下げると、米国のイールドカーブはかつてないフラット化の形態を取り、銀行の収益基盤は弱体化し、かえって貸出に消極的になるというデメリットも出てくるだろう。

さらに11月の米大統領選を前に、量的緩和政策に反対している共和党がFRBを攻撃し、金融政策が政治にもみくちゃにされるというリスクも意識せざるを得ない。中国やブラジルなど新興国の根強いQE3への反感もある。効果と副作用を比較した場合、今の経済情勢でQE3に踏み出す可能性は極めて低いと予想する。

<日本でも低下続ける長期金利>

実は、日本でも似たような環境に直面しつつある。日銀の白川方明総裁は、資産買取基金を使った日銀の追加緩和手法の目的について、長めの金利に働きかけることだと述べてきた。これは、長めの金利が下がることで、資金調達サイドの調達金利が下がり、必要な主体に十分なマネーが供給され、そのことで経済活動が活発になることを目指していると言える。

また、緩和政策の効果は、日銀の緩和政策の結果として膨れ上がったマネーの量ではなく、金利水準で量るべきだと白川総裁は何回も述べている。10年最長期国債利回りは0.7%台半ば近くまで低下。メガバンクの平均調達金利とみられている0.85%を下回っており、すでに「異常に低い水準」と言ってもいいだろう。

<日銀総裁は、毎月緩和を強化と指摘>

白川総裁は今月12日の金融政策決定会合後の会見で、日銀は先々の資産買入等について予めコミットしており、それに沿って間断なく金融緩和を強化し「今月(7月)も金融緩和を強化している」と指摘した。

今年2、4月の追加緩和によって、資産買入の合計額を毎月増やしており、その意味で日銀は毎月、着実に金融緩和を強化しているということを強調した。白川総裁の目から見れば、金融緩和が毎月強化されているから、長めの金利に働きかける効果が出て、長期金利がじわじわと下がっていると映っているのかもしれない。

<金融政策の制約、資本主義行き詰まりの象徴か>

そうだとすれば、FRBと同様に日銀も近々、追加緩和を選択する余地は極めて小さいのではないか。欧州債務危機の深刻化に端を発した世界的なリスクオフ心理の強まりは、米、独、日で長期金利の低下をもたらし、そのことが日米で一段の追加緩和を実施したのと同じ効果を現出させたと見ることができる。

世界的にマーケットでは、株価の下落や景気の調整色が強まると、条件反射のように金融緩和を求める声が強まるが、市場の期待通りには展開しにくい構造変化が、足元で起きている。言い換えれば、リーマンショック後の資本主義は、いよいよ袋小路の”どん詰まり”に差し掛かろうとしているように見える。これまで通りの教科書的な対応で、何でもやり過ごす時代は終わろうとしている。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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