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コラム

コラム:独首相の予算案、日ごろの緊縮論忘れたようなバラマキ型

[ロンドン 21日 ロイター BREAKINGVIEWS] 国民医療費負担の軽減や年金支給額の引き上げ、新たな社会福祉手当ての創設を合わせると政府予算における支出規模は数十億ユーロに達する──。これはギリシャではなく、メルケル首相が財政緊縮を熱心に説いていたはずのドイツの話だ。

11月21日、メルケル独首相の予算案は、日ごろ熱心に説いている緊縮論を忘れたようなバラマキ型だと言える(2012年 ロイター/Tobias Schwarz)

メルケル首相は、他の欧州首脳には自分の懐と相談して生きていくのは必要不可欠だと訓示しながら、自らは来年の厳しい総選挙をにらんで有権者を取り込もうと、何の束縛も受けずに支出を行おうとしている。

2013年の予算案では一見するとこうした動きが把握できない。なぜなら、循環的な要因が一時的に政府支出を抑制し、税収を押し上げているからだ。例えば、ユーロ圏債務危機のせいでドイツ国債利回りが意図的に低く抑え込まれたことで、国債利払い費は国内総生産(GDP)の8%に相当する年間200億ユーロも少なくなっている。さらに失業率の大幅な低下により、失業関連の政府支出額も減少した。だがこうした一時的なプラス効果は今後消えていくのに、メルケル首相の連立政権はこれから定着してしまう構造的な支出を増やそうとしている。

原則論としては、ドイツの財政支出拡大は悪いニュースではないだろう。20カ国・地域(G20)がドイツに景気を刺激して世界経済の不均衡是正に貢献するよう求めているのは正しい。ユーロ圏においても、より大きな問題を抱えた国の経済不均衡を立て直す上で、ドイツの経常黒字縮小が必要なことは明らかだ。そしてドイツはなお外需に過度に依存し、国内経済は低調に推移している。

しかし問題は、ドイツ政府がどのように支出するかにある。メルケル首相が示す予算案で打ち出された各種措置は、内需を意味のある形で増加させることなく、納税者に負担を強いるだろう。一部の新たな社会福祉手当ては、ドイツの成長力を損ないさえする。

今回のケースはいわゆる「キッチンストーブ・ボーナス」と言うのが適切だ。政府は若い世代の専業主婦(主夫の場合も)の子育て支援金を毎月最大で150ユーロを給付する。これは納税者にとって最大年間14億ユーロの負担になるとともに、就労に対する負のインセンティブにもなる。若い世代の親が労働力人口から外れる期間が長いほど、復帰するのに骨が折れる。既に1.1%と低迷するドイツの潜在成長率はさらに下がってしまう。

ドイツ自身にも、また近隣国にとっても、ユーロ圏最大の経済大国の財政資源をそんな風に無駄遣いする余裕はない。メルケル首相は支出を増やすべきだが、もっと賢明な方法で実行するべきだ。

<背景となるニュース>

●ドイツ議会は今週、2013年予算の採決を行う。国債新規発行額は171億ユーロ、財政支出総額は3020億ユーロが計上されている。政府は専業主婦(主夫)の子育て支援のための新たな給付金を導入。来年の給付額は毎月100ユーロ、2014年には150ユーロに増額する。財政負担は推定12億─14億ユーロ。また来年1月から国民医療費負担を軽減することも決定し、これに伴って財政支出は年間20億ユーロ増加するとみられる。さらに最低年金支給額を688ユーロから850ユーロに引き上げようとしており、財政負担は2030年には32億ユーロに達する見通しだ。

●ドイツ政府の経済諮問委員会と連邦会計監査院は最近、予算の方向性を強く批判した。経済諮問委によると、ドイツの良好な経済環境のおかげで一時的に税収が増え、社会福祉関連支出が少なくなっている最中に、政府は構造的な支出拡大に夢中になっているという。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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