[シンガポール 10日 ロイター BREAKINGVIEWS] 円相場が4年ぶりに1ドル=100円台に突入したが、今後、一方的な円安は見込めないだろう。
円は、昨年12月の衆院選で自民党が大勝して以降、16%下落したことになる。当時、Breakingviewsは、安倍政権の誕生で1ドル=100円まで円安が進む可能性があると指摘していた。ただ、今後の円安進行を阻む要因は複数ある。
まず、警戒すべきはアグレッシブな金融緩和だ。半年前までは、米連邦準備理事会(FRB)が世界で最も大胆な金融緩和政策を実施していたが、衆院選で状況は変わった。安倍氏は選挙戦で日銀を批判、2%のインフレ目標導入を公約に掲げた。日銀の黒田総裁は4月4日、マネタリーベースを2年間で2倍にすると表明した。
円の供給拡大は円の下落を意味するが、どの程度円安が進むかは、FRBの次の動きにかかっている。FRBが、雇用低迷とディスインフレを理由に量的緩和を拡大すれば、ドルは下落する可能性がある。また、ユーロ圏の債務危機が悪化した場合、安全資産としての円の魅力が再び高まる可能性もある。
福島原発事故をきっかけに、エネルギーの輸入依存度が高まっている点も見逃せない。円安で輸出が回復しても、エネルギー価格の急騰で個人消費が低迷する事態は政府として避けたいだろう。
通貨外交の問題もある。米国はこれまでのところアベノミクスを静観している。20カ国・地域(G20)も、日銀の積極緩和への批判を控えている。しかし、例えば円があと20%下落すれば、日本が通貨戦争を仕掛けたとの批判に反論するのは難しくなる。安倍政権は日米の通商関係強化を望んでおり、そうした事態は避けたいはずだ。
最後に、周辺諸国への影響もある。1990年代半ばの急激な円安は、投機的な円キャリー取引を招き、東南アジアに信用バブルの発生と崩壊をもたらした。アベノミクスの狙いは日本経済の回復であり、安倍首相は、次のアジア金融危機の原因をつくった男と思われたくないはずだ。
<背景となるニュース>
●ドル/円は9日、4年余りぶりに100円の大台を突破した。円安は、日銀が4月4日に打ち出した大胆な金融緩和を受けた動き。日銀の黒田東彦総裁は、4月10日のインタビューで、今後しばらくは追加刺激策を講じない姿勢を示唆し、日銀は既に実施した措置の効果を点検する時間が必要だとの見方を示した。総裁は「物価上昇率を2年間で2%に押し上げるために必要な措置はすべて行ったというのがわれわれの考えだ。今後は毎月、緩和が及ぼす影響を点検していくが、それは毎月政策を修正することを意味しない」と語った。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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