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コラム

コラム:日米欧CPI逆転、裏にディスインフレ顕在化の可能性

田巻 一彦

11月21日、米欧でCPIの上昇率が鈍化し、瞬間風速的に日本が米欧を上回った。この結果は黒田緩和の効果が出たと評価できる反面、米欧でディスインフレの動きが顕在化してきた可能性も指摘できる。写真は日銀の黒田総裁。都内で撮影(2013年 ロイター/Issei Kato)

[東京 21日 ロイター] -米欧で消費者物価指数(CPI)の上昇率が鈍化し、瞬間風速的に日本が米欧を上回った。この結果は「黒田緩和」の効果が出たと評価できる反面、米欧でディスインフレの動きが顕在化してきた可能性も指摘できる。

もし、この背景に新興国の水準にさや寄せする先進国の賃金低下傾向があるなら、日本にとっても見逃せない現象だろう。非正規雇用が全体の35%を超える水準まで増加している中、2%の物価目標が達成できるのか、「黒田緩和」の真価が問われる局面が近い将来、やってくる可能性がある。

<ジリジリ上がった日本のCPI、米欧を上回る>

10月米CPI(総合)の前年比はプラス1.0%で、日本の9月CPI(総合)の同1.1%を下回った。10月ユーロ圏のCPI(総合)は同0.7%と1%を割り込んでおり、デフレ脱却が最重要課題となっている日本のCPIを米欧ともに下回った。

このことは「黒田緩和」の効果が着実に浸透し、物価の水準がジリジリと上がってきたことの反映であると言えるだろう。

だが、米欧ともに物価目標は2%であり、その水準からかなり下振れした結果、はい上がってきた日本の下に来てしまったというのが実態ではないか。

では、どうして米欧の物価上昇率は鈍くなっているのか。黒田総裁はこの日の会見で、欧州ではややディスインフレの傾向が見られるのは事実と指摘した上で、失業率がかなり高いと述べ、こうした雇用環境が影響している可能性をにじませた。

<米欧と日本で共通する賃金低下の圧力>

黒田総裁は、それ以上踏み込んだ発言をしなかったが、米欧のCPI上昇率鈍化の背景には、賃金の伸び悩み傾向が関係している可能性がある。米国の製造業では、既存の社員よりも賃金水準の低い「第2賃金の社員」が増えているほか、ユーロ圏でも賃金水準の伸び悩みや引き下げの現象が出始めている。

新興国で生産される製品と比べ、圧倒的に付加価値で差を付ける製品を生産できれば労働コストが相対的に高くても競争力は保たれるが、付加価値にあまり差の出ない製品を生産している企業が、追い詰められて選択する道は、雇用コストの圧縮だ。

実は雇用者の賃金水準をカットしつつ、雇用者の頭数を大幅にカットするのを回避するというスタイルを世界で最も早く採用したのは日本だ。実際、国税庁などのデータを見ても、1人当たりの年間所得の水準は、1990年代初頭をピークに下がり続けている。

足元でさらに注目されるのが、非正規雇用の増大と正規雇用との賃金格差だ。国税庁の「2012年民間給与実態統計調査」によると、正規社員の平均給与が467万6000円だったのに対し、非正規社員は168万円にとどまっている。

そのうえ非正規社員の割合は、直近で雇用者全体の35%となっており、すう勢的にさらに増大する勢いとなっている。

<1人当たり賃金が左右するサービス価格>

製造業の一部ではベースアップの実現がささやかれ、「勝ち組」の大企業ではボーナス増による賃上げが期待されている。ただ、そうした大企業の中には、増産の要員として非正規社員の割合を増やし、正規社員は抑制したままという計画を検討しているところがあるという。こういうケースが増えれば、春闘で賃上げが決まっても、経済全体に波及する効果は、想定よりも減殺される可能性がある。

1人当たり賃金の水準が低下を続ければ、サービス価格の低下を伴って物価上昇の力がかなり削がれる、というシナリオの現実味が出てくる。牛丼の並盛・280円が売れ行き不振で値下げされれば、当局が押しつぶしてきたデフレ心理が再び、台頭しかねない。

来年4月からの消費税率引き上げ後に、賃金の上昇率が期待したほどでなかった場合、実質賃金指数の低下に歯止めがかからなくなるという事態が、最も避けたいパターンだろう。

4月4日の「黒田緩和」以来、CPIを筆頭に様々な経済データが好転し、「前向きのメカニズムが働いている」と黒田総裁が自信を示す経済情勢が続いている。だが、こうしてみると、日本を取り巻く先進国から、ディスインフレの波動がひたひたと押し寄せている可能性がある。

実物経済は、そこそこ好調さを見せているが、物価の伸びが怪しい、という米欧の現象と似通った前兆が出てきたときに、どのような判断を下すのか。黒田総裁率いる日銀は、その真価を問われる時がいずれやってくると予想される。

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