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コラム

コラム:長期的停滞への処方箋=ローレンス・サマーズ氏

ローレンス・サマーズ

1月5日、長期的停滞という課題は、単に適度な成長率を達成するのではなく、金融面で持続可能な方法で、それを達成しなければ解決できない。写真はサマーズ氏。昨年10月、ワシントンで撮影(2014年 ロイター/Yuri Gripas)

[5日 ロイター] -先月のこの欄で私は、米国が長期的停滞期に入った可能性について論じた。潜在力を大幅に下回る水準の低成長、生産、雇用と、問題含みの低い実質金利が今後しばらく併存する可能性だ。

今世紀に入ってから、米国の国内総生産(GDP)成長率は年平均1.8%を下回っている。目下の米経済は、ほんの数年前の2007年に潜在的な成長軌道とされた水準を約10%、額にして1兆6000億ドル以上も下回る水準で稼働している。しかもこれは、5年以上もマイナスの実質金利が続き、極端な金融緩和政策が行われる中での出来事だ。

過去数年間、悲観的な成長見通しを維持するだけの知恵を備えていた何人かの専門家でさえ、少なくとも米国における2014年の成長率について楽観論に傾きつつあるのは事実だ。これは確かに心強いことだが、楽観的な見通しでさえ、生産と雇用が以前のトレンドを何年間も下回り続けるとの予想に立っていることを念頭に置いて、物事を考える必要がある。

より厄介なのは、経済に大幅な余剰供給力(スラック)が存在し、賃金と物価のインフレ率が鈍化している現在においてさえ、与信基準が緩み、資産価値がインフレを起こす兆しが強まっていることだ。われわれが現在のような金融環境と健全な成長率を数年間享受するとすれば、成長と雇用がトレンド並みに戻りインフレが加速するよりずっと前に、2005─07年に経験したような問題の二の舞が起こることは十分予想できる。

つまり長期的停滞という課題は、単に適度な成長率を達成するのではなく、金融面で持続可能な方法で、それを達成しなければ解決できない。それでは何をなすべきなのか。政策当局者は基本的に3つのアプローチの中から道を選ぶことになる。

第一のアプローチは、経済が抱える根深い供給面のファンダメンタルズとされるものに重きを置く。すなわち労働者の職能、企業のイノベーション能力、構造的な税制改革、社会保障プログラムの長期的持続性の確保といった問題だ。いずれも政治的には難しいとしても、一見して魅力的だし、実際長い目で見て経済の健全性確保に大いに寄与するだろう。

しかし向こう5年から10年という期間では、大きな成果が期待できそうもない。教育における成果と似た類のタイムラグはさておくとしても、現実に米国経済は供給ではなく需要の不足によって制約を受けている。生産能力の拡大は、財やサービスへの需要が増えない限り生産の拡大には直結しないだろう。職業訓練や社会保険改革をとってみた場合、職にありつけた労働者には影響を与えるとしても、就職できる人数には影響しないだろう。実際のところ、供給力を増やす方策はデフレ圧力を増幅させるという逆効果を招きかねない。

近年の米国の政策を支配してきた第二の戦略は、金利と資本コストを可能な限り引き下げながら、金融安定化は規制政策に頼るというものだ。こうした方策を講じなかった場合に比べ、経済が現在ずっと力強さを増し、健康を取り戻したのは疑いようがない。しかし成長率を大幅に下回る金利に長期間にわたって大きく依存する成長戦略は、大規模な金融バブルの出現とレバレッジの危険な蓄積を約束しているも同然だ。規制さえあれば、コストを伴わずに緩い金融環境による成長の恩恵を享受できるという期待は幻想にすぎない。資産価値の上昇と借り入れ能力の拡大は経済を刺激しており、正にプルーデンス規制(金融リスクを抑制する規制)における懸念の種となっている。

第三のアプローチ──これが最も有望だ──は、妥当な成長率と妥当な金利が併存できる状態を回復させる政策を通じ、所与の金利水準における需要水準を引き上げる方針を確約し続けることだ。まずは政府支出と雇用が毎年減少し続けるという悲惨な流れに終止符を打ち、経済の供給力が余っているこの時期をとらえてインフラの更新と補強を行うことだ。供給力の余剰がいかに経済の長期的潜在成長力を損なったかを踏まえるなら、政府が過去5年間にもっと投資していれば収入に対する米国の債務負担は今ごろもっと低くなり、将来の納税者に負担を課すこともなかった可能性は非常に高い。

需要の引き上げは、民間支出の促進を図ることも意味する。エネルギー部門では、化石燃料と再生可能エネルギーの両面で、民間投資を後押しするためにできることが数多くある。石炭火力発電所の交換加速を義務付ける規制を導入すれば、投資拡大と成長押し上げに寄与するばかりか、環境にも良い影響をもたらすだろう。世界経済が問題を抱える中にあっては、貿易赤字の拡大によって米経済から過度に需要が奪われることのないよう、保険を掛けておくという意味でも不可欠だ。

長期的停滞は不可避ではない。正しい政策を選べば、妥当な成長率と金融安定を両立させることが可能だ。しかし米国の抱える問題をきちんと診断せず、構造的な需要拡大を確約しないままでは、不十分な成長と持続不可能な金融環境の間を揺れ動く定めになろう。われわれは、もっとうまくやれる。

(本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*ローレンス・H・サマーズ氏はハーバード大学教授。元米財務長官。

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