[1日 ロイター] - 米疾病対策センター(CDC)は9月30日、米国で初のケースとなるエボラ出血熱の感染を確認したと発表した。これまでの感染者は治療のため西アフリカから米国に帰国した4人で、いずれも医療従事者だった。今回のケースと違うのは、4人のエボラ感染は帰国前に分かっていたことだ。
リベリアに帰郷していた同国国籍のトーマス・エリック・ダンカンさんが、テキサス州ダラスに到着したのは9月20日。その4日後までエボラ出血熱の兆候は現れなかったが、26日に発熱と吐き気を訴えてテキサス・ヘルス・プレスビテリアン病院を訪れた。病院で看護師には西アフリカへの渡航の事実を伝えたが、「軽度かつ通常のウイルス性疾患」と診断され、抗生剤を処方されて帰宅した。ウイルス性疾患に抗生剤を処方すべきではないことはさておき、病院はなぜ帰宅を認めたのだろうか。
米国の医療システムは世界で最も進んでいる。しかし、複雑で非効率でもあり、そうした仕組み上の欠陥が、致死率の高いウイルスに感染している患者を見過ごしてしまったと言えるかもしれない。
筆者は1人の医師として、医療従事者が時として基本をおろそかにすることを知っている。われわれは患者の診察に十分な時間を割かず、彼らの心配や病院に来た理由を理解しないことがままある。患者や他の関係者と十分なコミュニケーションを常に取っているとは言えない。
医療の世界は、最も階層的な職場文化を持つ場所の1つだ。それは指揮命令系統の徹底には良いことだが、一部の意見が他の意見より尊重されることも意味する。例えば、看護師は患者の代弁者としての役割を担うが、医師は時として彼らの懸念をはねつけることがある。
医師同士の間にも、階層は多く存在する。エボラ出血熱のような病気の診断と治療を専門とする感染症の専門家は(筆者もその1人だ)、米国で働く医師の中では最も賃金が低い。感染症を専門領域に選ぶのは、報酬以外の理由があるからだ。
ニュース記事では病院関係者の話として、テキサス・ヘルス・プレスビテリアン病院は、エボラ患者の治療に「準備万端」だったと伝えられている。しかし、患者を自宅に帰す前に、病院がエボラ出血熱のような病気の専門家に診察を求めたとは考えにくい。それが真実であるなら、米国の医療が抱える深刻かつ危険なシステム上の欠陥を浮き彫りにしている。
患者を自宅に帰してしまった要因と思われることは他にもある。米国社会はテクノロジーに夢中になっている。エボラ出血熱と闘う最善の方法として、新薬や新しいワクチンが追い求められているのもそれで説明がつくだろう。医療の現場では、こうしたテクノロジー偏重が、一部で臨床試験や放射線検査への過度の依存につながり、医師が患者と向き合う時間が犠牲になっている。医師の中には、徹底的な身体診察をどうやればいいか忘れてしまったように見える人さえいる。
しかし、エボラ治療薬として期待される実験薬「Zマップ」でさえ、徹底的な身体診察とそれに続く公衆衛生の基礎の代わりにはならない。
こうした医療行為は単純かつローテクに映るかもしれないが、結果に大きな違いを生み出す。病気の進行を未然に防ぐことにつながるのだ。しかし残念なことに、エボラ出血熱の流行などからわれわれを守ってくれる単調な作業を担う保健所やCDCは過去数年、予算の大幅削減が続いている。
リベリア国籍の男性からエボラ感染が拡大するかどうかは、ハイテク化が進んだ米国医療システムにとって良いリトマス試験紙になる。エボラ出血熱の流行は、医療システムが未発達のリベリアやシエラレオネ、ギニアでは、依然として拡大が続いている。しかし、20人のエボラ感染者が確認されたナイジェリアは封じ込めに成功した。セネガルでは、1人のエボラ患者が60人以上と接触していたが、感染は広がらなかった。
今回のテキサス州のケースでは、男性は発症後4日以内に隔離された。もし同州で新たな感染者が見つかれば、それは、世界で最も高額かつ最先端の医療システムの構造上の問題が露呈することにほかならない。
*筆者は、感染症と公衆衛生を専門とする内科医で、医療ジャーナリストでもある。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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