for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up

コラム:ドル105円の扉開く「ゲームチェンジャー」=内田稔氏

[東京 20日] - 米国の長期金利が低下しており、10年債が一時2.3%付近と1年2カ月ぶりの低水準を記録した。また、他の先進国でも同じく長期金利が低下しており、ドイツでは10年債が1%を割り込み史上最低を更新し、日本でも1年4カ月ぶりに0.5%を下回った。

 8月20日、三菱東京UFJ銀行チーフアナリストの内田稔氏は、世界的な長期金利低下にゲームチェンジが起こるとすれば米中経済が震源であり、日本からみた対外金利差の縮小でドル円は105円を上抜けする可能性があると指摘。提供写真(2014年 ロイター)

円金利には下げ余地が乏しいため、こうした世界的な金利低下は日本からみた対外金利差の縮小を通じ、円高要因となりやすい。しかし、以下2点の理由から、この波及経路によるドル円の下落は限定的となりそうだ。

まず、足元では日米間の長期金利差とドル円相場との相関が、著しく低下している。例えば、2013年以降の週次データを用いて、日米の名目長期金利差からドル円を推計すると、8月15日時点は1ドル=99円台となる。

標準誤差も考慮すれば97円台前半に差しかかっても不思議ではないが、当日の下値は101円台半ばだった。為替相場はおそらく2年債など短期ゾーンの金利差を重視していると考えられる。8月に入って、その短期の金利差も縮小しているが、それでも日本の貿易赤字や活発な対外直接投資といった円売りのフローも手伝い、ドル円は底堅く推移しそうだ。

また、一段と米国の長期金利が低下していくとも考えにくい。なぜなら、米国の長期金利が2.5%を割り込んでいた11年から13年半ばまでと比べ、現在の米国は状況が大きく異なるためだ。

例えば、当時の米国は10年11月の量的緩和策第2弾の発動でも景気がさほど浮揚せず、12年の量的緩和策第3弾へと移行した時期だが、現在の米国はその量的緩和を脱しつつある。利上げ開始時期やその後のペースに対する見方は割れているが、正常化をうかがう段階である点に疑念の余地は乏しい。

加えて、当時は折からのユーロ圏の債務危機が先鋭化し、米国債といった高格付けの国債が選好された面もあった。現在、ユーロ圏では景況感こそ冴えないが、債務危機への強い警戒は和らいだ。イタリアやスペイン国債にも、見直し買いが入ったほどだ。

<旬なテーマ「長期金利低下」の賞味期限>

とはいえ、ドル円が浮上するためには、少なくとも金利差の縮小に歯止めがかかる必要がある。そもそも米国の長期金利を、期待潜在成長率、期待インフレ率、財政に対するリスクプレミアムとに分けて考えると、まず今年に入り、クレジットデフォルトスワップ(CDS)市場における米国債への保証料率が低下している。このため、長期金利低下を促した可能性はあるが、両者の相関は過去それほど高くない。主たる金利低下の説明要因とはなりにくいだろう。

また、米国のブレークイーブンインフレ率をみる限り、過去に比べて著しく期待インフレ率が低下したわけでもない。このため、長期金利低下の主因として、米国の期待潜在成長率の低下観測が挙げられる。

実際、米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者による政策金利の最終的な到達水準の見通しも、加重平均値は過去1年で低下した。ただ、その低下幅は23ベーシスポイント(bp)。仮に政策金利の発射台が低くなり、長期金利の水準が調整を迫られるにしても、ここまでの低下は行き過ぎだろう。

加えて、米国の主要な株価指数は史上最高値圏で推移している。長期金利の低下が株高を演出している面もあるとはいえ、それでも潜在成長率の低下懸念と堅調な株式相場というのは不釣り合いだ。

結局、足元で進む長期金利の低下は、潜在成長率の低下や地政学リスク、FOMC主要メンバーのハト派スタンス、ユーロ圏で台頭する金融緩和の長期化観測などを口実とした市場参加者にとっての「旬なテーマ」との側面が強いとみている。何かのきっかけでテーマが変わるとゲームチェンジ、すなわち長期金利が下げ止まる可能性が高いのではないか。

<米中経済次第で流れは一気に変化か>

こうしたゲームチェンジが起こる原因は、やはり米・中といった2大経済大国の動向となるだろう。まずは、米国の経済情勢や金融政策に対する見方が変わるときだ。

具体的には、米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長が6月に一時的なノイズと受け流した消費者物価の上昇がノイズではないとの見方に変わるとき、イエレン議長が低インフレや労働市場の弛みの表れと指摘する賃金の動向に変化が生じるとき、正・副議長などから正常化に前向きなヒントが示されるときなどだ。

ただ、当面の間、こうしたことが起きる可能性はまだ低いだろう。イエレン議長は、賃金が多少上がった程度では、金融緩和重視の姿勢を覆すとは考えにくい。このため、物価や賃金を示す経済指標の変化が積み上がるまで、まだ時間を要するだろう。

一方、第2の経済大国、中国の経済動向に強い関心が必要だ。例えば、米国と英国、ドイツの長期金利を単純に平均すると中国の実質国内総生産(GDP)の伸びや製造業購買担当者景気指数(PMI)との相関が高い。中国の成長ペースの鈍化が、先進国の長期金利低下の一因である可能性もありそうだ。ところが、その中国では前年比でみた第2・四半期の実質GDPの伸びが政府目標である7.5%成長を回復し、成長鈍化には一服感もみられる。

製造業PMIは、第3・四半期に入ってからも改善が続いている。中国経済をめぐっては、不動産市況の悪化といった懸念材料も少なくないが、小規模ながらもこれまでの景気対策が奏功し、成長鈍化に歯止めがかかる可能性がある。

さらに、景況感などを考慮した当局の意向も働く人民元の対ドル相場も、こうした変化と時期をほぼ同じくして6月を底に反発している。中国経済の底入れの兆しを市場が読み取るとき、ゲームチェンジとなる可能性は低くない。

値動きが小幅であったり、上値の重いことが注目されがちなドル円相場だが、米国の長期金利低下の度合いに比べれば、下値の堅さも顕著だ。まだしばらく時間を要するかもしれないが、ゲームチェンジによって対外金利差の縮小に歯止めがかかるとき、ドル円は105円台を上抜けし、新たな局面を迎えると予想している。

*内田稔氏は、三菱東京UFJ銀行の市場企画部グローバルマーケットリサーチチーフアナリスト。1993年、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、国内外での外国為替のトレーディングやセールスを経て、2007年よりリサーチ。2013年J-money誌第23回東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では個人ランキング1位。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up