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コラム:「ドル110円超えシナリオ」復活へ始動=田中泰輔氏

[東京 21日] - 円もユーロも歴史的なこう着相場を脱すべく、変節を迎えつつある。過去40年余の変動相場制におけるドル指数(貿易加重の総合為替レート)の年間値動きを比較すると、最も小幅だった第1位が2014年(直近まで)、第5位2013年、第6位2012年、第10位が2011年である。

 8月21日、ドイツ証券チーフ為替ストラテジストの田中泰輔氏は、ドル円相場について、近々105円台に至れば、3―12カ月後110円超へと一気に市場予想の視界は広がると分析。提供写真(2014年 ロイター)

近年、米欧日の金融危機後の低経済成長、ディスインフレ、超低金利というマクロ環境自体が為替の値動きを抑制してきたことがうかがわれよう。加えて今年は、米景気回復で株高・ドル高・金利上昇になると想定したポジションが、年初に米国を襲った厳しい寒波の影響で損失を被ったため、市場参加者の多くが出鼻をくじかれた。

ただ、ここから逆に、為替相場のこう着を脱する条件が見える。要は、景気や金利が持続的で明快な方向性を持って変化し始めること、そして、投資家や投機筋がその流れに沿って相場への参加を再び活発化させることに尽きる。マクロ環境の変化の先導役として最も期待されるのは、景気の自律回復サイクルを進める米国である。

米国では順当に企業投資が上向き、雇用が伸び、消費も底固さを増すと期待される。寒波後の回復が鈍かった住宅建設も、先行指標のNAHB/ウェルズ・ファーゴ住宅建設業者指数が示唆した通り、7月データは大きく改善した。7―9月期の米国内総生産(GDP)成長が3%を超えそうと観測されれば、来年の連邦準備理事会(FRB)の利上げが前倒しされうるとの期待とともに、金利先高見通しが強まろう。

ドル円は102円中心のこう着が数カ月続いた結果、市場の相場目線は自ずと低くなり、年末予想の平均は105円にまで下がった。しかし7月末、強い米4―6月期GDPデータを見て103円台に達した途端、年末までに108円もありうるとの上方修正が相次いだ。近々105円台に至れば、3―12カ月後110円超へと、一気に市場予想の視界は広がろう。

<ユーロ安がドル高観を補強>

米景気の自律回復がドル高を促しつつある一方、ようやくユーロが下落し始めた。南欧債務問題の後遺症で、ユーロ圏の経済成長率は低く、欧州中央銀行(ECB)はなけなしの金融緩和策の工夫に腐心し続けよう。米国との景気、金融政策格差に照らせば、ユーロは対ドルで劣勢と判断された一方で、2012年夏から2年近く予想外の強さを保った。

このユーロ高の背景を、欧州の経常黒字化やディスインフレ化に求める解説が巷間出回った。しかし為替変動の中期ダイナミズムは、もっぱら金融マネーの移動による部分が大きい。経常黒字化やディスインフレ化という時間軸の異なる要因をシグナルとして使うと、今回のようなユーロ相場の変節を捉え損なってしまう。

要は、1)ユーロ崩落を警戒した巨額ショートの巻き戻し(2012年夏以降)、2)危機の後処理としての欧州金融機関の海外資産回収(2013年以降)、3)ユーロと欧州資産の相場回復が投資家に迫ったユーロ資産過少保有分の修正買い(2013年以降)などの金融フローが一巡し、ユーロが順当に下落しやすくなってきた。今後ドル高はユーロ安を促し、ユーロ安はドル高観を補強し、来年のユーロドルは1.2ドル台を低下していくと見る。

<新興国通貨は波乱含みの展開へ>

米景気の自律回復は、欧州や中国の景気を支える一助になる。主要国が何とか景気回復サイクルを辿る時、脆弱だった新興国経済にも底固さがじわり広がろう。新興国通貨も昨年のように下がるばかりではないと見直され、いくつかは失地回復に向かうだろう。ただし、手放しで買い進められるほど盤石な通貨はほとんどない。

投資家に人気の高金利新興国通貨は、基本的に経常赤字を計上し続ける借金国(だから高金利)である。景気が良好なら、高金利目当てに海外マネーが流入し、経常赤字のファイナンスは円滑になり、通貨高がインフレ抑制に効く好循環が生じる。しかし今サイクルは、経済成長は緩慢で、赤字ファイナンスも安定せず、通貨も脆弱さを拭えない。

一部の国は投資家に嫌気され、通貨が下値を割れ、「悪い新興国」のレッテルを貼られるリスクを排除できない。しかし米国・世界経済が回復歩調を強めると、南アフリカ、ブラジル、トルコ、インドネシアなどの脆弱通貨にも三進二退で上向くものが増え、「良い新興国」の物色買いが戦術として折々に功を奏しやすくなる。

逆にこれまで良好なパフォーマンスを見せてきた英ポンド、ニュージーランドドル、韓国ウォンなどは、順当にドル高機運が強まる時、積み上がったロングの巻き戻しで反落する展開がありうる。他の新興国通貨も全般に、米金融緩和の解除観測が強まると、海外マネーが逃げ出すとして不安定化する場面があろう。

<円から見る為替投資は明るい>

米国が先導して世界経済が回復に向かう展開は、昨今の閉塞状況を脱する唯一「前向き」のシナリオと言って過言でない。しかしその場合も、多くのリスク通貨に脆弱さが残り、これまで強かった通貨は不安定化する場面がありそうだ。ドルベースの国際投資家は単純にはリスクオンモードになりにくい。

しかしドル高は円安を促し、円安は少なくとも110円超まで日本株高を伴いやすい。円ベースの日本投資家には、対ドルで不安定ながらも底固さを見せ始める高金利リスク通貨は相対的に買いやすい。9―10月は、3%超の成長ペースに見合う米指標、連邦公開市場委員会(FOMC)、安倍改造内閣、公的年金(GPIF)の動向を注視しつつ、この「前向き」シナリオの始動を期待する。

*田中泰輔氏は、ドイツ証券のグローバルマクロリサーチオフィサーでチーフ為替ストラテジスト。日本長期信用銀行、クレディ・スイス、野村証券などを経て、2011年11月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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