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コラム:ロシア危機で「リスクオフの円高」到来は本当か=村上尚己氏

[東京 19日] - 2014年は米連邦準備理事会(FRB)が粛々とテーパリングを終了させる中で、米国経済は堅調な成長を果たし、世界経済もそれに支えられて安定成長が実現した。金融市場では、企業業績改善を反映して株高トレンドは崩れず、そして日銀の金融緩和で日本株の出遅れはかなり解消した。

 12月19日、アライアンス・バーンスタインのマーケット・ストラテジスト、村上尚己氏は、原油安やロシア情勢に絡めた「リスクオフの円高」予想は根拠の薄い神話だと指摘。提供写真(2014年 ロイター)

また、為替市場では「米国一人勝ちによるドル高」が鮮明になり、年初に多くの市場参加者が想定していたとおり円安が進んだ。2013年に続き、14年も多くの投資家が幅広くリターンを高められるマーケットだった。

ただ、12月になって原油価格急落をきっかけに米国株が再び調整するなど、2014年は年末に再び波乱を迎えた。10月初旬に原油先物価格(WTI)が90ドル/バレルを下回り、その時からすでにWTIの歴史的急落は始まっていた。石油輸出国機構(OPEC)による生産量引き下げへの期待が秋口からたびたび高まったが、実際にはOPEC内の不協和音が伝わるだけで、産油国による増産が続く一方で原油減産は全く決まらず、供給過剰状態が長引く懸念が市場で強まり続けた。

そして、11月末の米国の感謝祭の祝日前後に、OPECが当面の生産目標を維持することが決まると、WTI下落にさらに拍車がかかり、ついに70ドルを割り込み、2010年以来の低水準まで下落した。12月になっても原油価格下落は一向に止まらず、月半ばについに50ドル台まで下がり、2カ月余りでWTIが約40%も下落する歴史的急落となった。

原油価格下落が始まった秋口の時点で、ベネズエラを筆頭に、産油国は経済的苦境に直面してきた。原油安が止まらなければ、一部ではあるが資源関連企業やそれを支援する政府は、資金繰りなどファイナンスの問題に直面する。クレジット債券市場においてハイイールド債券のスプレッドは一時大きく拡大した。

ロシアでルーブル安が続いていたのは、原油安と連動した産油国通貨売りが起きただけではなく、国全体が巨大なエネルギー企業といえる同国が対外収支を安定させる対処策をとったことも要因の一つである。ただ、ルーブルの減価幅が50%前後に拡大するに至り、ロシア政府は通貨安の弊害にも配慮せざるを得ない状況に直面し、12月16日、ロシア中銀は政策金利を一挙に17%へ650ベーシスポイント(bp)もの歴史的な利上げを決定した。

そして、急遽決まった中銀の大幅利上げでもルーブル安が続いたため、「ロシア危機再来」などというメディアのヘッドラインが相次いでいる。

ロシア中銀の対応によって、すぐさまルーブル安に歯止めがかかるかどうかは何とも言えない。ただ、これまでの中銀の一連の対応は、ルーブル安を容認した政策を含めて現実的な対応にみえるし、またロシアの外貨準備規模や対外収支の状況を踏まえれば、通貨安定を実現する対応余地は十分あると思われる。仮にルーブル安が止まらなければ資本規制導入などもありえるだろう。

<「リスクオフの円高」は根拠薄弱の神話>

振り返れば今年初めに、政情不安が高まり通貨安が続いたトルコにおいて、中銀が大幅な利上げに踏み出した当時も市場参加者の多くが驚いた。ただ、通貨安が進み資産が割安に放置されれば、いずれ買い戻されるというシンプルなメカニズムが働く。長期間のルーブルの実質実効レートをみると、最近の大幅下落により1998年のロシア国債デフォルト時の下落率となり、そして通貨の水準も当時の最安値付近に接近している。

筆者は、今年春先以降にクリミア半島をめぐり激化したロシアと米欧の長引く軍事的な緊張と、それが経済や金融市場の価格形成に影響を及ぼした帰結として、最近のルーブル安を位置づけできると考えている。「ロシア危機再来」とメディアなどでは今騒がれているが、東西冷戦再来と言われるほどの軍事的緊張が始まったなら、むしろ「危機」はすでに起きていたと言えるだろう。最近の原油下落やルーブル下落は「危機再来の予兆」というより、「過去の危機が引き起こした長期的な帰結」なのではないか。

ロシアの事態がさらに深刻になるかどうかは、軍事的緊張が一段と強まるかどうかによるだろう。もちろん、クリミア半島における軍事紛争という地政学リスクの中心にあるロシアの複雑な政治利害を踏まえると、今後の予想は極めて困難である。ただ、足元では、地政学的な混乱により「原油安とルーブル安」の相関関係が長期化するとの期待が強まっているように思われる。複雑な国際政治事情を読み解くのは難しいはずだが、現在の状況が深刻になるという一方的な期待だけが広がっているようだ。

また、ロシア情勢など地政学リスクを背景とした投機的な思惑が、最近の原油価格急落の主たる要因であるとの見方が多い。ただ、実際には、原油・エネルギー市場の需給構造の変化という10年超の長期サイクルが下向きに転じる中で、最近の原油価格の大幅な価格下落は説明できると、筆者は考えている。つまり、原油価格下落は未来の危機の到来を示す市場の警告ではなく、「起こるべくして起きた下落」ということである。

原油価格下落による金融市場の変調と同時に、12月になって起きているドル円相場の円高について、「リスクオフの円高」など曖昧な後付け解説をメディアで目にするようになった。ただ、「リスクオフ(=米金利低下)の円高」は、筆者には根拠が薄い神話にしかみえない。

そのストーリーにこだわっていた一部市場参加者は2014年の円安進行のコンセンサスに逆らおうと試みたが、結局失敗したように思われる。仮に円高に振れる場面があっても、FRBが来年、スムーズに利上げを始める中で、その円高は一時的なアヤに過ぎないだろう。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタインのマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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