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コラム:2015年は「逆プラザ」への一里塚=斉藤洋二氏

[東京 30日] - 2013年12月27日付の本連載のテーマは、「2014年も続く円安への歴史的大転換」だった。その骨子は、歴史は短期、中期、長期の3つの波により決定されるとするフェルナン・ブローデルの歴史観を援用し、短期予測はノイズの影響で難しいが長期予測は可能と説いた。

 12月30日、ネクスト経済研究所の斉藤洋二代表は、日銀の金融緩和は円安政策と言うべきものであり、日本はドル高の水準訂正だったプラザ合意と正反対の「逆プラザ」への道を歩み出したかのようだと指摘。提供写真(2014年 ロイター)

実際、日本の未来は中期的に見れば人口減少、長期的にはエネルギー確保の不安を要因に国家の衰退が進んでおり、必然的に通貨「円」は下落するとした。さらに短期的には黒田プット(庇護)に支えられたリスクオンの動きも相まって、円安が進捗すると予測した。アベノミクス2年目の2014年を振り返ると、東京株式市場は2013年の50%には及ばないが10%程度続伸し、円相場は2012年11月の衆院解散時の81円近辺から2013年末105円、さらに2014年は一時122円近辺まで下落した。

2015年も運命的な国家衰退の流れに逆らうすべもなく、貿易収支・財政収支の双子の赤字も加わり円安地合いが続くだろう。ただ近視眼的に見れば、円相場は原油安によるドル需給の緩和を受けて円高の動きを示す場面が増えるかもしれない。しかし、1971年のニクソンショックに始まった40年にわたる円高はすでに終焉しており、2015年は75円(2011年)をピークに円安への歴史的大転換が始まっていることを確認する1年になるのではないだろうか。

<アベノミクスは正念場の第2幕へ>

アベノミクス第1幕は株高円安が進んだ結果、企業業績改善や失業率低下など一定程度の成果が見られたが、国民全体に富が浸透する、いわゆるトリクルダウンの効果は表れず実質給与の低下に個人消費がもたついた状態で幕を閉じた。

アベノミクス第2幕は国民の信任を受けて、消費税再増税が実施される2017年4月に向けデフレ脱却と成長促進を目指して政策手段が総動員されることになるだろう。

具体的には「3本の矢」のうち「第3の矢」の実現が課題だ。アベノミクスの政策評価としては、浜田宏一・内閣官房参与(イエール大学名誉教授)が2013年11月15日の講演で、「3本の矢」を大学の通知表にならって金融政策A、財政政策B、成長戦略Eと採点したことが有名だが、実際のところ、金融政策は時間稼ぎに過ぎず、財政政策による需要拡大の効果が薄れつつある現状、供給サイド改革の本気度が問われている。

ただ過去2年、さまざまな目標が掲げられたが、既成勢力を前にして構造改革遂行の難しさは明白である。

また、例えば鋭く切り込んでいる人口問題を見ても、女性に対して労働参加を求める一方で合計特殊出生率を2013年の1.4程度から1.8程度へ上げるなど女性の頑張りに対する期待の高さは尋常ではない。果たしてアベノミクスは少子化が進む人口動態に劇的変化を与え国家衰退の速度を落とすことができるのか。このように「第3の矢」の多くが画餅に終わる疑念を拭えないが、ともかくその行方を見守るしかないだろう。

仮に成長戦略が有効に機能することになったとしても遅効的である点は否めず、当面は「第1の矢」である日銀による量的・質的金融緩和政策の動向が注目されることとなる。すでに日銀のバランスシートは国内総生産(GDP)比60%に達し、20%台の米連邦準備理事会(FRB)、イングランド銀行(英中銀、BOE)と比べても突出していることから、その資産を対価として発行される通貨「円」の信認に疑念が生じる可能性が高まる。

しかし、2015年度を中心とする期間にコア消費者物価指数が2%程度に達することを目標とする限り、現行の金融緩和政策に著変はないだろう。加えて本指数は2014年10月、11月と2カ月連続で1%を切り(除く消費増税の影響)、6月の直近高値水準に比べ40%以上も下落している原油価格がさらに下押し作用として働くのは必至だ。したがって、追加緩和策の実施を督促する市場の声は再度高まっていくだろう。米国における出口戦略はテーパリングを終え利上げ時期の模索へと移行しているが、日本においては黒田総裁の任期が満了する2018年春まで語られることがないとの見方も浮上している。とすれば、米国と日本との金融政策の方向性の違いは円安基調を下支えすることになるだろう。

一方、2012年11月より50%に及ぶ円下落の実体経済への影響を見ると、雇用状況は改善されつつあるが設備投資に目立った動きが表れていないことは、今後日本経済の成長を見通す上での懸念材料だ。輸出数量の増加に伴い(中小を含めた)企業活動が活性化すると期待されたが、数量効果の実現に手間取っている。

企業のリショアリング(本邦回帰)が本格化する動きも乏しい。これまで日本企業の海外シフトは円高対策を主たる目的として行われてきた。同時に付随効果として中国・東南アジアの労働コストの低さもまた魅力的であり、このメリットを織り込んだ上での国際分業体制が定着した。

その結果、今後円安へと多少振れたとしてもリショアリングの動きが奔流となる可能性は乏しく、国内における設備投資が本格的に喚起される可能性は低い。つまり現下の円安は、国内の生産を拡大するメリットが限定的であるのに対し、輸入物価の上昇によるインフレ税として国民の肩にのしかかる負担感は大きい。

それでもこの2年間の円安・株高は株式保有者にキャピタルゲインをもたらし、また多くの輸出企業の業務利益を拡大させた点において「良い円安」と呼ぶことができた。しかし、今後さらなる円安は、交易条件の悪化や国民生活の圧迫、さらに長期金利上昇に伴う国債利払い増大による財政悪化など「悪い円安」の側面が強まることになるだろう。

<ドル173円を一笑に付せるか>

1985年9月22日のプラザ合意を機に、米国のドル安政策に同調したG5によるドル売り協調介入が続き、円相場は1ドル240円水準から1年半後には150円へと下落し、ついにルーブル合意により同水準で逆介入が行われるに至った。その後円相場は、折からの貿易収支黒字下において円高推移を続け1995年に79円に達した。

現在日銀の行う金融緩和政策は円安政策と言うべきものであり、日本はドル高の水準訂正であったプラザ合意と正反対である円高(ドル安)の水準訂正、つまり「逆プラザの道」を歩み出したかのようである。

実際、貿易収支は2011年を境に、1981年以来30年続いた黒字から赤字へと大きく転換している。加えて、外国証券投資比率の40%への引き上げを発表した年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に代表されるように、国内の機関投資家そして個人投資家はインフレそして円安による円資産の減価を防ぐためにポートフォリオ・リバランスによる海外投資、すなわちキャピタルフライトを積極化させており、その流れは定着したと言えよう。

ちなみに、長期チャートを眺めれば2007年の124円が円相場の当面の目標水準となっているが、そのポイントがブレークされれば、その次の目標は1998年の147円となる。そして、さらに75円(2011年)をトップに124円をネックラインとすればトップとネックラインとの差(124円―75円)が49円あり、結果として円相場は173円(124円+49円)を目指すと読むことができる。

このようなチャート的思考を一笑に付すことは容易だが、日本経済を取り巻く環境が激変しているとすれば心に留め置く価値はあるだろう。

世界は人口増大と技術革新で成長を図っている。かかる状況下、ひとり日本は、人口が減少する一方で、産業競争力の衰えにより「ものづくり国家」の屋台骨が揺らぎ始めており、為替調整への依存度が高まっている。2015年は「逆プラザ」への一里塚になるのではないだろうか。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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