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コラム:現実味増すギリシャのユーロ離脱=嶋津洋樹氏

[東京 23日] - 2009年10月にギリシャが過去の財政赤字を過小評価していたと暴露して以降、筆者は一貫して同国のユーロ離脱リスクは極めて低いと主張してきた。しかし、さすがに今回は違うことになりそうだ。

 2月23日、SMBC日興証券・シニア債券エコノミストの嶋津洋樹氏は、20日の支援延長合意でギリシャのユーロ離脱リスクが消滅したわけではなく、新たな支援の枠組みが離脱の準備に替わる可能性もあると指摘。提供写真(2015年 ロイター)

ユーロ圏は20日、ギリシャ向けの支援を4カ月延長することで暫定的に合意したが、同国のユーロ離脱シナリオは今や真剣に検討すべき段階に入ったと考えている。

そのように考える理由は、ユーロ圏にとってギリシャを救済するコストが割に合わなくなったからである。例えば、過去の欧州債務危機で見られた周辺国債の対独国債スプレッドの拡大は今回、セーフティーネットの整備や欧州中央銀行(ECB)の金融緩和などが奏功し、ほとんど見られない。

ドイツやフランスなどの大手金融機関はすでにギリシャ国内の支店網や子会社を売却。ギリシャ向けの債務が残るのは国際通貨基金(IMF)や欧州金融安定ファシリティー(EFSF)、ECBなど、公的色彩の濃い国際機関ばかりである。こうしたことは、ギリシャに不測の事態が起こっても影響が限られる可能性を示す。

しかも、ギリシャの「(現行の支援)覚書は(総選挙の行われた)1月25日に無効となった」(サケラリディス・ギリシャ政府報道官)という立場をいったん認めれば、それがユーロ圏のその他の主な重債務国(ポルトガルやイタリア、スペイン、アイルランド)の政治に大きな影響を与えるのは必至だ。

今回のギリシャの要求に対し、ドイツなど財政規律の厳格さを重視する欧州北部の国だけではなく、南欧の国々も冷ややかなのはそのためである。ギリシャがユーロ圏から離脱した場合の影響が、ユーロ圏だけでなく、ギリシャに深刻な事態をもたらす可能性があることを踏まえれば、それを域内の反ユーロ勢力に対する「見せしめ」にするという政治的な思惑すらあっても不思議ではない。

<ギリシャ版リーマン危機は杞憂>

また、ギリシャのチプラス首相やコジアス外相がドイツに対し、ナチス時代の賠償請求を検討していると明らかにしたこと、バルファキス財務相がイタリアに破綻のリスクがあると語ったこと、カメノス国防相が米国やロシア、中国などユーロ圏以外に支援を求める可能性を示したことなども、一連の交渉と直接的な関係がないとしても見過ごせない。

少なくとも2国間ないし多国間の基本的な信頼関係に良い影響をもたらすことはなく、ギリシャは「信頼できない」との雰囲気が広がるだけである。ユンケル欧州委員会委員長がギリシャについて、「他国の政権に比べて機能が劣る」と述べ、ドイツの当局者がそもそもギリシャ側からあった6カ月の融資延長要請について、「トロイの木馬」と評したのはユーロ圏各国のギリシャに対する不信感の表れと言える。

一方、ギリシャにはユーロ圏の要求を拒否するだけの政治的、経済的な余力がない。上述した通り、米国やロシア、中国などに支援を求めるというが、少なくとも米国にギリシャを救済するだけの財政的な余裕があるとは考えにくい。ロシアには、ギリシャへ協力することで北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を阻止するという政治的なメリットは期待できるものの、原油安が続き、欧米から経済制裁を受けるなか、やはり財政的に厳しいだろう。

中国は財政的な余裕があるうえ、対米国、対欧州の戦略的な拠点としてギリシャに投資する意欲を示しているが、肝心の港湾や空港の民営化計画が白紙撤回。ギリシャに投資することの意味は大幅に後退した可能性が高い。

今回の暫定合意の内容を評価するまでもなく、ギリシャには結局、ユーロ圏の要求をほぼそのまま受け入れるという選択肢しか残っていなかったのである。そして、このことが筆者にこれまで「ギリシャはユーロ圏に残留する可能性が高い」と確信させてきたわけだが、ギリシャは現在、政治的な経験に乏しく、手腕が未知数のチプラス首相に率いられている。

今回はとりあえず、チプラス首相が公約として掲げてきた緊縮財政の緩和が認められたと言えるが、あくまで暫定的な合意に過ぎない。チプラス首相の指導力が問われるのはこれからだ。筆者はユーロ圏がギリシャにこれまでと同様の緊縮財政の継続を迫ることで、ユーロ離脱を選択するリスクは残ると見ている。

もっとも、ギリシャがユーロ圏から離脱したとしても、リーマンショックのように世界経済が大きく落ち込むようなシナリオは描きにくい。もちろん、ギリシャ経済は混乱し、金融市場への影響も小さくないと考えられるが、世界的な金融緩和が混乱を和らげる可能性が高い。

少なくとも1990年以降、ある地域での危機が世界的な金融システム不安として実体経済に打撃を与えたのは、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策が引き締めの最終局面にある場合(メキシコ危機、アジア危機、ロシア危機、リーマンショック)か、FRBの金融緩和に対し、ECB(ユーロ誕生以前は旧独ブンデスバンク)が金融引き締めを続ける場合(欧州通貨制度危機、東欧危機)に限られる。今後1年程度でそうした環境が整うとは考えにくい。

もちろん、ユーロ圏とギリシャとの間で妥協が成立する可能性も十分にある。ただし、ギリシャがユーロ圏の求める財政再建や構造改革を拒否することにこだわる限り、対立の火種は消えない。そうこうしているうちに、新たな支援の枠組みがギリシャのユーロ離脱に向けた準備に替わることもあり得るだろう。

実際、ECBがギリシャのユーロ離脱に備えて対応策を検討しているとの報道も出ている。また、マルタのシクルーナ財務相がメディアのインタビューで「ギリシャに対して、本当に離脱したいのなら離脱すればよいという段階にドイツなどの諸国は達した」と発言したのも気になるところだ。

欧州では第2次世界大戦後も、旧ソ連や旧ユーゴスラビアなど、国家の分離・独立という歴史が続いてきた。その際、軍事的な衝突などで悲惨な結果を招くこともあったが、チェコとスロバキアのように、軍事的な衝突どころか、金融市場の混乱もない事例もある。ギリシャが平和裏にユーロ圏から離脱するということも、意外と現実味のあるシナリオに思える。

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントを経て2010年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとして、日米欧の経済、金融市場の分析に携わる。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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