for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up

コラム:ドル円上昇を阻む「隠れた円高要因」=熊野英生氏

[東京 4日] - 2015年に入って、ドル円レートはおおむね横ばいで推移している。昨年来、円安予想が根強くあるが、今のところ、肩透かしを食わされているのが実情である。

 3月4日、第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は、円安が足踏みする背景には、日銀追加緩和期待の後退という「隠れた円高要因」があると指摘。提供写真(2015年 ロイター)

一方、ドルの名目実効レートは、リーマンショック直後の09年3月以降で最高のドル高水準である。実効ドルとは、円だけではなく他の全通貨に対してドルがどのくらい割安・割高になったかを計算したレートだ。14年秋からは、資源国通貨が対ドルで売られる流れが強まっているので、実効ドルが上昇したことは直感的に予想がつくだろう。

現在のドル円は、他通貨が対ドルで割安になっているほどは円安になっていないというのが筆者の見立てだ。つまり、「隠れた円高要因」が作用して、実効ドルに対してドル円は、円安方向に進まないでいるという理解である。

<物価は4月にマイナス転化へ>

実効ドルとドル円の間には微妙な連動関係がある。両者の推移を見比べると、14年1―8月まではほとんど一致した動きをしていた。この時期はシンプルに「ドル高=円安」のバランスが保たれていた。

その後、14年9月以降には、円はドルとの関係よりも円安方向に向かって動き出す。10月31日には、日銀の追加緩和があって、円はドルと大きくかい離して円安方向に振れた。とはいえ、この大幅なかい離は長続きせず、14年12月頃からは徐々に解消していっている。

筆者は、実効ドルを大きくかい離した円安は日銀金融政策の所産だと考えている。円安が実効ドルからかい離した幅は、11月と12月は7円から10円まで広がった。当時は15年4月の早期緩和の見方が強かった。それが最近は後退してきている。だから、円安圧力が減圧して、ドル円レートでみた円安が足踏みしている。

目下の追加緩和の予想について述べておくと、早期緩和見通しの焦点は物価指標にある。2月の消費者物価指数が、前年比マイナスに転じて、データの発表(3月27日)直後の4月中の政策決定会合で追加緩和を決めるというシナリオである。

なお、筆者は、物価のマイナス転化は4月(5月29日発表)だと予想している。また、原油下落に反応した表面的な物価上昇率を判断材料として、日銀は追加緩和には打って出ないとみている。たとえ消費者物価がマイナス転化しても、必ずしもインフレ予想が下を向くわけではない。

名目長期金利と物価連動債利回りの差分で計算する期待インフレ率は14年秋には低下していたが、15年に入るといくらかプラス方向に戻っている。原理的に原油下落は、景気を刺激して、需給ギャップをプラス方向に向かわせる作用をもたらすことが、日銀が物価指標に単純に反応しないとみる根拠である。

<ドル円の下値めどは115円か>

さらに言えば、政府が今以上の円安進行を望んでいるかどうかも疑わしい。4月には統一地方選挙を控えて、中小企業の原材料高騰を意識させる円安には抵抗感があるだろう。現在は、円安と連動しないかたちで、日経平均株価が上昇している。株価上昇のために是が非でも円安が必要という状態ではなくなっている。

政府・日銀が優先課題として望んでいるのは、「マクロ経済の好循環」の実現だ。3月は、中旬に春闘の集中回答日(18日)を控えている。ここで14年を上回るような賃上げの回答が得られれば、勤労者にとっては実質賃金の上昇が見込まれる。

月次の消費者物価が春以降にマイナスに転じるとすれば、実質賃金のプラス幅はより広がることになる。黒田総裁や政府関係者が期待するのは、消費者物価の表面的な数字よりも、実体的な変化だろう。

政府・日銀としては、いよいよ賃上げが成果を上げて、経済の好循環が強まることで、アベノミクスの成果を喧伝できる。「一本目の矢(金融政策)」に過度に依存した状態を徐々に抜け出し、4月以降は、法人税減税がそれに後押しを加えるという構想が描かれている。

日銀にとっても、円安による輸入物価上昇だけで2%の物価目標を達成するつもりはないだろう。だから、賃上げの効果を見極めることを優先するだろう。反対に、4月緩和に打って出ると、円安だけに依存した状態から抜け出しにくくなる。

一方、4月に消費者物価が前年比マイナスに転じても、日銀が動かないということになれば、今もくすぶり続ける追加緩和予想による円安期待は、反動として円高圧力に変わってしまうというリスクも考えられる。

ただし、その点について、筆者はそれほどショックが拡散しないとみる。すう勢的なドル高がクッションになって、ドル円レートは名目実効ドルのレベルに収れんするかたちで落ち着くと考える。現在のレベル感では実効ドルに相当する水準は1ドル=115円前後である。追加緩和の期待が裏切られたときには、一時的に円高になっても、いずれ115円程度に向っていき、その後、再びゆっくりと円安方向に進むだろう。

さらにその先で円安が進むとすれば、米経済が利上げのハードルを乗り越えて、金融緩和に依存しない経済成長をしっかりと確認できたときである。筆者は、それが簡単に実現できるとは考えないが、年内のどこかではみえてくると考えている。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up