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コラム:米FRBは「利上げ」時機を逸したか=鈴木敏之氏

[東京 21日] - 米金融政策の行方について不透明感が高まっている。政策の正常化、利上げ開始の看板は掲げ続けるが、実際の行動に移れるかが定かではなくなっている。第1四半期の成長率は前期比年率0.2%にとどまり、その後の経済指標も不冴えだからである。

 5月21日、三菱東京UFJ銀行・シニアマーケットエコノミストの鈴木敏之氏は、米金融政策の行方は極めて不透明になっており、利上げの時機を逃した可能性もあると指摘。提供写真(2015年 ロイター)

20日公表された4月28―29日分の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨では、6月利上げへの慎重姿勢が示された。ただ、弱い経済指標も散見されるものの、金融政策の正常化、利上げ開始に進まなければならないという議論は揺らいではいない。

米国の失業率は5.4%まで低下している。失業率低下がタイムラグを伴って賃金の上昇要因になるとすれば、もう安心はできない。実際、港湾ストや小売チェーンの賃金引き上げに表れているように、労働需給は引き締まり始めている。

失業保険申請件数も減っていて過熱圏である。自動車は年率1646万台も売れており、住宅着工件数も年率113万戸の高水準で推移している。株価も堅調だ。このまま、今のゼロ金利と4.5兆ドルの中銀バランスシート規模を維持すると、どこかで金融不均衡(バブル)が膨張し、将来の禍根となりかねない。

イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長自身も、株高の行き過ぎを懸念する発言をしている。もし、労働需給の引き締まりが賃金上昇の嵐を引き起こせば、利上げが手遅れ(Behind the Curve)となり、債券価格が大きく崩れた後、その高金利をめざして世界中から米債市場にマネーが流入しかねない。その裏側では、他の多くの市場・国がマネー流出に見舞われることになる。

もともと世界経済は現在、成長の勢いが不足している。そのようなときに、市場の動揺が起きれば、影響は計り知れない。金融政策の正常化、利上げ開始が遅れることは本来、許されるものではない。

<それでも利上げが難しい理由>

このように利上げ開始の意向は揺るがないだろうが、足元の指標の動きが不冴えで、FRBが掲げている利上げ開始の条件が満たされていないと解釈される可能性はある。経済の落ち込みが、冬場の寒波と西海岸の港湾ストという一時的な要因によるものなのか、それとも原油価格の低下が産油国である米国経済にダメージを与えているのか、あるいは得体の知れない貯蓄率の高止まりによるものなのか、見極めがつかない。

第1四半期の0.2%成長をほぼ正確に推計していたことで注目されるアトランタ連銀の「GDP Now」では、第2四半期の成長率を前期比年率0.7%としている(19日時点)。第1四半期が0.2%(おそらく改訂でマイナス成長に転落)、第2四半期が0.7%という組み合わせでは、2015年に2%強の成長というFOMC見通しの実現が危ぶまれる。

また、4月の雇用統計は3月の落ち込みから改善したものの、19の雇用関連指標からなる労働市場情勢指数(LMCI)は3月、4月とマイナスの状態が続いている。これでは、雇用の改善という利上げ開始条件が満たされているとは言い切れない状況だ。FRBは、確度が高くないと利上げ方向の行動は控えるところがある。第2四半期の数字が0.7%のような弱いものであるならば、第3四半期の数字を待たなければならず、その発表は10月末になり、9月のFOMCに間に合わない。

なお、季節調整の歪みがあり、第1四半期の数字はそれほど弱くないという見方がサンフランシスコ連銀から示されて話題になっているが、その修正をすれば、別の期の数字をどこかで下げなければならない。2015年の成長見通しが未達となる懸念が解消されるわけではない。先述したFOMC議事要旨では、インフレ目標の引き上げという追加緩和の話題まで登場している。

つまるところ、米金融政策の行方は極めて不透明になってしまった。景気先行指数はすでにピークを打っている。景気拡大の勢いも鈍り始めている。米国経済だけが強い「一強他弱」と言われたときに、忍耐強さを発揮せず、ゼロ金利だけでも解除をしておけばよかったという後悔はないだろうか。

*鈴木敏之氏は、三菱東京UFJ銀行市場企画部グローバルマーケットリサーチのシニアマーケットエコノミスト。1979年、三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。バブル崩壊前夜より市場・経済分析に従事。英米駐在通算13年を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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