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コラム:ドル円のヤマ場は年後半、110円か130円か=佐々木融氏

[東京 22日] - 日銀は21―22日の金融政策決定会合で、予想通り現行の量的・質的金融緩和の継続を8対1の賛成多数で決めた。声明文では足元の景気認識について「緩やかな回復を続けている」として、前回の「緩やかな回復基調を続けている」からやや上方修正した。個人消費や住宅投資、鉱工業生産に対する評価も上向きだった。

 5月22日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・債券為替調査部長は、過去25年間の年間レンジの傾向に照らすと、ドル円が今年中に130円台に乗せるか、110円を割り込むか、どちらかとなる可能性はかなり大きいと指摘。提供写真(2015年 ロイター)

一方、インフレやインフレ期待に関する記述は変わらず、黒田総裁の記者会見でも特に目新しい発言は聞かれなかった。一部報道を背景に、超過準備に対する付利の引き下げの可能性が市場で話題になったが、この点については質問も出なかった。今回の決定会合は、大方の予想通り何事もなく終了したと言っていいだろう。

今年も、もう5カ月が過ぎようとしているが、日米ともに金融政策に目立った動きがないこともあってか、年初来のドル円相場のレンジは115.85円から122.04円の5%強の間に収まっている。このように狭いレンジでの取引が続くと、ドル円相場はついに心地よい水準を見つけ、ずっとこの水準にとどまるのではないかと思ってしまいたくもなるが、こうした期待は毎年裏切られている。

1990年以降の25年間について毎年のドル円相場のレンジを調べたところ、最小のレンジは2006年の10%だった。したがって、今年のレンジが過去25年間で最低水準に終わったとしても、113円から125円程度の範囲内での動きはあり得ることになる。

ちなみに、2006年の次にレンジが狭かったのは2004年の12.8%だ。仮に今年のドル円のボトムがすでに付けている115.85円だと仮定して、年間レンジが12.8%になるとすると、130円台まで上昇することになる。一方、すでに付けている122.04円が今年のピークと仮定して、年間レンジが12.8%になるとすると、108円台まで下落することになる。こうして見ると、ドル円相場が今年中に130円台に乗せるか、または110円を割り込むか、どちらかとなる可能性はかなり大きいように思える。

<経常黒字の急増が示唆する円高シフト>

ドル円相場のレンジをもう少し詳しく見ると、年前半のレンジがそのまま1年間のレンジとなったことは、過去25年間で1度もない。つまり、年前半のレンジは、その上限か下限のどちらかが必ず年後半に破られる。

1998年にはレンジのピークもボトムも年後半となっているが、それ以外の年は、ピークかボトムのどちらかを年後半に付けている。この観点から言っても、ドル円相場がこのままのレンジで2015年を終える可能性は圧倒的に小さく、むしろ年末までにレンジのどちらかを抜けて大きな動きを示す可能性が高いと言えるだろう。

過去25年間について、年間のピークとボトムを付けた月を調べてみると、10―12月期にボトムを付けたのは、25回中12回とほぼ半分近くに上る。したがって、ドル円相場は年後半に向けてドル安・円高方向に動き出し、今年も10―12月期に110円程度まで下落し、ボトムを付けるのではないか、と言いたくなる。

しかし、年間レンジのピークを付けた月を調べると、実は12月にピークを付けたことが25回中8回もあり、圧倒的に多い。さらに興味深いことに、11月にピークを付けたことは1度もない。これは年末に向けてドル円相場が上昇基調に入り始めた時は、11月中にその動きが止まることはなく、そのまま12月まで続く傾向があるということを示唆している。

また、さらに興味深いことに、7―9月期にピークかボトムのどちらかを付けたことは、50回中5回しかない。このことも合わせて考えると、年後半に入り動き出した相場は、7―9月でクライマックスを迎えるより、10―12月まで動きが引きずられる可能性が高いことを示している。

あらかじめ断っておくが、JPモルガンは、今年のドル円相場のピークは124円となるが、円高方向にもさほど大きく動くとは予想していない。しかし、ドル円相場が年後半に130円を超えるのか、110円を割り込むのか、どちらの可能性が高いかと問われれば、筆者は個人的には110円を割り込む可能性が高いのではないかと考えている。

最も大きな理由は、経常黒字の急増である。今年3月の経常黒字は2.8兆円となり、すでに昨年1年間の経常黒字額(2.6兆円)を上回った。この結果、今年1―3月期の経常黒字は4.3兆円と前年同期の0.9兆円の赤字から急速に改善している。JPモルガンは今年の経常黒字が17兆円を超える可能性があると予想しており、アベノミクスが始まる前の水準に一気に戻ってしまうと見ている。

2012年11月以降、アベノミクスや量的・質的緩和によって急速な円安が進んだと見るのが一般的だし、筆者もそれは否定しないが、実はこの間、円安が進んだ最も重要な要素は貿易収支の急激な悪化、経常黒字の急激な減少であったのではないかと考えている。日本の貿易収支は、2010年は9.5兆円の黒字だったのが、2014年には10.4兆円の赤字と実に20兆円も悪化している。これを受けて経常黒字も19.4兆円から2.6兆円まで急減した。

そして、今年の経常黒字は2010年当時の規模まで戻りそうな勢いなのである。経常収支を通じた円買い需要の減少が2012年以降の急激な円安につながったのと同じように、経常収支を通じた円買い需要の増加が今年の円高方向への動きにつながる可能性は高いのではないかと考えている。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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