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コラム:カネ余り第二幕、株価上昇の背景=熊野英生氏

[東京 2日] - 2万円を突破した日経平均株価が、目先どんどん株価が上昇していきそうだというストーリーを合理的に説明することは、エコノミストにはつらいところだ。

 6月2日、第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は、株価上昇の背景にある「カネ余り第二幕」は、米金融政策の正常化が進むことで、さほど長く続かないと予想。提供写真(2015年 ロイター)

何しろ、最近の日本の経済指標は悪いものが目立つ。足元のファンダメンタルズだけでは説明しづらい。4月の消費支出が大きく減少し、生産統計も4―6月にかけて低調だ。5月上旬に発表された決算は良かったが、それは過去の業績拡大である。日本の景気は、「長い目でみて良くなっていく」と婉曲話法を用いて説明せざるを得ない。

そこで発想を逆転させて、「景気が足踏みするから余剰マネーが株価を押し上げている」と説明してみよう。すると、すっきりと説明できる。これは日本のみならず、米国や中国にも共通することだ。

金融緩和の効果が効いているから、先行きの強気予想に基づき、資産価格の上昇が後押しされるという説明である。株価上昇は、マネタリーな要因なのだ。

<アベノミクス当初の勢いに匹敵>

日経平均株価は、6月1日まで12営業日連続で上昇した(2日に記録は途絶えた)。時価総額は、東証一部だけで600兆円に達した。これは1―3月の名目国内総生産(GDP)の1.2倍に相当する。対名目GDP比の倍率がこれだけ上がったのは1989年12月以来である。

株価を押し上げる要因として注目されるのは、海外投資家の活発な取引である。2015年4月の東証一部の売買金額は79.7兆円まで増加した。委託売買の約7割が海外投資家だから、その影響力を抜きには語れない。

現在の株式市場における海外投資家の活発さは、アベノミクス当初の勢いに匹敵する。最近の売買金額は、アベノミクスに反応して株価が急上昇していた2013年5月のピーク時(83.2兆円)に接近している。

背景には、世界の株式時価総額の膨張に加えて、円安によって円ベースの投資額が膨らんでいることもある。円の価値は、名目実効為替レートでみて、2012年末のアベノミクス開始時に比べて購買力が24%低下し、海外通貨に比べて割安になっている。

世界のマネーの規模が膨張しているときは、マクロ的にみて割安になっている円資産が買いやすくなるという傾向が生じる。年内利上げの姿勢を改めて示した5月22日のイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長発言をきっかけに円安が加速し、その傾向に拍車をかけたと考えられる。

<中国の金融緩和も一因>

世界的な過剰流動性は、米利上げを控えて、実は拡大ペースを強めている可能性がある。日本では2014年10月に追加緩和が行われ、欧州でも2015年3月に量的緩和が実行に移された。国際取引所連盟(WFE)の統計では、世界の株式時価総額が2015年4月末で74兆ドルと、すでに2007年のピーク時(64兆ドル)を抜いて膨張している。

米国から海外に投資される株式売買の金額は、2015年4月までの1年間で9.2兆ドルと、ピーク時だった2008年の77%に達しているにすぎないが、ドル高の進行が、米国発の投資パワーを高めている可能性がある。

ドルの価値は、株式売買のピーク時より1.22倍も上昇しているので、たとえドルベースの金額が以前より小さくとも、外貨建ての株式投資へのインパクトは大きくなっているという見立てもできる。

世界の株式時価総額を引っ張っているのは、日本株の時価上昇と言いたいところだが、日本を尻目に、中国株式の膨張が著しい。上海総合指数は6月1日時点で対前年比2.37倍と急上昇している。

最近の上海総合指数には、やや危なっかしいところがあって、5月28日には前日比6.5%下落し、「すわ暴落か」と思わせた。だが、このときは、その翌々日の6月1日に前日比4.7%上昇と急反発して、水準を戻している。

中国の株価上昇を演出するのは、やはり金融緩和である。中国の株価上昇がテンポを速めたのは、2014年12月頃からのことである。ときを同じくして、中国人観光客が2月の春節以降も大挙して日本にツアーで訪れ、旺盛な買い物をしたことが話題になった。

中国人観光客の1人当たり旅行中支出額(2015年1―3月)は、25.3万円と全外国人旅行者の平均金額の1.77倍と突出している。いわゆる「爆買い」である。そのエネルギー源のひとつは、中国の株高なのかもしれない。

<カネ余り第二幕は短命か>

最後に、このカネ余りが一過性のものかどうかを考えたい。FRBの利上げが実行されれば、それは確実に金融引き締め効果を発揮するだろう。カネ余り第二幕の賞味期限は、金融引き締めの実施がずるずると間延びして、利上げが近そうで遠いという距離感が続く間であろう。筆者は、カネ余り第二幕はそれほど長期間続きそうにないとみている。

一番知りたいのは、これからのFRBの引き締め度合いである。資産価格に及ぶ影響は、米利上げ実行後の引き上げ幅と利上げペースによって変わる。現在は、それが見えない。FRBが景気拡大とバランスをとって慎重に進めるという楽観論も根強い。だから、まだカネ余りが逆回転して吸収されるプロセスには入っていないとも言えるのだろう。

米長期金利に注目すると、5月22日のイエレン発言以降、利上げ予想に反応して上昇するのではなく、むしろ若干低下気味である。米経済が本当に強くなっている確証が得られていないので、利上げの時間軸はまだそれほど前倒しされていないのだろう。

したがって、もしも6月上旬以降、強めの米経済指標の公表が相次げば、利上げ予想が地に足のついたものに変わり、米長期金利を上昇させることで、少しずつ資産価格にも抑制圧力が働いてくるだろう。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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