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コラム:独立問題に火をつけるユーロの宿命=山口曜一郎氏

[東京 15日] - マーケットではここ数日間、グローバルな景気の見通しに対する懸念が台頭しており、株式市場や為替市場に調整が入っている。

 10月15日、三井住友銀行・シニアエコノミストの山口曜一郎氏は、グローバル化の進展で国の枠組みが形骸化していけば、都市・地域間の競争が激化する可能性があり、EU加盟国内での独立運動はその証左だと指摘。提供写真(2014年 ロイター)

国際通貨基金(IMF)によって世界経済の成長見通しが下方修正されたり、米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録でユーロ圏の景気・インフレの落ち込みと中国・日本の景気減速が指摘されるなど、市場参加者が頭の片隅でリスクとして警戒していたものが相次いで表に出たことで、にわかに高まった不安心理が相場の巻き戻しを主導した格好だ。

その数ある懸念の中で、最たるものはユーロ圏だろう。欧州中央銀行(ECB)の後手に回った政策やデフレリスクについては本連載で何度か取り上げたため、今回は違う視点からユーロ圏の抱える問題について触れてみたい。

<ユーロとEUをあてにした独立運動>

切り口はスペイン・カタルーニャ州の独立運動だ。11月9日に予定されていた分離独立を問う住民投票は、憲法裁判所が投票の差し止めを命じたことから、公式な投票実施は難しくなってきているが、人々の独立志向は強く、何らかの形で住民の意思を問う投票が行われそうだ。

同州の独立運動は19世紀から続いており、英国スコットランドでの独立に関する住民投票の実施で一段とその気運が高まったものの、今に始まったわけではない。18世紀のスペイン継承戦争でスペイン・フランス軍によってバルセロナが陥落し、カタルーニャ語の使用が禁止されて以来、途中、再び自治権を認められたり、奪われたりしながら、カタルーニャ州は独立志向の強さを維持してきた。

現在は中央政府から幅広い自治権を認められており、公用語はカタルーニャ語とスペイン語の2つとなっている。筆者は欧州駐在時に何度か州都バルセロナに足を運んだことがあるが、カタルーニャ語とスペイン語が併記された道路標識や看板、稀代の建築家ガウディによる特徴的な建築物、豊かな食文化など、独自の言語や文化を誇りに思っている様子がうかがえた。

こうした歴史的経緯に加えて、同州が自立できるだけの経済規模を備えていることも独立志向を強めている。カタルーニャ州の総生産(GDP)はスペイン全体の約2割を占めており、1人あたりGDPは国の平均を大きく上回る。しかし、財政収支は赤字だ。同州はスペイン全体の歳入の約19%を占めているものの、中央政府が全て吸い上げたうえで分配しているため、受け取りは国全体の歳出の9%程度にすぎず、これが赤字の原因というのが州側の主張だ。

この状況で、2015年度予算において、さらに33億ユーロの歳出削減を中央政府に命じられたことから、州民の不満は一段と高まった。独立すれば、自分たちの歳入は自分たちで歳出に充てることができるため、財政赤字に苦しむ必要もなければ、理不尽な歳出削減要求を突き付けられることもないということだろう。しかし、このような主張を受け入れ、独立を認めるようでは、国家は成り立たない。欧州の場合は、歴史、民族、宗教などが絡むため複雑だが、とうてい受け入れられる話ではないだろう。

こうした独立運動が起こる理由については、上記のような、歴史的な経緯や、経済規模および財政状況が指摘できるが、関係者の中には、欧州連合(EU)およびユーロの存在を挙げる声もある。EUという外壁に守られ、ユーロという安定的な通貨が得られることは、小国にとって非常に大きなメリットがあるという分析だ。

確かに、ユーロという共通通貨は南欧諸国の債務危機で崩壊の淵に立たされたが、負担は主に大国が引き受けることになるため、小国にとっては恩恵のほうが大きい。しかも、財政政策については、成長・安定協定を順守する必要があるものの、今なお各国に裁量権があり、財政的な余裕のある国にとっては「いいとこ取り」だ。

しかし、この動きは、グローバル化やボーダーレス化の裏返しとみることもできるだろう。ユーロ圏では共通通貨ユーロが使用されており、現在はヒト・モノ・カネの移動が原則自由となっている。つまり、世界全体のボーダーレス化を考える場合、ユーロ圏はそれを域内でいち早く体現しつつある。そこで起こっていることは、カタルーニャ州の独立運動のように、一見ボーダーレス化に逆行するような行動だが、実は両者は相反しない。

将来的に国境の意味合いが薄まり、国という枠組みがどんどん形骸化されると、様々な面で都市や地域同士の競争が激化するだろう。ボーダーレスの中で、人材と資本は魅力があり生産性の高い都市や地域には流入し、競争力のない都市や地域からは流出するからだ。そのような環境では、逆説的だが、一定の競争力や資源を有する都市や地域は、ボーダーレス化の中に身を置きながらも、存続に必要な資源を囲い込もうとするだろう。なお、これは経済的なものに限らず、伝統や文化もその対象となる。

そう考えると、グローバルとかボーダーレスといった心地良い響きの裏には、「競争激化」「二極化」「格差拡大」といった問題が隠されており、これを守るために、豊かな地域や競争力のある地域では自分たちの領域に線引きをするという矛盾が生じる。

グローバル化やボーダーレス化の本格的な波が押し寄せる前に、経済政策や成長戦略によって自分の国や都市の魅力を高めようとしたり、自分たちの領域への意識を強めたりする動きは、ユーロ圏だけでなく、日本や世界各国でもみられるようになるだろう。グローバル化の中で、多種多様な歴史、伝統、文化を持つ国や都市が手を携えていくのが理想だが、少なくとも経済的には、そこまで美しい話ではないというのが現実のようだ。

<勝ち組ドイツへの移民が急増>

理想と現実の難しさを表す例が2つある。1つは筆者が欧州便の機内で隣り合わせとなったイタリアに住むドイツ人の話だ。彼女は私立のドイツ語幼稚園で働いているのだが、ユーロ危機後、入園希望者が殺到しているとのことだった。イタリア人とドイツ人は気質が合わないという声もあるが、現実的な選択肢は異なるようだ。

アネクドータル(逸話的)な例だけだと説得力に欠けるので、もう1つはドイツの移民に関する統計データを示したい。2013年のイタリア、スペインからドイツへの移民はそれぞれ5.7万人、3.6万人で、前年から36%増、22%増だった。ユーロ危機前の2008年が2万人、9000人だったことを考えると、いかにユーロ圏の勝ち組であるドイツへの移民が増えているかがよくわかる。

ユーロ圏は通貨危機を経験する中で南北の格差が明らかとなったが、今後も二極化や格差の問題は続く。また一方で、経済・社会のボーダーレス化と保守化が並存する。ユーロ圏は2013年第2四半期からの4四半期はプラス成長を維持していたため、このような内在する問題は、認識されながらも後回しにされてきた。

しかし、万が一、今のような低い競争力と高い失業率という状態のままで、景気サイクルがピークアウトするようだと非常に危険だ。国内外の需要が減退し、失業が現在の水準からさらに増加すれば、人々の不満は高まり、社会の不安定化につながりかねない。ドラギECB総裁が財政政策の柔軟な運用と構造改革の必要性を訴えているのはこの点にあり、何とか景気の落ち込みを回避しながら、経済全体の底上げを実現できるような構造改革を進めていかなければならない。

当面の金融政策については、現行ツールでバランスシート拡大の実現が難しくなるようなら国債購入による量的緩和(国債QE)を推進する必要がある。国債QEはユーロ圏に存在する問題の抜本的な解決にはならず、中銀の信頼性を損なう恐れがあるとの議論は正論だが、放置すればデフレの確率は一段と高まる。ECBはさらに踏み込まざるを得ないだろう。

*山口曜一郎氏は、三井住友銀行市場営業統括部副部長兼調査グループ長で、シニアエコノミスト。1992年慶應義塾大学経済学部卒業後、同行入行。法人営業、資本市場業務、為替セールスディーラーを経て、エコノミストとして2001―04年にニューヨーク、04―13年ロンドンに駐在。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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