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コラム:ECBの「量的緩和」決断は目前か=田中理氏

[東京 3日] - 筆者はこれまで、欧州中央銀行(ECB)が本格的な量的緩和政策、すなわち国債購入に踏み切るまでにはまだ「距離」があるとの立場をとってきた。

 12月3日、第一生命経済研究所・主席エコノミストの田中理氏は、来年の早い段階で欧州中銀(ECB)は国債購入に踏み切る可能性が高いと分析。提供写真(2014年 ロイター)

追加緩和期待をつなぎ止めることでユーロ安に誘導し、世界景気の回復加速や通貨安効果の浸透を待つのがドラギECB総裁の戦略と考えていたためだ。

時間稼ぎの観点からはハードルの低い順に政策を小出しにすることが自然で、まずは社債や欧州連合(EU)機関債の買い入れ開始でお茶を濁し、それでも景気や物価が十分に浮揚しない場合に初めて国債購入に踏み切ると予想していた。

だが、最近のドラギ総裁やコンスタンシオ副総裁の発言からは、ECBの主流派がこうした漸進的な政策対応ではデフレ入りを阻止することが難しいとの切迫感を強めており、国債購入を通じた本格的な量的緩和に傾いている様子がうかがえる。

では、Xデーは今週4日に予定されるECB理事会となるのだろうか。結論から言えば、そうではなく、来年の早い段階での実施となる可能性が高いと筆者はみている。むろん、市場参加者の間で国債購入を含めた追加緩和への期待が著しく高まっているため、仮に今回見送るとしても、近い将来の緩和決定を示唆する強いメッセージを発し、市場の失望を招かないように配慮する公算が大きい。

以下、その根拠を説明しよう。

<カギを握る長期資金供給オペ第2弾>

ECBは11月6日の前回理事会で、必要な場合に備えて追加措置を打ち出す準備を早急に進めておくことを事務方に指示した。同月21日にはドラギ総裁が「低すぎるインフレ率の長期化がインフレ期待に組み込まれるリスク」を警戒し、「インフレ率を遅滞なく物価安定目標に戻す必要がある」と発言。ECBは近い将来の追加緩和決定に向けて動き出すこととなった。

そして、足元でユーロ圏の景気低迷は持続し、物価上昇率は一段と鈍化している。つまり、ECBスタッフの経済・物価見通しの下方修正に合わせて12月4日の次回理事会で追加緩和が決定される可能性も確かに否定できない状況だ。

では、なぜ筆者は、Xデーは来年の早い段階だと考えるのか。まずドラギ総裁はさらなる追加緩和が必要な状況として、1)すでに決定した緩和措置では1兆ユーロのバランスシート拡大の達成が困難と判断される場合と、2)中期的な期待インフレ率が悪化する場合を挙げている。

前者については、条件付き長期資金供給オペ(TLTRO)第1弾の利用額が826億ユーロと事前予想の下限を下回り、11月下旬に開始した資産担保証券(ABS)の購入プログラムも第1週の買い入れ額はわずか3億6800万ユーロにとどまった。他方、10月下旬に開始したカバードボンドの購入プログラムは第6週までに年間1500億ユーロを超えるペースでの積極的な買い入れを続けている。少なくとも12月11日のTLTRO第2弾の利用額を確認するまでは、一連の緩和策が十分かどうかを判断できないことが、今回緩和を見送ると考える最大の理由だ。

この点に関連して、ドラギ総裁と考えの近いコンスタンシオ副総裁は11月26日、「来年の第1四半期中には、これまで導入した措置がバランスシートの拡大見通しに沿った動きとなっているかをより正確に判断することが可能になる」と発言した。こうした趣旨の発言は同じくドラギ総裁に近いとみられるクーレ理事やプラート理事など他の側近からも聞かれる。12月11日のTLTRO第2弾の結果が再び不発に終わり、十分なバランスシート拡大が望めないことを理由に追加緩和を決定する方が、発言内容とも整合性がとれる。

むろん、ECBが金融機関との日々の意見交換の中でTLTRO第2弾の利用額が期待外れに終わるとの感触を事前に得ていた場合には(利用申請書の提出期限は11月20日、公告は12月9日、入札期限は12月10日)、12月4日の理事会で追加緩和が決定される可能性もある。ただし、その場合でも、国債購入の開始に向けた説得工作は今のところ不十分と考えられるため、TLTROの利用促進策や社債購入などが次善の策として挙がってこよう。

<原油安のプラスとマイナス>

次に、2番目の「中期的な期待インフレ率が悪化する場合」を考えてみよう。確かに足元の景気・物価指標の下振れを受け、中期的な物価安定が損なわれる恐れが高まっていることを理由に、ECBが早期の追加緩和に踏み切る可能性は否定できない。

11月のユーロ圏の消費者物価は前年比プラス0.3%と、9月に記録した今次サイクルのボトムに並んだ。大きな要因の一つは、原油価格の下落だ。11月27日の石油輸出国機構(OPEC)総会では減産合意が見送られ、原油価格は足元でさらに一段と下落している。

こうしたなか、4日に公表されるECBスタッフ見通しの消費者物価は、足元の物価下振れと原油安を背景に2014年と15年の見通しが下方修正される公算が大きい一方で、原油安による景気の押し上げ効果と物価の押し下げ効果が相殺され、16年の見通しが据え置かれる可能性がある(9月の見通しでは14年がプラス0.6%、15年が同1.1%、16年が同1.4%)。

ただ、同見通しの前提となる原油価格は、前月中旬のカットオフ日からさかのぼって2週間の北海ブレント先物価格の平均値が用いられている。今回の予測では2015年平均が85ドル程度、16年平均が88ドル程度となる模様で、14年と15年の物価見通しの下方修正も限定的なものにとどまる可能性がある。このことも4日の時点で追加緩和を急がない理由だ。追加緩和がたとえ4日に決定されたとしても、国債購入の切り札を温存する可能性が高い。

だが、カットオフ日以降の原油価格が一段と下落しており、スタッフ見通しのさらなる下方修正は避けられない情勢だ。エネルギー価格の下落率加速が目先の物価上昇率をさらに下押しすることが予想され、近い将来の追加緩和は不可避と考える。

長期系列でみると、消費者物価のエネルギー価格の変動率は原油価格の変動率の約5分の1で、消費者物価に占めるエネルギー価格の構成比は10%強に上る。エネルギー価格以外への波及をひとまず無視すれば、原油価格が20%下落するとエネルギー価格が4%ポイント程度、消費者物価が0.4%ポイント程度下押しされる計算となる。

すでに下落の一部は顕在化しているが、原油安の加速で向こう数カ月の消費者物価はゼロ近傍に低下しよう。ブレント原油の70ドル/バレル割れが定着すると、消費者物価がマイナス圏に転落する可能性が高まる。現在のように中期的な期待インフレ率が下方屈折するなかで、物価がマイナス圏に転落すれば、デフレマインドが定着する恐れも高まりかねない。

<ユーロ版「量的緩和」のタブー視は不要>

いずれにせよ、量的緩和開始までの距離がかなり縮まったことだけは間違いない。正副総裁は最近の講演でそろって量的緩和の波及経路(ポートフォリオリバランス効果、シグナリング効果、ユーロ安効果)に触れ、ユーロ圏が間接金融中心の金融構造であることや国債利回りがすでに低いことを根拠に量的緩和の効き目を疑問視する見解を真っ向から否定した。

理事会内にはドイツ連銀のバイトマン総裁を筆頭に、国債購入が財政ファイナンスを禁じたEU条約に抵触する恐れや政府の改革停滞を招く恐れを指摘する声が根強い。だが、コンスタンシオ副総裁は11月26日の講演で、ECBの資本金構成比(およそ経済規模に準ずる)に応じて国債を購入することで法抵触の問題を回避できることや、政府の改革履行とECBの国債購入の判断を切り離す方針を示唆した。

少なくともドラギ総裁を中心とした主流派メンバーの間では、もはや国債購入はタブー視されておらず、法律上の問題も解決可能と考えられている。タカ派メンバーの説得が難しくとも、理事会内の大多数の賛成が得られれば国債購入を開始することは可能だろう。

ところで、追加緩和の一環で6月に導入したマイナスの預金金利が本格的な量的緩和の障害になるとの見方もある。確かに日銀をはじめ量的緩和策を採用した中央銀行は、資産買い入れの増額に伴い負債サイドで当座預金残高を積み上げてきた。ECBの当座預金や預金ファシリティに滞留する資金に罰則金利が適用されることで、金融機関が大規模な資産購入に応じない恐れもある。

だが、本格的な量的緩和の開始に伴い預金金利をゼロに引き上げたり、国債購入時に発生するECBへの預入金については罰則金利の適用を免除したりするなど、利用の妨げとならないような運営上の工夫を施すことも可能だろう。

こうしてみると、導入済みの政策で1兆ユーロのバランスシート拡大が達成困難であることが明らかとなり、景気停滞と原油安から物価がマイナス圏に転落する恐れがある来年の早い段階で、ECBが国債購入に踏み切る可能性が高まってきている。

*田中理氏は第一生命経済研究所の主席エコノミスト。1997年慶應義塾大学卒。日本総合研究所、モルガン・スタンレー証券(現在はモルガン・スタンレーMUFG証券)などで日米欧のマクロ経済調査業務に従事。2009年11月より現職。欧米経済担当。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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