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コラム:ギリシャ緊縮派勝利でユーロ上昇は本当か=佐々木融氏

[東京 18日 ロイター] 6月17日の日曜日に行われたギリシャの2回目の議会選挙の結果は、サマラス氏率いる新民主主義党(ND)が第1党となり、前回に続き第3党となったベニゼロス氏率いる全ギリシャ社会主義運動(PASOK)と合わせると過半数を握り、何とか政権が樹立できそうな情勢となった。

6月18日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・債券為替調査部長は、「欧州情勢は解決には程遠い状況にあるが、為替市場ではしばらくユーロが買い戻される流れが続く可能性が高い」と指摘。提供写真(2012年 ロイター)。

5月6日に行われた第1回目の選挙では、ギリシャ国民は長年にわたる積もり積もった不満を爆発させたが、その後再選挙に至るまでの1ヶ月強の間に、現実的な決断を下さなければユーロ圏に残留できないかもしれないとの危機感により、投票行動を変えたということだろう。

ギリシャは第2次世界大戦中にナチス・ドイツに侵攻され、1941-44年までナチス・ドイツ、イタリア、ブルガリアの3国により分割占領された。その後、内戦となり多くのギリシャ人が犠牲となった後、1967年4月にはクーデターにより軍事政権が誕生、ほんの38年前の1974年まで軍事政権は続いた。やや飛躍した解釈かもしれないが、比較的近い過去に「辛い歴史」を持つギリシャ人の危機回避本能がうまく働いたということなのだろうか。

もっとも、ギリシャも、これで磐石とはいくまい。そもそも、欧州周辺国の国債市場の混乱は、2009年10月のギリシャ議会選挙で政権交代が実現し、パパンドレウ新政権(PASOK)が旧政権(ND)による財政赤字の隠蔽を明らかにしたところから始まっている。

しかも、今回再び政権を握ることになったのは、そのNDだ。加えて、2009年10月の選挙で躍進したPASOKの得票率は、前回5月並みに止まり、ツィプラス氏が率いる反緊縮派の急進左派連合(SYRIZA)の得票率は、前々回に比べて大幅に伸びた前回5月の得票率に比べてもさらに伸びている。ギリシャの世論は、決して緊縮財政に対して賛成一色になったわけではない。

新政権下で速やかに欧州連合(EU)および国際通貨基金(IMF)と今後の緊縮財政策の実行について交渉を進めなければ、ギリシャは7月中旬頃に資金繰りが尽きてしまうと見られている。選挙結果により、市場はいったん安心感を取り戻すかもしれないが、問題が解決したというよりは、取り返しのつかない事態に悪化するリスクを当面回避できたと言ったほうが良いだろう。

また、ユーロ圏の問題の中心は、ギリシャではなく、すでにスペインに移っている。当然のことながら、ギリシャ選挙でNDが勝利したからといってスペイン問題に好影響を与えるわけではない。スペインが抱える問題は国内の金融機関の不良債権問題であり、これに政府が対処しようにも公的資金で対応する余裕がなくなってきている。

スペインの10年国債利回りはすでに7%台まで上昇しており、さらに金利が上昇するようだとスペインまでもが市場で国債を発行することができなくなる可能性さえある。6月9日にユーログループの財務相は緊急会合を開き、スペインの銀行に対する支援策で合意したが、スペイン国債金利は逆に上昇基調を強めた。ギリシャもユーロ圏17カ国の中で経済規模が8番目に大きい国(GDPシェア=2.3%)だが、スペインは4番目に大きい国(同=11.4%)である。スペインが資金繰りに支障をきたすようになると、これまでのギリシャやアイルランド、ポルトガルのような対応では支えきれなくなる可能性が高い。

<投機筋のショートカバーが加速か>

このように、欧州情勢は解決には程遠い状況にある。だが、その一方で、為替市場ではしばらくユーロが買い戻される流れが続く可能性が高いのではないかと筆者は見ている。

第一に、短期的な投機筋のユーロ・ショート・ポジションが積み上がっている可能性がある。シカゴIMM先物市場のデータによれば、同市場を通じた投機的なユーロ・ショート・ポジションは、過去最高の240億ユーロ(2.4兆円)に達している。長期的な投資を行う機関投資家がユーロ圏から逃げ出していることも間違いなくユーロ売りの一つの要因だが、一方で短期的なポジションが240億ユーロも積み上がっていることも事実である。

恐らく市場参加者のほぼ全員がユーロ圏の問題は何ら解決していないと考えているだろうが、いったん利益を確定するためにユーロを買い戻す先が徐々に増え始めたら、ユーロは徐々に上昇を始め、それが結果的に大規模なユーロ・ショートの巻き戻しを誘発する可能性は十分にある。

第二に、他の市場でも4―5月に発生した「リスクオフ」の流れを巻き戻す動きが見られ始めている。たとえば、4月初めのピークから2ヶ月で11%下落した米S&P500株価指数は先週金曜日に1ヶ月ぶりの高値を付けるところまで反発してきている。急激に低下を続け、一時は日本の10年国債利回りまであと34ベーシスポイント(bp)程度まで迫った独10年債利回りは、過去2週間で30bpほど反発している。つまり、リスク性資産から流出し、周辺国からドイツに向かっていた資金が、逆流を始めている兆しがある。ユーロから逃げてきた資金の一部が多少の逆流の動きを見せる可能性は十分にあるだろう。

第三に、米ドル安がユーロを押し上げる可能性がある。JPモルガンは、今週の米連邦公開市場委員会(FOMC)でオペレーション・ツイストの延長と、超低金利政策が正当化される期間が2014年後半から2015年に延長されると予想している。こうした米連邦準備理事会(FRB)による追加緩和策を受けて、米ドルが軟調に推移する可能性がある。

米ドル安がユーロ/ドルを押し上げれば、ユーロ・ショート・ポジションの手仕舞いが余儀なくされる可能性もある。ユーロ/ドル相場がポジションの巻き戻しで比較的大きく上昇する一方、ドル/円相場のドル安進行度合いは緩やかになると考えられることから、結果的にユーロ/円が押し上げられることになろう。

ちなみに、今週はイベントが盛りだくさんである。19日までメキシコでG20サミットが行われ、20日にはFOMCの声明発表とバーナンキFRB議長の記者会見がある。21日にはユーロ圏財務相会合とスペイン国債入札、22日にはEU財務相会合、独仏伊西首脳会合が予定されている。欧州問題に前向きな動きや見通しが出たり、米国金利が低下するようなことがあれば、ユーロの買戻しが続く。今週は、そのきっかけとなりそうなイベントも多いのである。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に、「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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