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コラム:不穏な情勢下の為替変動にも「美しいロジック」=田中泰輔氏

[東京 21日 ロイター] 為替の世界には「美しい変動ロジック」があると常々ご案内している。ドル/円はもとより、債務問題の渦中で混乱しているかのユーロ相場にも「ロジック」がある。

6月21日、ドイツ証券チーフ為替ストラテジストの田中泰輔氏は、為替相場には美しいロジックが貫徹されていると指摘。米中期金利がドル/円動向のベスト・シグナルになることのロジックを正しく理解する必要があると説く。提供写真(2012年 ロイター)。

たとえば、米金融緩和局面のドル/円は基本的に金利相場であり、特に米中期金利に沿って動く傾向がある。2007年に米国でサブプライム問題が顕在化し、金利が低下局面に転じた時から、この点を一貫して強調してきた。為替変動は通常、内外金利差によって説明される。しかし、当時でも日本の中期金利は為替分析上ほとんど無視して良いほど低かった。したがって、金利差の計算というひと手間をかけなくても、米中期金利だけでドル/円相場を読むシグナルとして十分だろうと主唱した。

ドル/円は今も金利相場の様相が続いている。ただし、巷間出回る相場材料はこのロジックからかけ離れていることが少なくない。過去5年近く、ドル/円の予想にまつわる諸説の多くが、米中期金利シグナルのロジックに勝てずに敗退した。昨年の東日本大震災の後に日本の貿易収支が赤字に陥った時、「貿易赤字=円安」論が浮上した。しかし、同年春から夏にかけて米金利は低下し、円高になった。もし米国金利が上昇していたら円安になり、「貿易赤字=円安」論者は自らの見立ての正しさを誇っただろう。米金利低下で円高になったおかげで、円の変動要因について誤った理解が広がらずに済んだわけだ。

<円相場を米金利シグナルで読み解く>

こうした展開を繰り返すうち、円相場は米金利に沿って動くという認識は、内外で広く定着していった。国内政策によって日本のマクロ・金利環境が変わるダイナミズムがあるなら、米国金利という海外要因のみで円相場が決まるかの議論も見直すべき部分が出てくる。しかし、米金利のみで語れることが現実である。ここから逆に、さまざまな問題提起ができる。

まず、日本の政局は円相場を動かすだろうか。日本の政治が米金利を動かすことは想定されないので、円の変動とはほぼ無関係である。

次に、日本銀行の金融緩和はどうか。日銀が政策変更しても米金利への影響はほとんど無視される。むしろ状況として、米景況が悪化し、米金利が下がり、円高になる場面で、日銀は金融緩和するケースが通常起こりうるパターンである。この場合、日銀の緩和とは独立的に米金利はどうなっているかを見るほうが、円相場の方向性を正しく認識できるだろう。

今年2月14日の日銀の追加緩和は、市場にとってサプライズとなった。それは近年初めて米金利が上昇しかかる場面で緩和したからだ。米金利の上昇で市場が円安に傾きつつある最中だったため、日銀の決定は市場の背中をポンと押し、円安方向に2、3歩つんのめさせる程度の効果を見せた。この場合も主たる円安ドライバーは日銀ではなく米金利である。ドル/円は一時84円に達した後、日銀が緩和姿勢を強調しても、米金利が再び低下すると、80円割れへと反落した。

米金融緩和局面で同国金利が低下する過程では、ドル/円は金利と密接に連動して下落する傾向がある。他方、景気回復が進み、金利に先高観が醸成される場面のドル/円はつっかけるような上値トライをし、短期的に反落する上下動を何度か繰り返すのが典型だ。これは相場ドライバーがもっぱら投機筋やヘッジャーのショートの巻き戻しという短期フロー主導のためだ。今年2、3月の84円への円安・ドル高も米中期金利シグナルの示唆よりも早く大きく進行した。

この過程で興味深かったのは、市場ではドル/円の予想の上方修正が相次いだことだ。金利の上昇を超える円安の進展を目の当たりにして、日本が早期に経常赤字に転じるとか、一線を越えた日銀政策がにわかに効果を発揮するとか、無理な想定が掲げられがちだった。昨年の「貿易赤字=円安」論と同様、米中期金利がドル/円動向のベスト・シグナルになることのロジックを正しく理解しないと、相場の視座も定まらず、「直観的に正しい」と見える理屈に振り回されることになる。

昨年の大半は米国債2年物金利が0.2─0.3%であり、これに見合ってドル/円は75─80円だった。米国経済は過去3年バランスシート調整を推し進めてきた。この後、同国経済成長ペースが巡航速度の2.5%を持続的に上回るようになれば、同利回りもじわり上昇し、ドル/円も底固さを増すだろう。今年後半から来年にかけて、金利が0.3─0.5%になればドル/円の軸足は80円台前半、0.5─0.8%になれば80円台後半を軸足に90円台を試すと想定される。現在は米国経済単体の回復力を、欧州ソブリン問題や新興国経済の減速からのマイナス作用と両にらみする段階にある。米国の順当な回復と欧州の危機回避が新興国の景況を下支えるとのシナリオに立てば、ドル/円は昨年の75円台を今回の米金融緩和局面における底値として漸次上向いて行ける。

<混乱下のユーロにも金利相場の軸>

実は、ユーロの変動もまた金利相場として見られる局面である。欧州ソブリン問題の混迷で一見混乱の渦中にあると思われるユーロも、おおむね欧米中期金利格差に沿って推移している。ただし、ギリシャ問題が顕在化した2009年11月までの金利差とユーロ/ドル相場の軸足を揃えると、翌年5月までのギリシャ資産売りやヘッジに伴うユーロの投げ売りで、金利差の示唆から大きく乖離してユーロ安が加速したことが判る。ギリシャ資産が売られるほど、売り手が出てくるパニック的逃避行動の様相である。しかし、5月に最初のギリシャ支援策が打ち出され、市場の動揺が鎮静化すると、ユーロは再び金利との連動性を回復した。

ユーロ/ドル変動の8、9割は、上述の欧米金利差と、ギリシャ資産投げ売り後に生じた金利差と為替の乖離部分を説明する欧州財政プレミアムという2変数によって、説明可能であった。ここ数カ月の混乱下でもユーロ相場はこのロジックから逸脱していない。言い換えると、大規模なパニック的な逃避行動の第二弾はまだ発生していない。

金利差と財政プレミアムに基づくロジックから、懸念されるパニック第二弾をイメージして見よう。万一、ギリシャと同様の逃避的な資産の投げ売りが、スペインやイタリアで発生すれば、ユーロの下落は2010年前半の比ではあるまい。ユーロ/ドルの1.1、1.0ドル到達も可能性として排除されない。しかし、これは単に資産の売却、ユーロの下落にとどまる話ではなく、金融破綻を招き、世界的なシステミック・リスクを顕在化させる事態と言える。つまり、欧州ないし世界の政策当局にとって、その阻止は「絶対」だ。

財政プレミアムの悪化を昨年秋にイタリア国債が無用に売られた場面の程度までとし、想定される金利差水準から試算すると、欧州が危機を回避する手前の土俵際は1.20─1.25ドル。実際にユーロ相場がこの水準まで下落している時、市場は危機へ陥落するリスクに不安を抱き、大規模なユーロ・ショートを抱えているだろう。そこで危機回避の対策が打ち出され、下方テールリスクが後退すると、今度はユーロ・ショートが巻き戻される番となる。それが完全にスクイーズされれば、1.35─1.40ドルへの思いがけない反発もありうる。

利害の異なる国々が合議で決める欧州の政策対応は、「1.危機(Crisis)、2.対応策(Counter-actions)、3.安心(Comfort)、4.自己充足の様子見(Complacency)、1.危機・・・」の4Cサイクルを増幅的に繰り返しやすい。ユーロ/ドルは当面この1.20─1.40ドルの幅広で神経質なレンジで上下動しながら、向こう数年にわたって軌道を下方に向けると想定される。

*田中泰輔氏は、ドイツ証券のグローバルマクロリサーチオフィサーでチーフ為替ストラテジスト。日本長期信用銀行、クレディ・スイス、野村証券などを経て、2011年11月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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