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コラム:ドイツがユーロ共同債を受け入れる日=亀岡裕次氏

[東京 12日 ロイター] 欧州連合(EU)は、景気刺激策、銀行監督制度統一、銀行への直接資本注入、欧州安定メカニズム(ESM)の優先債権者待遇不適用、ESMの柔軟かつ効率的な運用などで合意した。実現までに時間のかかることも含まれ、必ずしもすぐに信用不安を後退させるわけではないが、信用不安の抑制効果はあると考える。

7月12日、大和証券の亀岡裕次氏は、ユーロ共同債実現に「完全」な財政統合は必要なく、歳入を超える歳出部分など国家財政主権の一部をユーロ圏に委任する「部分的」財政統合で十分と説く。提供写真(2012年 ロイター)。

ESMが柔軟かつ効率的な運用として、発行・流通市場で利回りが上昇した国債を購入すれば、ユーロ圏が共同して重債務国の財政を補完することになる。そして、債務共有化に否定的なドイツが、要求基準を満たすことを条件に債務共有化を一部容認することにもなる。ドイツのメルケル首相は「利回りの上昇は債務状況の悪化につながり、実体経済にも悪影響を及ぼすため、解決策が必要だった」と述べている。安易な債務共有化には断固反対しながらも、信用不安を抑制して市場を安定化させる政策の必要性を認めたわけである。

欧州債務問題の解決には、欧州の債務共有化が不可欠であり、それにドイツが同意する必要がある。今回の対策では問題の抜本的解決には不十分であるにせよ、債務共有化に対するドイツの姿勢が柔軟化したことで、危機解消に向けて一歩前進したことは間違いない。今後さらに必要なのは、ESMの融資能力拡大、銀行同盟(共通の預金保険制度と破綻処理基金)、ユーロ共同債の導入などだろう。

ESMに銀行免許を与え、欧州中央銀行(ECB)から借り入れた資金で銀行増資や国債購入を行えるようにすれば、融資能力は何倍にも拡大し、信用不安抑制効果が増す。ECBはマネタリー・ファイナンシングにあたるとしてESMへの銀行免許付与に否定的だが、政府の責任のもとでECBが政府基金に資金援助することは、ECBが国債を直接購入するよりも財政規律を保持できるのではないか。また、ドイツも反対しているが、各国の拠出金を増やしてESM規模を拡大するよりも抵抗は少ないのではないか。

メルケル首相は、財政同盟のない銀行同盟に意味はないとの主張をする一方で、欧州預金保険について、監視と基準の改善につながる(その一方で連帯責任にはつながらない)ことを条件に、すぐにでも賛成する用意があることを明言している。銀行と国家財政の信用連鎖を断ち切るために銀行同盟を作ろうとしているのに、財政同盟を銀行同盟の条件とするのでは意味がない。欧州単一の銀行監督制度設立から長い時間を置かずに、預金保険制度の統一に動く可能性もあるのではないか。

重要なことは、債務共有化の決め手であるユーロ共同債に関する行程が示されるか否かだ。メルケル首相は、債務(責任)を共有化するうえでは、そのコントロールが必要との考えを示している。言い換えると、債務をコントロールできれば債務を共有化できるということだ。ドイツは欧州の財政統合によるコントロール強化を目指す一方、フランス、イタリア、スペインなどはユーロ共同債の導入による債務共有化を目指している。「財政統合が進展した段階でユーロ共同債を導入」などの行程で合意すれば、どの国もユーロ共同債を無条件に拒否できなくなるし、あとは財政統合をいかに進めるかが問題になる。

ユーロ圏の税制や社会保障制度を統一するなどの「完全」な財政統合をユーロ共同債の条件にすれば、いったい何年かかるかわからないし、永遠に無理かもしれない。歳入を超える歳出部分など、国家財政主権の一部をユーロ圏財政機関に委任する「部分的」な財政統合を条件にすれば、主権移譲に同意する国が増えてユーロ共同債実現に近づくだろう。

<ドイツのユーロ離脱は非現実的>

ユーロ共同債のもう一つのポイントは、ドイツ国民の世論だ。ドイツ国民は、「他国への財政支援を増やすべきではなく、財政統合(国家主権移譲)に反対」との考えと、「ドイツはユーロの恩恵を受けており、ユーロ維持とユーロ圏成長のために他国を支援すべき」との考えに二分されている。前者が優勢だが、ドイツにメリットがあるのはどちらか。

前者は、債務危機の深刻化、ユーロ圏およびドイツの景気悪化、ドイツの責任追及を招き、デメリットが大きいだろう。単独ではなくユーロ圏の統合を深化させるなかでドイツのプレゼンスをさらに強化したい政府の考えにも反している。通貨ユーロへの国民支持は強いものの、ユーロ圏経済が落ち込めば、いくらドイツに優位性があっても、ドイツの成長は見込めない。もし財政支援の呪縛から逃れるためにドイツがユーロ圏を離脱すれば、ユーロ圏の不況や崩壊危機だけでなく、通貨高によるドイツの競争力低下やユーロ建て債権の減少にもつながる。

おそらく、ドイツにメリットがあるのは後者だろう。ドイツの財政支援なくして、ユーロ圏の市場安定や経済成長は望めない。重債務国に対し財政緊縮を迫り、財政支援を早急に減らそうとすると、信用不安拡大と経済悪化を招き、むしろ長期的にはコストが膨らんでしまう。重債務国に構造改革や財政規律強化を求めつつも、信用不安抑制と景気安定化を図りながら財政支援するほうが、長期的なコストは抑えられるだろう。

ギリシャ国民に財政緊縮への賛否を問えば、国民負担を強いる財政緊縮への反対が優勢となろうが、それでも総選挙で財政緊縮支持派の政党が勝利したのは、ユーロ圏からの支援継続を選択したほうがギリシャ経済にプラスになると考えたからだ。

ドイツ国民の多くは、他国への財政支援が国民負担を増やすとの懸念から、ユーロ共同債に反対している。だが、ユーロ共同債が市場安定化を通じてドイツ経済にプラスに働き、国民負担以上に国民所得が増えると考えるようになる可能性もある。結局は、「良い結果」を招くと考える方に世論は傾くはずだ。今後、欧州当局が現実に即した有効な危機対策で協力し、ユーロ圏とドイツの景気が回復するようであれば、他国支援やユーロ共同債への国民理解が広がるだろう。重要なのは、政策がもたらす結果である。

欧州当局がなすべきことを尽くしたにもかかわらず、債務危機が発生したわけではない。なすべきことをしてこなかったから、債務危機が発生した。危機意識の高まりが欧州をようやく動かし始めたが、規律強化を優先しすぎて債務共有化に時間をかけすぎれば、信用不安と経済悪化の悪循環が深まってしまう。欧州当局が現実を直視し、責任共有とコントロール強化をバランスよく推し進めてこそ、危機解消への道は開くだろう。

*亀岡裕次氏は、大和証券の投資戦略部担当部長・チーフ為替ストラテジスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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