for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up

コラム:ドイツ抜きのユーロはありうるか=斉藤洋二氏

[東京 24日 ロイター] 南欧に傾斜する仏PSAプジョー・シトロエンが7月25日に発表した2012年上半期(1―6月)決算は、自動車部門が6億6200万ユーロの損失を計上し、グループ全体の損益も赤字に転落した。同社はまた、8000人の人員削減と工場閉鎖計画も発表している。

8月24日、ネクスト経済研究所の斉藤洋二代表は、一部で浮上しているドイツのユーロ離脱論について、歴史的経緯を考えれば、「あり得ないシナリオ」と断じた。提供写真(2012年 ロイター)

一方、独フォルクスワーゲン(VW)の上半期決算は、販売台数が過去最高に達したことを受けて、売上・利益ともに増加。2012年通期でも、BMWやダイムラーとともに、西欧を除く世界市場で堅調な業績を維持する見通しだ。

自動車産業はすそ野が広いため、ドイツ車メーカーの堅調な業績は欧州におけるドイツ経済の突出ぶりを象徴する。中国に匹敵する貿易黒字を計上し、6%台という他の欧州諸国に比べて低い失業率で推移できているのも、この輸出セクターの好調に負うところが大きい。もっと言えば、単一通貨ユーロの低位安定に因るところが大だ。旧通貨ドイツマルクのままならば、日本やスイスのように自国通貨高に見舞われ、輸出競争力を削がれていたことだろう。

このドイツとは対照的に、債務問題や競争力低下に苦しんでいるのがスペイン、イタリア、ギリシャなどの南欧諸国である。中でもギリシャについては、いまだにユーロ離脱の可能性が取りざたされている。一部には、その確率は90%との見方すらある。

新ドラクマ誕生への道のりは、そのメカニズムが明示されていないうえ、周辺国における銀行の取り付け騒ぎ、無秩序状態の出現などパニックが生じる可能性が高い。多額の債務不履行により、欧州金融システムのみならず世界経済に与える影響も大きく、その直接的な損失額だけでも数十兆円規模に上るとの試算もある。また、他の問題国のユーロ離脱をドミノ倒し的に招く可能性もある。

こうした懸念が高まる中、浮上してきたのがドイツ離脱論だ。ドイツがユーロ圏より整然と退場し、残る構成国で単一通貨圏を再整備するのが効率的であるとするものである。

ドイツ離脱論者たちは、新メンバーで構成される「新通貨・ユーロ」は残留した各国の経済実態に相応しい水準へと下落し、国際貿易競争力が大幅に向上するに違いないと説く。ドイツ国民の大多数がマルクの再導入を歓迎しているという世論調査結果もある。支払った税金が南欧諸国へ垂れ流しされる懸念が払拭されるというのが大きな理由だ。

とはいえ、ドイツのユーロ離脱は、果たして現実的な解なのだろか。

<歴史的努力を無にする愚挙>

結論を言えば、筆者は、ドイツがそのような道を選択する可能性はないと考えている。ドイツ離脱論は一見合理的に聞こえるが、欧州統合の理念を裏切ることとなる。これまでの欧州、特にドイツ国民の歴史的努力を無にする「愚挙」として後世の批判を受けることは必至である。

そもそも欧州が統合に向かう流れを作り出したのは、ドイツ自身でもある。ハーバード大学のマーティン・フェルドシュタイン教授は、「フォーリン・アフェアーズ・レポート」2012年1月号への寄稿(「なぜユーロプロジェクトは失敗したか―ギリシャのユーロ離脱は何を引き起こすか」)で、欧州統合への政治的動機を示す言葉として、1956年のアデナウアー元西独首相の以下の発言を紹介している。

「いかなるヨーロッパの国も今後世界の主要国になることはあり得ない。だが、世界で重要な役割を果たす方策が一つ残されている。それはヨーロッパを統合することだ。統合ヨーロッパを作れば、(アメリカに対する)屈辱を晴らすことができる」。

統合欧州実現に向けての半世紀は独仏など欧州の政治的衝動がけん引し、57年ローマ条約から92年マーストリヒト条約、さらには99年ユーロ発足につながった。この間、ECスネーク・EMS(欧州通貨制度)・ERM(為替相場メカニズム)を通じ経済・通貨の中心において、ドイツが「欧州のアンカー(頼みの綱)」の役割を果たしてきた。特に90年の東西ドイツ統合の条件として、故ミッテラン仏大統領(当時)が強く求めたユーロ参加要請を躊躇しつつも受け入れたことが、結果的にドイツの現在の隆盛につながった。

過去の大戦で欧州に甚だしい惨禍を招きながら、その後の統合で最大の恩恵を受けてきた国が、負担すべきコストを最小限に止めつつ、自国利益の最大化のみを追求し続けることなど、叶うはずもないだろう。フィッシャー元独外相は、「ドイツは20世紀に2度、自国と欧州の秩序を破壊した。復活したドイツが欧州の秩序を3度崩壊に追い込むなら、悲劇的かつ皮肉なことだ」と警告している(ロイターコラム2012年6月27日掲載「ドイツがユーロを離脱する方が相対的に容易=カレツキー氏」)。

<通貨統合に投資した政治的資産>

もちろん、ドイツを含めたユーロ圏が最適通貨圏であるかどうかは別問題だ。最適通貨圏の前提条件は、同質的経済であること、貿易面で経済が十分に開放されていること、労働力移動が十分であることなどだが、たとえば南欧・東欧へと拡大してきたユーロが1番目の条件を満たしていないことは明白だ。

とはいえ、繰り返すが、ユーロはそもそも経済的合理性を超越した政治的意思によって生まれたものだ。いまさら、経済的合理性を理由に、ユーロ崩壊の可能性を指摘されても、当事者たちからすれば、「そのようなことは分かっている」ということではないだろうか。実際、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は7月後半、仏ルモンド紙のインタビューに答え、「ユーロ圏が崩壊するとのアナリスト予想があるが、これは各国首脳が通貨同盟に投資した政治的資産と、欧州の人々の支持を認識していない見方だ」と明言している。

欧州統合深化の鍵を握るドイツ人は、遠く19世紀前半に「イタリア紀行」を綴った文豪ゲーテの時代より、地中海の太陽に憧れ、アルプスを越えて、南欧を目指してきた。かつて夏になると旅行収支ゆえにマルク安・南欧通貨高になった牧歌的な時代もあったが、ドイツ人の心のあり方や人の流れは不変であろう。楽観的に過ぎると言われればそれまでだが、少なくともこの半世紀、ドイツが統合欧州の歴史的使命に抗ったことはなかった。

9月は、ドイツ憲法裁判所によるユーロ圏救済基金の是非についての判決、オランダ議会選挙、ギリシャの財政再建進捗状況の評価などイベントが目白押しだ。市場は日々のニュースに一喜一憂するだろうが、筆者が今もディーリングルームにいるならば、きっとユーロ相場反転のタイミングをうかがっていると思う。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up