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コラム:「欧米の日本化」は第二幕、円高不況の誘因にも=熊野英生氏

[東京 4日 ロイター] 日本の生産動向が思わしくない。エコカー補助金の反動が長期化し、さらに海外経済が停滞すると、景気後退局面入りする可能性は小さくない。

10月4日、第一生命経済研究所の首席エコノミスト、熊野英生氏は、日米欧に共通する現状は財政・金融政策の神通力の衰えであると分析。提供写真(2012年 ロイター)

鉱工業生産指数と予測指数の推移をみると、今年1月のピークから10月までに生産水準がマイナス8.4%も低下する見通しである。過去10年間でみて、震災後と2004年の在庫調整局面を除くと、生産水準がピークアウトして下がったときは、大方そこで景気後退局面を迎えている。

リーマンショック以降のドル円レートは、景気悪化に反応してリスク回避志向が強まり円高が進む展開になっている。景気後退と円高が同時進行すると、デフレや産業空洞化といった日本経済の構造問題がさらに深刻化しかねない

景気後退リスクの正体は何か。「リーマンショックの後遺症で民間部門の成長力が弱い」からと言ってしまえば、それで終わりなのだが、筆者は民需の弱さとコインの裏表の関係で、経済政策の影響力についての問題が重要だと考える。

すなわち財政・金融政策に依存して景気悪化を乗り切ろうという「政策期待の低下」である。それは、日本だけではなく、財政再建途上の欧州でもそうだし、米国でも似たような状況になっている。

<「財政の崖」ショックは完全に織り込めるか>

まず、考察の材料として米国の「財政の崖」への対応を取り上げて吟味してみよう。

日本経済の最大の脅威は、米国経済の失速である。米国の雇用統計は2012年の春先までは雇用増に勢いがあったが、それ以降は勢いを失っている。今後の米経済の鍵を握るのは、延長されてきたブッシュ減税などが期限切れするなど、財政刺激が途絶えるリスクである。このままいけば、2013年初めから景気に急ブレーキを踏む格好だ。これが「財政の崖」のリスクである。

ところで、こうした明白なイベントリスクに対して、マーケットは事前に織り込むので、イベントが起こった時点では動かないという見方もできる。また、2011年夏の債務上限問題のように、こじれても最終的に政策対応がなされるのを見越して、リスクを小さく評価しているという見方もできる。

確かに、1か月後の米選挙で新大統領が決まれば「財政の崖」に対処する政策手当てが行われるだろうと、筆者はみている。しかし、ある程度の政策対応が行われたとしても、米景気が下方屈折するリスクは残り、現時点では米経済が抱えるダウンサイドリスクは織り込み切れないという見方もしている。

こうした考え方の背景にあるのは、米国が景気リスクを経済政策でうまく乗り切る力量が、以前に比べて大きく低下しているという構図である。

<見透かされる財政政策の限界>

オバマ大統領は就任後、2009年と2010年に大型景気対策を打ち出したが、それではリーマンショック前に辿ってきた成長軌道に復することはできなかった。むしろ、2011年の中間選挙で、民主党が敗北したため、財政政策を積極的に行うことができず、今度の「財政の崖」でも同じように事前の対処ができないでいる。

こうした状況を「景気回復のために無制限に財政出動を行って需要不足を完全に穴埋めすればよかったのに、それをためらった」と批判することは容易だ。ただし、それは「しなかった」のではなく、「できなかった」という方が正しいだろう。

財政拡張分は後から国民の税金で回収されるべきものだ。議会で無制限の財政拡張に慎重論が出るのは当然だ。巨額の国債消化を迫られるリスクが高まり、中央銀行もそれに配慮せざるを得ない。米国でも日本と同じように、限られた財政出動の余地を使い果たしつつあるという見方ができる。

米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和第3弾(QE3)に踏み出したのも、そうした財政政策の限界を肩代わりしなくてはならないからだろう。バーナンキFRB議長は、非伝統的な金融緩和による副作用と、それをしない場合の弊害を比較しながら、QE3実施によるマイナス作用の方が小さいと判断したのだろう。問題は、それでもリーマンショックの後遺症が思いのほか根深く、金融緩和の期待効果も限定的であることだ。

財政政策も金融政策も、リーマンショック以前に信じられていたような神通力を失って、金融市場に定着したリスク回避志向を大きく塗り替えるには至らなかったことが問題の根底にある。

<円高リスクの長期化も>

もはや財政政策も金融政策も以前のような神通力はないという見方は、日本にも欧州にも共通する。正確に言えば、日本はとっくの昔にそうした状態に陥っている。

日米欧に共通する現状は、日本化の「第二ラウンド」と言えるだろう。

日本の場合は、第一ラウンドはバブル崩壊後に、財政・金融政策を大規模に動員して、急激な景気悪化に対処しようとした局面である。1993年から97年までは小康状態を得たが、97年末からは金融危機に陥った。これを大型財政政策で乗り切って、2000年前半は小康状態を取り戻したが、2001年から再び金融危機に戻ってしまった。

2001年に就任した小泉首相は、公共事業には依存しない方針を打ち出し、緊縮財政路線をとった。小泉首相が財政拡張を積極的にしなかったのではなく、もはや小渕政権の後は積極的にできない構造の上にあったとみることができる。99年からのゼロ金利政策といい、2001年以降の財政緊縮路線といい、もはや財政・金融政策がその機動性を喪失した状態という意味で「第二ラウンド」に入ったということができる。

日本の苦悩は、90年後半に金融危機を迎えた頃から、人口高齢化という構造的な成長制約が存在感を大きくし、低成長の固定化につながった点にある。欧米経済が「第二ラウンド」に入って、日本と同じような人口高齢化の下押し圧力を今までよりも強めていく可能性もある。

日本化の「第二ラウンド」がその姿を鮮明にしてくる中で、円高リスクの長期化が予想される。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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