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コラム:オバマ再選後の「円の独歩高」再現リスク=佐々木融氏

[東京 8日 ロイター] 米大統領選挙は終わったが、米国の動向が市場の注目を集めるのはむしろこれからである。大統領選挙は今後のドラマの役者を決めたにすぎない。欧州もギリシャやスペインの動向が気になるが、為替相場の主役はしばらくドルになるだろう。

11月8日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・債券為替調査部長は、米国の債務上限問題の行方次第では、大統領選直後に起きたような「円独歩高」が再現されるリスクがあると指摘。提供写真(2012年 ロイター)

まずは、投開票を経て8日現在に至るまでの相場の動きをおさらいしておこう。

開票は日本時間7日午前中に進んだ。当初は米長期金利と米株価先物が下落する中で、円が主要通貨に対して全般的に上昇する「円独歩高」の展開となった。その後、次第にオバマ大統領の優勢が伝えられると、今度はドルが主要通貨全般に対して売られ始め、円高主導で弱含んでいたドル/円相場はドル安主導で一段と下落した。そして欧州時間に入り、ドル/円相場は一度反発したが、欧米株価が急落すると、市場のセンチメントは一気に「リスク回避(リスクオフ)」の方向に傾斜。再び円とドルの双方が買われ、その中で円がドルの強さを上回ったので、ドル/円相場は円高・ドル安方向に下落した。

このように相場の流れをきちんと追わないと、「米大統領選挙の結果を受けて、米株価が下落しドル/円が下落した」から「ドルが売られた」という見方をしてしまいがちだ。しかし、7日の主要通貨の騰落率を見ると、ドルは実は二番目に強かった。一番強かったのは円である。たとえば、ドルは円に対して0.4%下落したが、英ポンドは円に対して0.5%下落、豪ドルやスイスフランは0.7%、ユーロは0.8%、カナダ・ドルは0.9%、ニュージーランド・ドルは1.5%も下落している。

つまり、7日の動きは「米株価が下落しドルは買われたが、最も強かったのが円だったのでドル/円は下落した」と見るのが正しい整理の仕方なのだ。

これは珍しい現象ではない。実は市場が「リスクオフ」になった時の典型的な動きである。誤解され易いが、米株価とドルは逆相関の関係にある(特にリーマンショック後、この傾向が強くなっている)。米株価の上昇は「米株に資金が流入するのでドル高」要因と考えられがちだが、実際には米株価が上昇すると米投資家のリスクテイク嗜好が強まり、対外投資が増加するのでドル安になる。これは日本のケースと同じだ。日経平均と円の関係を考えれば分かり易い。

ちなみに、米株価が上昇する際には、米長期金利も上昇する傾向があるが、米株価が特に力強く上昇する時には、米株価とドルの逆相関関係が強まる一方、米長期金利とドルの正の相関関係は弱くなる傾向がある。

<相場の行方を左右する「財政の崖」問題>

ところで、筆者は今回の選挙結果を受けた「リスクオフ」の状態が長続きするとは考えていない。確かに、ロムニー氏が米連邦準備理事会(FRB)議長を指名する大統領になり、共和党がFRB議長を承認する上院の過半数を握った場合は、量的緩和の終了時期や超低金利政策が正当化される期間が2015年半ばより前倒しになるとの思惑で、米長期金利が上昇しドル高に多少寄与する可能性はあった。しかし、選挙結果は、そうはならなかった。

となると、ここから半年程度の為替相場を見ていく上で、最も重要なカギを握るのは、やはり目前に迫る「財政の崖」問題であると言えよう。

「財政の崖」とは、このまま米国政府が何も手を打たないと、12年末時点で、所得税やキャピタルゲイン課税などの減税(ブッシュ減税)が終了する他、給与税(社会保険料)の減税が終了し、また13年1月から歳出の強制削減措置が始まることを指す。

このまま何も措置が取られず、米国経済が「財政の崖」から転落すると、2.9%ポイントも国内総生産(GDP)成長率を押し下げることが予想され、来年の米国経済のリセッション入りはほぼ確実となる。「財政の崖」を避けられるかどうかは、大統領がオバマ氏かロムニー氏かという違いよりも、米国経済に与えるインパクトは遥かに大きいのである。

そうした意味では、現職大統領が再選され、議会勢力も現状維持となったことで、レームダック期間となる年末までに、民主・共和両党が妥協し、減税期限の半年程度の延長と年明けの再審議で合意することは可能と考えられる。来年も同じ大統領、同じ議会勢力であるわけだから、妥協を先延ばしにするインセンティブはさほど大きくないだろう。

仮に「財政の崖」から転がり落ちるのを、少なくとも半年程度先延ばしにすることが決まった場合、米株価は上昇トレンド入りする可能性が高い。前述の通り、米株価とドルは逆相関関係にあるから、米株価が上昇トレンド入りした場合は、ドルは全般的に弱含むことになる。この場合、投資家のリスクテイク嗜好が強い「リスクオン」の環境となり、円も弱い通貨となり、ユーロ/円や豪ドル/円などのクロス円は円安方向に上昇するだろう。もっとも、過去1カ月程度、海外短期筋による円売りポジションの積み上げが進んでいることを考えると、円はドルほど弱くはなれないだろう。つまり、ドル/円相場は「ドル安」を主因として緩やかな円高基調を続けると考えられる。

<円独歩高を招きかねない債務上限問題>

もう一つ注目されるポイントは、FRBが追加の金融緩和を行うかどうかである。現在、FRBが実施しているオペレーション・ツイスト(短期の債券を売却して、長期の債券を購入)は今年12月末に終了することになっている。これを受けて、FRBが短期債の売却は終了する一方、長期債の購入を続ける、つまり一種の量的緩和第4弾(QE4)に乗り出す可能性があると一部の市場参加者は見ている。

この点については、14日に公表される米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨でヒントが明らかになる可能性もあるし、12月11―12日に開催されるFOMCで何かしらの発表が行われる可能性がある。前述の「財政の崖」を回避できるとの思惑が強まる中で、追加緩和が行われる可能性が高まれば、「株価の上昇=ドル安」の流れを一段と後押しするだろう。

また、年末から年初に向けて注意しなければならないのは、米国の債務上限問題である。

格付け会社フィッチ・レーティングスは大統領選挙翌日の7日、「オバマ大統領に財政に関するハネムーン期間はない」と題する文章を公表し、「米議会が財政の崖を回避し、債務上限をタイミングよく引き上げることができなければ、米国の格付けを来年引き下げることもあり得る」とのコメントを発表した。振り返れば、昨年8月5日の金曜日(ニューヨーク時間の夜)に、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が米国の自国通貨建て長期債格付けをトリプルAからダブルAに格下げした後、ドル/円相場は翌週月曜日からの3日間で2.6%ほど下落した。

現在、米国の債務上限は16兆3940億ドルに設定されているが、このままだと年末頃にその上限に達する。特別な手段を講じ、来年1月末まで先送りすることは可能と見られ、また算出の対象にならない資金調達の方法を用いれば、さらに4月まで先送りできる可能性もある。しかし、いずれにしても、早期に債務上限が引き上げられなければ、投資家のリスクテイクに対するセンチメントを悪化させる可能性がある。その場合、世界的に株価が下落し、7日に起きたような「円独歩高」が再現されるリスクはあると考えられる。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に、「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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