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コラム:日中経済失速と戦前日本と中国の不穏な共通点=河野龍太郎氏

[東京 9日 ロイター] 日本経済は外需の落ち込みに加えて財政によるサポートが減衰しつつあり、今年半ばから失速している。輸出・生産の減速が残業代や休日手当など所定外給与の減少や企業収益の悪化を通じて個人消費や設備投資にも波及し始め、景気は後退局面に入った可能性が高い。

11月9日、BNPパリバ証券の河野龍太郎・経済調査本部長は、戦争に突き進んだ1920―30年代の日本と現代の中国との間に「不穏な共通点」が見られると指摘。提供写真(2012年 ロイター)

こうした中、かつてなく悪化した中国の対日感情が対中ビジネスを一段と冷え込ませ、追撃ちをかけている。

中国では、日本政府が尖閣諸島(中国名・釣魚島)国有化を決定した9月11日から現在に至るまで、日本ブランドの買い控えが続いている。特に日本製品の象徴である自動車の落ち込みが大きく、中国における日系自動車大手3社の売上高は、9月に続いて10月も前年比4―5割減少した。販売減少を受け、現地工場では9月下旬から大幅な減産が続けられている。

観光にも悪影響が広がっている。日系エアラインが運行する中国路線の予約キャンセル(9―11月搭乗分)は6万6000席を超え、9月の訪日中国人数は東日本大震災前の2010年9月と比べて10.1%減少した。また、中国人の日本国内での旅行消費は外国人旅行消費全体の3割弱を占めており、観光客の減少は小売店にも悪影響を及ぼしている。10月の百貨店売上速報では、外国人の免税売上額が2割ほど減少したと報告する店舗が複数見られた。

経済統計にも影響が現れ始めた。9月の貿易統計によると、中国向けの実質輸出は全体では前月比0.5%の減少に留まるが、日中関係悪化の影響を受けやすい輸送用機器輸出は15.7%も減少した。問題発生が9月中旬であり、それ以前の輸出は通常通り行われていたことを考えると、11月に公表される10月の対中輸出はさらに悪化すると見られる。

もっとも、日本の輸出の19.7%を占める中国向け輸出は、尖閣諸島問題が深刻化する前からすでに低調だった。11年春先に頭打ちとなり、中国経済の減速が鮮明化した第4四半期から減少に転じたのである。

昨年末からの対中輸出の動向を見ると、全般的に低調で、電気機器は伸び悩み、輸送用機器は現地販売の不振から減少しているが、設備投資に用いられる一般機械の落ち込みは特に大きい。これは、中国で過去10年超に及ぶ輸出ブームや投資ブームの下で蓄積された過剰ストックの調整が始まったことが影響している。鉄鋼や化学なども低調だが、これも同様の理由である。日本の中国向け輸出は、両国の関係悪化で減少したのではなく、もともと低迷していたところに、関係悪化がダメ押しとなった。

<もしも自動車輸出がゼロになったら>

では、今後、不買運動など日中間の取引減少が続けば、どの程度のインパクトが日本経済に生じるだろうか。日本の中国向け輸出は国内総生産(GDP)の2.8%、中国からの輸入はGDPの3.1%を占め、少なからぬ悪影響が生じるのは想像に難くない。

最も影響の大きい自動車輸出がゼロとなる極端なシナリオを考えてみる。日本の昨年の対中自動車輸出は完成品と部品の合計で1.2兆円と中国向け輸出の9.4%を占めており、仮にこれがゼロとなれば、総需要はGDP比で0.26%減少する。波及効果を考慮すれば、国内生産を0.76%押し下げることになる。

訪日中国人数の減少も懸念材料である。自動車ほどマクロ経済に与える影響は大きくないが、中国人の日本での旅行消費総額は1964億円と訪日外国人の中で最も大きく、観光業や小売業に悪影響が及ぶのは避けられないだろう。

<中国経済への悪影響も大きい>

むろん、日中関係の悪化は、減速の続く中国経済にとっても悪影響が大きい。

日本の中国向け輸出の6割弱は中核部品や建設機械、原動機などの資本財であり、こうした日本製品の供給が止まることになれば、中国側もサプライチェーンに滞りが生じ、ITデジタル分野など加工組立セクターを中心に、生産・輸出に支障を来たす。東日本大震災後の世界的なサプライチェーンの混乱を振り返ると、供給先を他国に振り替えるのは容易ではないだろう。

また、日系メーカーが製造する財・サービスの販売不振は、生産・販売に携わる中国企業の業績や雇用にも悪影響を及ぼす。他国の財・サービスに代替されるとの見方もあるが、現実には9月の中国の自動車販売は日本車の激減を補いきれず、前年比マイナス1.8%と落ち込んでいた。

さらに、中国への対内直接投資にも悪影響が及ぶ恐れある。

世界的な景気減速や欧州債務問題を背景に、12年1―9月の対中投資は前年比マイナス3.8%と減少した。そうした中で、日本からの投資は円高を追い風に17%も増加していたが、今後は急激にブレーキがかかる可能性がある。

中国では、賃金上昇の加速などを背景に、このところ実質為替レートが上昇しており、生産拠点としての魅力は以前に比べて薄れているが、中間層の消費の拡大が続く巨大市場を取り込む目的で、世界各国から対中投資が続けられてきた。しかし、日中関係の対立が長期化・先鋭化する事態となれば、中国の政治リスクが改めて意識され、日本企業のみならず、他国の企業の間でも中国以外の地域への投資を選択する、あるいは対中投資を手控える動きが広がる可能性がある。中国にとって対内投資は、技術進歩を促し、成長分野を促す成長戦略のツールだったはずである。これが滞れば、中国の潜在成長率に悪影響を与えることにもなりかねない。

<戦前の日本を想起させる中国の権力基盤変化>

しかし、事ここに至っても、両国の間に関係改善に向けた動きが本格化する兆しはない。それどころか、背後で構造的な要因が大きく影響しているため、短期に解決を図ることは至難の技なのかもしれない。

そもそも中国は2000年代に飛躍的に軍事力、経済力を高め、日本だけでなく東南アジア諸国との間でも領土に関し緊張が高まることが増えていた。背景には、リーマンショック後の世界同時不況からいち早く脱したという自負もあろう。

また、国内では、高成長の継続によって生活水準の向上した人々の間で民主主義意識が高まると同時に、ナショナリズムも目覚めた。当局の統制が及びにくいネット民主主義も広がっている。一方、成長から取り残された人々の間では格差拡大に対する不満が高まっている。これらはいずれも中国共産党の権力基盤を弱める要因だが、領土問題で弱腰と受け止められる対応は、軍や保守派だけでなく、一般国民からもより強い批判を受ける恐れがある。

さらに、より長い目で見ると、鄧小平氏の死後、共産党革命世代が不在となり、以前ほどトップの政治的威光が通用しなくなったことも影響している。胡錦濤氏は革命世代の鄧小平氏が選んだという意味ではまだ正当性を保っているが、習近平氏にはそうした正当性もないため、これまで以上に民意や軍のコントロールを含め共産党支配は難しくなっている。

振り返って見ると、明治憲法下の日本でも、政治・軍事両面を掌握していた維新の元勲らが死去した後、民主主義が深化する中で、内閣は法的に分立する軍部をコントロールできなくなっていった。戦争に突き進んだ1920―30年代の日本と現代の中国との間に不穏な共通点が見られる。

一方、日本政府も外交上のミスを犯している。そもそも民主党政権誕生後、普天間問題を巡って軍事同盟国である米国との関係に揺らぎが生じ、中国のみならず、韓国、ロシアとの間でも領土を巡って関係が悪化する傾向が見られる。

また、今回の尖閣諸島問題の対応もまずかった。今年は、中国では10年ぶりに政治指導者が交代する大事な分岐点だ。薄煕来問題を見ても分かるように、政治的に非常に不安定な状態に陥っており、外交には細心の注意を要する時期である。政治的な空白を衝いたとも受け止められかねないタイミングで、しかも81年前に満州事変の発端となった柳条湖事件(9月18日)直前の9月11日に国有化を決めれば、中国指導部の神経を逆撫ですることは火を見るよりも明らかだったはずだ。

最も早いケースでは年内にも行われる総選挙で再び政権交代が起こり、それを機に日中関係は正常化に向かうという見方もあるが、仮に自民党が政権を取れば、外交・防衛面でタカ派として知られる安倍晋三氏が首相に選出される公算が大きい。確かに、安倍氏には2006年の首相就任後、最初の外国訪問先に中国を選び、小泉純一郎政権下で悪化した対中関係を改善させた実績もある。だが、従来からの主張を鑑みるに、対外強硬路線を打ち出し事態が長期化する可能性は否定できない。

日本経済に戻ると、第3四半期の成長率は、内需・外需がともに落ち込み、筆者の推計では年率3.5%程度のマイナス成長となりそうである。第4四半期についても、国内ではエコカー補助金の終了で自動車販売が低迷し、生産活動を広く抑制する公算が大きい。海外に目を向けると、米国経済は底堅い動きを続けているが、欧州経済には改善が見られない。そして中国では、製造業PMIなど持ち直しを示唆する経済指標も徐々に見られるようになってきたが、尖閣諸島問題が重石となるため、日本の中国向け輸出の回復は他国に比べて遅れる公算が大きい。輸出の早期回復は難しく、日本経済が回復に向かうのは来年1―3月期以降になるだろう。

*河野龍太郎氏は、BNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエコノミスト。横浜国立大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、大和投資顧問(現大和住銀投信投資顧問)や第一生命経済研究所を経て、2000年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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