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コラム:資本の流れが示す「円安加速」への分岐点=亀岡裕次氏

[東京 14日 ロイター] 日本の国際収支は円相場にどのような影響を与えているのだろうか。近年、収支悪化が目立つのが貿易収支や経常収支だ。

11月14日、大和証券・チーフ為替ストラテジストの亀岡裕次氏は、海外流出に傾く資本収支のトレンド変化に着目し、円安作用が強まる可能性を指摘。提供写真(2012年 ロイター)

国際収支統計における貿易収支は、2004年10月までの年間14.3兆円の黒字をピークに悪化し、12年9月には年間4.8兆円の赤字に落ち込んでいる。また、貿易収支に所得収支などを加えた経常収支は07年10月までの年間25.1兆円の黒字をピークに悪化し、12年9月には年間5.7兆円の黒字にまで縮小している。

新興国の台頭や円高に加え、世界経済の成長率がリーマンショックを境に低下したことや、東日本大震災の原発事故で燃料輸入が増加したことが、収支悪化の原因と考えられる。なかでも本質的な原因は、新興国の台頭が相対的にコストの高い日本の輸出競争力を低下させると同時に、資源需要増による資源価格高を通じて日本の輸入額を拡大させていることだろう。所得収支の黒字は円高の影響もあり、08年3月までの年間16.9兆円から12年9月には年間14.1兆円に縮小している。

国際収支の発展段階説に従えば、現在の日本は「成熟した債権国(貿易収支は赤字に転換するが、過去の対外債権からの収入があり、所得収支が黒字のため、経常収支は黒字)」だが、将来は「債権取崩国(貿易収支の赤字が拡大し、経常収支が赤字に転落。対外債権が減少)」に移行する可能性がある。

12年9月は輸出の落ち込みなどにより貿易赤字が直近ピークを更新し、経常収支の黒字が減少した。注目度は高くないようだが、9月は季節的に経常黒字(原数値)が大幅に増えやすい月であるにもかかわらず、ほとんど増えなかったため、季節調整した経常収支は1420億円の赤字となった。1981年3月以来、31年半ぶりの経常赤字である。あくまでも単月の赤字ではあるが、経常黒字がいつまでも続くものではないことを示唆しているようでもある。今後、世界景気とともに輸出の伸びが回復しても、同時に一次産品などの輸入価格が上昇することで、資源輸入・製品輸出の加工貿易国である日本の貿易収支は改善しにくいだろう。日本の貿易・経常収支の悪化傾向が続き、円安要因になる可能性は十分にある。

<ITバブル時のドル上昇にヒント>

しかし、11年には経常黒字が減少する一方で円高が進むなど、経常収支と円相場には明確な相関は認められない。経常収支が悪化したとはいえ黒字(資本流入)を維持しているため、円高に作用し続けているのだろうか。そうとも言いがたい。資本流入が減ることは、資本流出が増えることと同じで、円安要因になるはずだ。それでも、円高になったのは、経常取引(=貿易取引+利子・配当金受払等)以外での為替売買が影響したからだろう。国際収支で経常取引と双軸をなす資本取引(=対外金融資産・負債の取引)に関わる為替売買や、為替のキャピタルゲインやリスクヘッジを目的とした為替売買が円高に作用したとみられる。為替の売りと買いを合わせたグロス規模では後者が大部分を占めるものの、売りと買いの差をとったネット規模では前者も大きい。

11年には経常黒字が減少する一方で、資本収支は赤字が縮小して年間6兆円超の黒字に転じた。経常収支の悪化よりも資本収支の改善の方が大きく、両者を合わせると資本流入に傾いたため、円高が進行したとみられる。年間で14兆円を超える当局の円売り・ドル買い為替介入が実施されて外貨準備が増加(資本流出)し、事後的に国際収支はバランスしたが、資本収支が円相場に与える影響が大きかったといえる。

ITバブル時の米国でも、好景気の輸入増で貿易・経常赤字が大幅に拡大したにもかかわらず、海外からの対米投資が旺盛で資本収支の黒字が拡大したため、ドル相場は上昇した。資本市場が未発達の新興国では経常収支が為替を左右しやすいが、資本市場が発達した先進国では資本収支が為替を左右しやすい。

<海外流出に傾く資本収支>

注目されるのは、資本収支のトレンド変化だ。11年末頃を境に、それまで黒字拡大(資本流入)方向にあった資本収支は黒字縮小(資本流出)方向に転じ、ほぼ同時に為替は円高進行に歯止めがかかっている。その資本収支の変化を生んだのは、主に証券投資収支であり、日本からの対外証券投資は中長期債を中心に拡大に転じた。

11年11月までの1年間に2兆円程度に落ち込んでいた指定報告機関ベースの対外証券投資(ネット)は、12年11月時点で年間14兆円程度に上る。一方、日本への対内証券投資は短期債を中心に、11年末までの年間21兆円から6兆円程度に縮小しており、証券投資収支は赤字(資本流出)幅を広げる方向にある。また、資本収支を構成する直接投資収支は、年間10兆円弱の赤字で大きな変化はないが、ソフトバンクによる米国企業の200億ドル(約1.6兆円)での買収が決まるなど、直接投資収支の赤字を拡大させる動きも出てきた。このように、すでに資本収支が海外への資本流出に傾き、円安に作用しつつある。

ただし、これまでの対外証券投資は、円売り・外貨買いによる円安効果が小さいとの指摘もある。なぜなら、投資家部門別にみると、対外証券投資拡大の多くが銀行(銀行勘定)によるもので、同部門は外貨を外貨建て運用に投入する外投型の割合が大きいからである。

また、円貨を外貨建て運用に投入する円投型の投資信託委託会社等(投資信託委託会社及び資産運用会社)の対外証券投資が減少してきたことも、円安効果を小さくする一因だ。過去には、銀行の対外証券投資が拡大した10年6―10月に円高が進んだ事例もある。当時は、米量的緩和第2弾への期待から米金利低下・ドル安圧力が働いており、銀行が債券のキャピタルゲインを狙い、ドルを調達して米国債に投資したとみられる。対外証券投資の中心が外投型であったために、円安効果は生まれなかったのだ。

では、今回はどうだろう。欧州信用不安が後退し始めた12年8―9月に銀行の対外中長期債投資が拡大しており、建値通貨別にはユーロ建て、地域別には欧州のドイツやフランス向けの投資が増えている。欧州信用不安で利回りが低水準となったドイツやフランスの中長期債を、信用不安が後退して利回りが上昇しやすい局面で買うということは、債券のキャピタルゲイン目的ではなく、円安を狙った為替差益目的の可能性が高いだろう。

また、12年には円投型の生命保険会社の対外証券投資が増加し続けている。為替リスクをヘッジした投資だけが増えているとは考えにくいので、その円安効果は増しているのだろう。なお、投資信託委託会社等の対外証券投資は、為替の円安傾向がはっきりしてから増えるトレンド追随型であり、為替に先行して動くケースは少ない。同投資がまだ増えていない段階で、円安が進み始めるケースは多い。

足元は米財政の崖に対する懸念などからリスク回避の円高圧力が残るものの、主要国の金融緩和による低金利・通貨供給増に、米国・中国の景気回復期待や、欧州財政の緊縮緩和などが加わり、リスク選好の円安要素が増えつつある。そして、円相場を貿易量で加重平均した実効為替レートは、07年以降の円高トレンドを円安方向に抜けるか否かの分岐水準にある。今後、円高トレンドを脱したとの見方が強まれば、対外証券投資の為替ヘッジ比率を低下させたり、円投型の対外証券投資を拡大させたりする動きが増えるだろう。すでに流出方向に傾いている資本の流れが、円安作用を強めることになりそうだ。

*亀岡裕次氏は、大和証券の投資戦略部担当部長・チーフ為替ストラテジスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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