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コラム:円安期待が裏切られる日=村田雅志氏

「アベノミクス」による円安効果について、筆者は懐疑的な姿勢を持ち続けている。その理由の一つは、日本から海外への資本フローが日本の経常黒字を相殺できる規模に達しておらず、結果として潜在的な円買い圧力が高止まりしているからである。

7月9日、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのシニア通貨ストラテジスト、村田雅志氏は、日本人投資家による潜在的な円買い圧力が高止まりしていることから、101円台まで反発したドル円が今後さらに大きく上昇するとは期待しにくいと指摘。提供写真(2013年 ロイター)

財務省が8日発表した6月の対外及び対内証券売買契約等の状況(指定報告機関ベース)によると、いわゆる日本人投資家による対外債券(中長期債)投資は約3兆円の処分超と2005年1月の統計開始以来、過去最高の売り越しとなった。日本人投資家による対外債権の売り越しは、ドル円が90円台に上昇した今年2月から5カ月連続となっており、今年上期の売り越し額は10.6兆円に達している。

一方、外国人投資家による対内株式投資は昨年10月から買い越しが続いている。6月は7648億円の買い越しと4カ月ぶりに買い越し額が1兆円を割り込んだものの、今年上期の買い越し額は8.8兆円に達した。

証券投資に加え直接投資、貸付なども含めた資本収支をみても、5月はネットで9000億円が海外から日本に流入。海外への直接投資や貸付は日本から流出超となっているものの、証券投資による日本への流入分を相殺できていない。今年上期で見ても資本収支は1.2兆円の黒字(資本流入超)である。

日本は11年3月の東日本大震災以降、貿易収支が赤字基調で推移しているが、経常収支は依然として黒字を維持。今後は輸出の持ち直しを背景に貿易赤字が縮小する一方で、所得収支は円安効果もあって高水準での推移が見込まれることから、日本の経常黒字は緩やかながら拡大を続けると予想される。

マクロ経済学では、外貨準備が変化しない限り、経常収支と資本収支の合計はゼロ。つまり経常黒字国である日本の場合、資本収支は赤字基調であるはずだ。しかし現実には日本の資本収支は経常黒字を相殺すべく赤字(資本流出超)であるどころか黒字(資本流入超)。今後、経常黒字がさらに拡大するようだと、日本への資本流入が拡大し、円買い圧力は強まることになる。

<ドル円上昇期待の根拠薄弱>

日本銀行の黒田東彦総裁は4月4日の金融政策決定会合後の会見で、「量的・質的金融緩和」によってポートフォリオリバランス効果が期待できると指摘した。同効果は、日銀が市場に潤沢な資金を供給することにより、金融機関がより高いリターンが期待できる運用先を求めてポートフォリオを再構成することを期待するものだ。

同総裁の指摘を受け、市場関係者の一部は日本の金融機関が海外への証券投資を拡大させるとの見方を強めたようだが、現実は逆だった。前述したように、金融機関を中心に日本人投資家は、これまで積み上げてきた対外証券の取り崩しを続けている。

円安が進展し、米国を中心に海外債券利回りの大幅な低下が見込みにくくなってきた一方で、円債利回りは日銀の異次元緩和後に上昇。日本人投資家が対外証券を取り崩し、日本に資本を回帰させるのは自然のことといえる。

市場関係者の中には、米連邦準備理事会(FRB)による緩和縮小観測を背景にドル買いが続き、ドル円のさらなる上昇を期待する向きもあるようだが、筆者はその見方にも懐疑的である。日本人投資家による潜在的な円買い圧力が強まる可能性があるなか、101円台まで反発したドル円が、今後さらに大きく上昇するとは期待しにくい。

5日に発表された6月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が市場予想を上回る増加となり、4月分、5月分も上方修正。FRBが早ければ9月にも緩和縮小に動くとの観測が再び強まり、米債利回りは大きく上昇した。ただ、FRB高官が相次いで指摘するように、米連邦公開市場委員会(FOMC)で議論しているのは量的緩和の縮小であって利上げの開始ではない。

5日のフェデラル・ファンド(FF)先物取引では、14年9月の利上げ確率が50%を超えたが、第1四半期に年率2%に満たない成長にとどまっている米国に利上げを期待するのは無理がある。今後は米債券市場における行き過ぎた緩和縮小期待が後退し、米債利回りの上昇は一服するだろう。日米金利差の拡大を背景としたドル円の上昇も見込みにくくなる。

また、中国景気の先行き懸念が強まり、円買い戻しの動きが強まる可能性にも注意が必要だ。米商品先物取引委員会(CFTC)が発表したIMM通貨先物の取組(7月2日までの週)によると、円のドルに対する売り越しは7万0736枚と前週から増加し、円売りポジションが依然として積み上がっている状況にある。

こうしたなか、1日に発表された6月の中国製造業購買担当者指数(PMI)は50.1と景気の分岐点とされる50をかろうじて上回ったが、前月より悪化。同日に発表された6月の中国HSBC製造業購買担当者景気指数(PMI、改定値)は48.2と9カ月ぶり低水準になるなど、第2四半期の中国景気の減速感が強まっている。

貿易収支、新規元建て融資、実質国内総生産(GDP)など10日以降に発表される6月の経済指標が悪化傾向を続ければ、同国景気の先行き懸念がさらに強まる。中国経済指標の悪化は、円売りポジションを手仕舞う良いきっかけになるだろう。

*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのシニア通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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