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コラム:ドル高とユーロ安を予感させる「秋の陣」への備え=斉藤洋二氏

バカンスシーズンも終わり、金融市場ではいよいよ「秋の陣」が始まろうとしている。秋は株式市場でも為替市場でも、暴落や乱高下など大相場が演じられてきた。

8月26日、ネクスト経済研究所の斉藤洋二代表は、秋以降の為替相場について、主役は円よりもドルとユーロになると予想。提供写真(2013年 ロイター)

波乱相場の季節性について仮説のひとつは、昼の時間が短くなり、人間が心理的に鬱(うつ)傾向を強め、その行動の結果が市場を変動させると説明する。また、他説では8月半ばから10月まで猛威をふるうカリブ海のハリケーンの影響を指摘する。微妙な均衡の上に立つ複雑な体系であるグローバル経済は、地球の大気の波動に共振するというものだ。

両仮説とも複雑性理論の範ちゅうに入り、科学的な証明は難しいが、少なくとも夏の出来事が秋の市場変動と大いに関係していることは確かなようだ。夏に市場が見過ごしてきた数々の出来事が、突如として暴力的に表面化するということだろう。

市場は合理的な人々で形成されておらず、ましてや効率的に運用されているわけでもない。それゆえに、波乱発生の季節性を全面的に否定することは難しい。理由は不確かとしても、秋に混沌が発生しやすいことだけは確かであり、夏場に無視してきたものの、実は臨界点に達している事象について思い巡らすことこそ、「秋の陣」を目前にして行うべきことだろう。

<ドイツ頼みのユーロに下落リスク>

まず臨界点に達した可能性をはらんでいるのは、主要通貨の中で一時「最強通貨」となり、今も意外な底堅さを示しているユーロである。

ユーロドルは昨年7月24日の1.2042ドルから今年2月1日の1.3711ドルまで約14%も上昇し、現在も1.33ドル水準と約10%高となっている。ユーロ円にいたっては、同じ昨年7月24日に94.12円の安値をつけて以来、今年5月22日の高値133.82円まで約42%も上昇し、現在も132円近辺と約40%高である。

欧州は昨年の夏場まで、債務危機に喘ぐギリシャがユーロを崩壊の瀬戸際まで追い込み、世界を震撼させた。「喉元過ぎれば」の喩(たとえ)の通り、今やユーロの評価は一変した。

確かに、昨年9月の「新たな国債買い入れプログラム(OMT)」導入で重債務国の利回り上昇を抑え込んだ欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁の手腕によるところは大きい。また、その「ドラギマジック」に加えて、欧州連合(EU)、国際通貨基金(IMF)、そしてヘアカット(債務元本の削減)に応じた金融機関の努力と支援があり、それらが市場心理を好転させ、ポシジョンの巻き戻しを生んだといえよう。しかし、欧州が抱えてきた根本的な問題は解決したわけではない。これからもユーロを買い続けて良いものだろうか。

ユーロが崩壊の危機をひとまず乗り越えたことで、欧州が統合への自信を膨らませたことは確かだろう。実際、7月にクロアチアが28番目のEU加盟国となり、平和の保証と多額の補助金を得るところとなった。

また、ユーロについては、ラトビアが2014年1月に導入することが決まっているほか、リトアニアも15年の導入を目指している。すでにエストニアは11年1月に導入しており、実現すればバルト3国が勢ぞろいすることになる。東欧からは、ルーマニアやポーランドなどが10年代半ば以降の導入に向けて国内世論をにらみながら調整を進めていると見られる。

通貨統一による取引費用の低下に加えて、ECBなどから救済を受けられるようになること、さらにロシアの呪縛から逃れやすくなるメリットが、これらの国々のユーロ導入意欲を後押ししている。しかし、南欧諸国が直面したように、輸出競争力回復の対応策としての通貨切り下げという「切り札」を放棄するデメリットを過小評価しているのではないだろうか。また、ドイツはじめ欧州主要国は、域内の政治的安定と市場拡大を得る対価として、南欧諸国に続いて中・東欧諸国という新たな経済的重荷を背負うことになる。

一方、ユーロ圏銀行の監督体制と健全化スキームを一元化しようとする銀行同盟は未完成である。また、ECBは7月に従来の慣例を破って将来にわたる政策指針(フォワードガイダンス)を導入し、政策金利を当面、現行(0.5%)またはそれ以下の水準に据え置く方針を繰り返し示しているが、政策金利の下げ余地も他に取れる手段も限られており、手詰まり感は強まりつつある。

加えて、実体経済面では、4―6月期のユーロ圏の成長率は前期比0.3%(年率換算1.1%)と7四半期ぶりにプラスに転じたが、その回復力は依然弱い。さらに、5月、6月と失業率は12.1%にとどまり、若年層で見ればスペインやギリシャは約60%と雇用情勢は一段と深刻化している。ギリシャ以降の債務不安のドミノ現象は、フランスにも及ぶ気配を見せており、欧州の盟主であるドイツ頼みの構図は固定化しつつある。

その肝心のドイツでは、9月22日、総選挙が行われる。メルケル首相が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が第一党を占めても、これまでと同様に自由民主党(FDP)との中道右派で過半数を占めることは難しいとの見方もある。連立内閣組成は混乱する可能性があり、ドイツの政治情勢は波乱含みだ。

ドイツ人は南欧諸国への税金の垂れ流しに対する不満を高めている。選挙を挟んで、これまで深く潜行してきた欧州の債務問題など様々な負の側面についての議論が活発化し、金融市場へ波及する可能性を秘めている。現在のユーロ高トレンドが変化するシナリオには要注意だ。

<米金融政策の不透明感晴れ、円は脇役に転落か>

一方、大西洋をまたいだ米国の量的金融緩和策(QE)縮小、すなわちテーパリングは5月以降相場をかく乱し、「出口戦略」の難しさを改めて認識させた。その時期と縮小幅をめぐる思惑はすでに臨界点に達している。

この問題と表裏一体にあるバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長の後任人事について、オバマ大統領による指名そして上院の承認の帰趨は、金融市場の波乱材料となる可能性が高い。

本命と目されるのが、大統領経済諮問委員会(CEA)委員長、そしてサンフランシスコ連銀総裁を歴任したジャネット・イエレンFRB副議長だ。金融緩和を推進するハト派で、バーナンキ議長を補佐してきた。各社の調査でも順当な人事とされ、市場では過半がその就任を期待しているようだ。

ただ、節度なくQEを推進した張本人のひとりとして、就任に反対するキャンペーンが共和党や金本位制論者などから湧きあがっている。また、FRB議長職は大統領とともに今まで女性の登用はなく、米国社会において「ガラスの天井」が突き破られるのか否かも併せて注目しておきたい。

対抗馬のローレンス・サマーズ元財務長官は、第一期オバマ政権下において国家経済会議(NEC)委員長を務めた経緯からもホワイトハウスと近く、金融危機への対応など行政手腕が期待されている。ただ、同氏が就任すれば、早期に金融緩和解除に舵を切りそうだとも見込まれており、株式市場などにはその就任を懸念する向きが多いのも確かだ。

ともかくFRB次期議長人事は9月中、遅くとも10月には決定される見込みで、テーパリング問題の決着が近づくにつれて金融市場は一時混乱するとしても、前途を覆い続けてきた不透明感を晴らすことになるだろう。あく抜けした市場は、ドル高トレンドを形成する可能性が高いのではないだろうか。

翻って日本。消費税問題は、構造改革に向けたアベノミクスの本気度を問う「踏み絵」となる。万一、先送りや小刻み実施などが行われることになれば,一気に円高に振れる可能性を有している。いずれにせよ、昨年11月より9カ月にわたり株買い・円売りを誘発してきた「安倍トレード」は、相場のモメンタムを失いつつあることは否めない。

今後の円は、出口戦略の進行に伴う金利高を背景に強含む米ドル、そして下落リスクが増大したユーロを見ながら一進一退する脇役となるのだろう。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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