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コラム:安倍内閣支持率は株高・円安の「先行指標」=上野泰也氏

子どものなぞなぞ風に言うと「下がりそうで、下がらないものは、なあに」。答えは「安倍内閣の支持率」である。

1月17日、みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は、日本株買い・円売りの足場となってきた安倍内閣支持率が上がるか下がるかは、今後の重要なウォッチ対象だと指摘。提供写真(2014年 ロイター)

昨年12月26日、安倍晋三首相は電撃的に靖国神社を参拝した。このニュースは驚きをもって内外で受け止められ、日中・日韓関係のさらなる悪化、ひいては日米関係にも悪影響が及ぶことで日本株が売られ、それに連動して為替は円高に動くのではないかというシナリオを持ち出す向きもあった。だが結果的には、各市場への影響は一時的・限定的なものにとどまった。その理由として考えられることは3つある。

第一に、中国の反発が激化せず、通常想定される範囲内にとどまったことだ。

首相の靖国参拝をきっかけに中国で反日デモが激化したり、日本製品の不買運動が広がったりした場合は、企業業績への悪影響が材料視される可能性があった。また、東シナ海で軍事的緊張が高まる場合も、日本株下落とそれに連動した円の買い戻しが進む可能性もあった。

だが、そうした動きは見られていない。日中の経済関係はグローバル化進展の中で緊密になっている。自国の経済状況に十分な自信を持てていない中国の指導部にとって、日中の経済関係をことさら悪化させる選択肢をとるのは難しかったと考えられる。

<米国が示した「失望」の舞台裏>

第二に、日米同盟の重要性を背景に、米国の反応がかなり抑制されたものにとどまったことだ。

米国の対アジア(特に対中国)戦略において、日米間の安定した軍事同盟の存在は不可欠である。それをぐらつかせるような強い反応をホワイトハウスが示す場合には、太平洋をはさんだライバルである中国を利するだけだという批判が米議会で強まりかねなかった。

しかも、中国が一方的に防空識別圏(ADIZ)を設定し、北朝鮮では張成沢・元国防委員会副委員長が粛清されるという、東アジアの緊張を高めるイベントが相次いでいた。安倍首相の靖国参拝からさほど時間を置かずに、在日米国大使館が「失望」したとする声明を発表。だが筆者は、声明がしばらくの間、米大使館レベルにとどまったことに注目していた。その後、米国務省も同様の声明を発表したが、一部報道によると、米国務省には当初は声明を出す予定はなかったという。

さらに、参拝の翌27日には沖縄県の仲井真弘多知事が、安倍内閣の努力を高く評価した上で、名護市辺野古の埋め立て申請を承認した。長きにわたって日米間の懸案事項である普天間基地の移設問題が、ようやく動き始めた。そうなると、日本をこのタイミングで強く批判するのは避けたいという意見が米政府内では強まりやすい。安倍首相およびその周辺が、事前にそこまで読み切っていたとすれば、近年の日本の政権には見られなかった、極めて高い情勢判断能力だと言えるだろう。

米国務省のハーフ副報道官は昨年12月30日の記者会見で、安倍首相の靖国参拝について「近隣諸国との緊張を高めるような行動をとったことに失望した」としながらも、「日本は大切な同盟国で友好国(中略)・・・それは変わらないだろう」とも述べていた。また、菅義偉官房長官は1月3日に放送されたラジオ番組の中で、靖国参拝問題では米国の意向を事前に認識していたことを明らかにした上で、「米国についてはそんなに心配していない」と語っていた。

<都知事選は主要テーマにならない>

第三点目は、安倍内閣の支持率が靖国問題では下がらず、逆に上昇していることだ。

共同通信社が昨年12月28―29日に行った世論調査の結果は、筆者にとって驚きだった。安倍内閣の支持率が前回調査(同月22―23日実施)の54.2%から小幅上昇して55.2%になったのである(不支持率は33.0%から32.6%に小幅低下)。この程度の支持率・不支持率の変動は誤差の範囲内だと考えられるので「内閣支持率横ばい」としてこの結果は報じられていたが、支持率が下がらなかったことに意外感がある。

年明けに出てきた世論調査でも内閣支持率は軒並み上昇しており、産経新聞/FNN合同調査(1月4―5日実施)では52.1%、読売新聞調査(10―12日実施)では62%、NHK調査(11―13日実施)では54%だった。

これは国内景気が久しぶりに明確に回復してきており、そのことが安倍内閣の実績として高く評価されているため、いわばコア的な支持が厚みを持っているというのが、筆者の解釈である。それに普天間移設問題が進展したことへの評価や、年末にかけて株価が急上昇したことによる影響などが加わったと考えられる。ちなみに、上記NHK調査で安倍内閣の経済政策を「評価する」とした回答は合計で64%に達した。もっとも、景気が回復していると「感じる」との回答は19%にとどまっている。

アベノミクスが政治的に強い推進力を保ち続けるかどうかは、日本株上昇の最大の原動力である海外投資家の見方に大きく影響してくる話である。そして、安倍首相が宿願であった在任中の靖国参拝というハードルを「大禍」なくクリアしたとしても、4月の消費税率引き上げ後の景気動向、10%への消費税率引き上げに関する年末の首相判断といった大きな関門が待ち受けている。

目先は2月9日投開票の東京都知事選挙で自民党が推す舛添要一元厚生労働相が勝利するか、それとも安倍内閣の方針とかみ合わない「脱原発」を掲げる細川護煕元首相などの候補が勝利するかが市場で注目されている。だが、筆者の見るところ、安倍内閣の「力の源泉」はやはり景気回復であり、都知事選は主要なテーマではない。

6月にとりまとめられる方向の「新成長戦略」など、海外投資家の期待感をつなぐことを意図したと見られる経済関連のイベントが、すでに政治日程に載せられている。しかし、消費増税実施後の景気が予想外に大幅に下振れし、そのことによって内閣支持率も大きく下がる場合、アベノミクスについての海外投資家のビューが変化することを通じて、株安・円高が加速する場面が到来すると考えられる。

「日本株買い+円売り」のペアトレードの足場になってきた安倍内閣の支持率が上がるか下がるかは、今後の重要なウォッチ対象である。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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