for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up

コラム:消費増税で救われるドル円と新興国通貨=高島修氏

今年、消費増税は「ユーロの十字架」と並んで世界市場を安定化させることに貢献することになろう。

4月3日、シティグループ証券・チーフFXストラテジストの高島修氏は、消費増税は黒田日銀の追加緩和を促すことで、世界市場の安定化に貢献することになると指摘。提供写真(2014年 ロイター)

現在の世界経済の構図を俯瞰してみて、最も重要な潮流変化は北米で始まっているエネルギー革命だ。すでに地政学的な影響は顕著であり、昨年はイランにおける穏健派政権の発足、今年はロシア・ウクライナ問題として顕在化している。

つまり、エネルギーの国内調達力に自信を深めた米国が2011年頃から金融経済面での制裁を強化したことが、イランの政治潮流を変え、昨年8月にロウハ二政権を誕生させ、核開発協議の進展につながった。

主要輸出先のユーロ圏の景気減速に加えて、原油価格が下落基調をたどった結果、外需環境と国際収支が悪化したロシア経済は減速色を強め、その余波で苦境に直面したウクライナは社会的混乱に陥ったのだ。

<新興国を窮地に陥れる米経済の復活>

経済面でもエネルギー革命は景気回復を背景とした米連邦準備理事会(FRB)の引き締め転換を促し、新興国や株式市場などのリスク資産市場を不安定化させるという影響を持つ。米国がニューエコノミーに沸いた1990年代後半には、世界経済は大きく前進したものの、94年の米金融引き締めをきっかけに、メキシコ、アジア、ロシア、ブラジルで危機が連発。最後はアルゼンチンのデフォルトに至った。

このことに象徴的なように、景気回復と金利上昇に伴って、世界最大の経済大国・米国に資金が集まりやすくなると、通貨制度や金融市場の柔軟性、安定性を欠く新興国は窮地に陥りやすくなる。過去を振り返っても、FRBの金融緩和から引き締めへの転換は、ほぼ必ず新興国を窮地に陥れてきた。今回も昨年春に米株が史上最高値を更新して上昇基調に乗り、市場がFRBの資産買い入れ減額(テーパリング)を意識し始めたところで、新興国市場は動揺し始めた。

<日銀とECBが提供する「免震装置」>

だが今回、世界経済が「ラッキー」なのは、過去数年でユーロ圏がソブリン危機を経験し、日本では消費増税が決定されたことだ。

構造的欠陥を認識したユーロ圏諸国は現在、通貨同盟に続く財政同盟と銀行同盟を推し進めようとしている。欧州安定メカニズムもその一例だが、財政同盟とは事実上、ドイツから周辺国への財政移転を意味する。ただ、その際にドイツの納税者を納得させる必要性があるため、支援には厳しい条件がふされる。

その条件をクリアするため、もしくは、救済される事態に陥ることを避けるため、周辺国は緊縮財政政策を徹底し、ユーロ圏域内全体にデフレ圧力が広がる。加えて今年は、銀行同盟を前に資産査定が厳格化されることから、信用圧縮に伴うデフレ圧力も加わる。この「ユーロの十字架」を克服するために、欧州中央銀行(ECB)は金融緩和の徹底が求められるのである。

日本で「ユーロの十字架」と同じ役目を果たすのが消費増税である。今年、来年の増税を乗り切るために、黒田総裁(元財務官)率いる日銀はやはり徹底した金融緩和が求められるからだ。こうしたECBと日銀の金融緩和が、FRBの緩和巻き戻しに対応することで、世界的な流動性環境が急激にタイト化することは回避される。これが「免震装置」として機能し、新興国ブームから北米ブームへの転換という地殻変動に伴って発生する揺れが新興国に伝わりにくくなる。世界的にも市場安定化の動きが強まってくることが期待される。

<黒田日銀が追加緩和に慎重な理由>

もっとも実際には、黒田日銀は今に至るまで追加緩和に慎重姿勢を貫いている。ヘッジファンドなど海外勢の間では、4月の消費増税に伴う景気減速を防ぐために、1―3月期にも日銀が予防的緩和に踏み切るとの見方が根強かった。そのため、逆に足元では失望が膨らみ、年初から海外勢による日本株売却や円ショートポジションの手じまいが進んできた。

筆者が見るところ、黒田日銀が追加緩和に動かないことには3つの背景がある。もちろん、1つ目は消費増税後の経済統計の見極めだ。特に大企業だけでなく、中小企業を含めた今春のベースアップの実績を見ようと思うなら、6月に発表される4月の毎月勤労統計を待つ必要がある。

2つ目は日米関係である。環太平洋連携協定(TPP)交渉が難航する中、米政界、産業界では円安や日銀の金融緩和に対するストレスが強まっている。この状況下、財務省で財務官として対米交渉に当たった経験を持つ黒田総裁が金融緩和によって円安のトリガーを自ら引くとは考えがたい。今月23―25日となりそうなオバマ米大統領の来日時に日米大筋合意が達成できれば、そこで初めて黒田日銀は追加緩和に動きやすくなるのではなかろうか。

また、米財務省が消費増税とそれに伴う日本の内需失速と輸入減少に不安を表明していることも見逃せない。昨年10月に発表した前回の為替報告書で、米財務省は景気減速に金融緩和と円安で対応する前に、財政刺激策と成長戦略を出動させるべきだと公言していた。3月に成立した補正予算と新年度予算が4月から執行段階に入り、6月に成長戦略改訂版が予定されていることに鑑みれば、日銀の追加緩和は7月以降と考えるのが自然のように思える。

そして、黒田日銀が追加緩和に慎重な3つ目の理由は15年消費再増税問題だろう。来年度予算編成の関係で、安倍首相がその決断を行うのは今年12月頃になりそうだが、そもそも増税に慎重な安倍首相から再増税判断を引き出すには、消費増税後、経済成長率が回復すること、市場の雰囲気が良好であることが求められる。

麻生財務大臣が予算執行を9月までに前倒すことを求めたように、統計的な成長率を押し上げる役割は財政政策が担う。したがって、今、日銀に期待されているのは、10―12月期の株価とドル円相場を下支えることだろう。あまりに早すぎる金融緩和は効果が早々に剥落し、最も肝心な時(10―12月期)に市場を下支えすることができなくなる。筆者はこれも、財務省出身で、財政再建の必要性を強く訴えている黒田総裁がなかなか追加緩和の手がかりを与えない理由ではないかと見ている。

<7月前後にはドル108円到達も>

だが、今月1日に消費増税が実施され、駆け込み需要の剥落などもあって、今後は経済指標も下振れしやすくなってくるだろう。市場は、我々が7月頃とにらんでいる追加緩和を改めて織り込む局面に入ってくると思われる。為替相場が先週から円安色を強めていることも、そうした見方と整合的だ。

しかも、日銀の追加緩和観測は、FRBがテーパリングに動く中で高まってきた市場の流動性に対する不安を和らげ、新興国市場や株式市場を一段と安定化させる効果を持つはずだ。こうして市場参加者のリスク選好が補強されることで、リスク回避的な円高リスクが後退し、円安が進みやすい市場環境が提供されることになる。

今月30日の金融政策決定会合での追加緩和を見込む向きもあるが、結果的にその期待は裏切られ、ドル円は105円台の年初来高値を超えることなく、いったんは頭打ちになるだろう。だが、6月末までのどこかでその高値を突破し、日銀の追加緩和が具体性を帯びるに伴って、7月前後には108円に達するドル高円安が進むというのが筆者の相場観である。

繰り返しになるが、その時、市場のリスク選好は回復色を強め、新興国通貨は反発色を強めていることだろう。

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up