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コラム:今年度は105─110円中心、ドル円の方向性決める3つの要因=植野大作氏

[東京 14日] - 2021年度がスタートし、約2週間が経過した。3月31日に一時110円97銭と、約1年ぶりの高値圏まで浮上していたドル/円は新年度に入ると小幅に反落し、現在は108円台での取引となっている。

 今年度のドル/円相場の展望について、結論を先に述べると、最も長く滞在するコアレンジは105─110円だとみている。植野大作氏のコラム。写真は2013年2月、都内で撮影(2021年 ロイター/Shohei Miyano)

今年度のドル/円相場の展望について、結論を先に述べると、最も長く滞在するコアレンジは105─110円だとみている。何かの拍子に上下どちらかに振れても極端にははみ出さず、やや広めにみても下は103円、上は113円までの範囲に収まりそうだ。

筆者の予想が的を射て、今年度の値幅が10円以下に収まれば、約半世紀に及ぶ変動相場制史上、下から数えて3位以内の地味な記録が樹立される。

以下では、その理由について「テクニカル」、「ファンダメンタルズ」、「需給」の3点に絞って解説したい。

第1に、テクニカル面では、日本の会計年度末を目前に、やや異例と言える季節外れのドル高・円安が進んだことで、新たな会計年度に臨む事業法人、機関投資家の予算レートや計画レートが、少なくとも数円以上はドル高方向に上振れしたと推測される。

日本の企業や金融機関による海外利益の国内送金、円転(ドル売り・円買い)予約が活発化する1─3月期において、通常は円高に振れやすく、円安になり難い時期だと言われている。ただ、今年はアベノミクス開始直後でドル高・円安が一気に進んだ2013年以来、8年ぶりに3カ月連続の陽線が並んだ。

「年度末の円高アノマリー」を覆す円安の進行で、チャートの見た目も大きく変わった。週足のトレンドをみると、13週移動平均線が26週線と52週線を下から上に貫く黄金交差が完成している。その他のトレンド系の指標をみても、概ね底入れのサインが点灯しているのが実情だ。

この先でもう少し円高が進んでも、1─3月期に稼いだドル高の貯金がまだ残る。仮に107円前後までの自律反落で踏み留まれば、代表的な長期トレンドである52週線も4─6月期には概ね底入れし、夏場には右肩上がりに転じてくる。極端な円高は起き難くなるだろう。

第2に、ファンダメンタルズ面では3月に実施された米連邦公開市場委員会(FOMC)、日銀金融政策決定会合を経て、両国の金融政策の違いが鮮明になっている。先に行われたFOMCでは、政策金利が大方の予想通り0─0.25%で据え置かれたが、更新された先行き見通しでマイナス金利を予想するメンバーは相変わらずゼロであり、2023年末までに少なくとも1回以上の利上げを予測する人数が、12月の5人から7人に増えた。

これに対して日銀は、3月会合で公表した金融政策の「点検」結果を踏まえて「貸出促進付利制度」を新たに導入、現行マイナス0.1%の政策金利をさらに下げた場合に強まる副作用を緩和しつつ、必要に応じて深掘りできる余地を確保した。米国では追加利下げの余地がほぼ消滅しているのに対し、日銀はまだ利下げカードをちらつかせている。

年明け以降に顕著になった長期金利の上昇に直面しても、FRBは制御の対象にせず、米国景気の回復に応じて自然に上昇するのを容認しているが、日銀は3月の会合で新発10年国債金利の許容変動幅を「ゼロ%プラスマイナス0.25%」であることを明示しつつも「連続指値オペ」という新たな武器を用意、強力な天井制限を課す方針を示していた。

これだけ明白な金融政策の違いが浮き彫りになる中、ドル/円の下値余地は限られるだろう。現在、為替オプション市場で織り込まれている予想変動率は6%弱なので、何かの拍子に円高に振れれば105円割れぐらいならあるかもしれないが、100円割れのリスクはかなり後退している。

一方、FRBの「次の一手」が利上げになるにしても、利回り曲線の起点になる翌日物金利を2年半以上もゼロ%近傍に留め置く方針が示されている限り、米長期金利の追加的な上昇余地にも限度があるだろう。

仮に米長期金利が節目の2%を超えたなら、ドル/円の巡航高度も110円超に上がるかもしれないが、米国で本格的な早期利上げ観測が台頭しない限り、米長期金利とドル/円ともに、さらなる上振れ余地は限られそうだ。

第3に、為替需給の面では、日米金融政策の印象格差に対して最も機敏に反応する海外短期筋の為替持ち高が、既に円売り超過に転じている。

シカゴ先物市場におけるドル/円の持ち高をみると、米国本土に新型コロナウイルスが本格的に上陸してFRBがゼロ金利政策を復活させた昨年春に円買い超過へと転じた後、年明けごろまで円買いポジションを膨らませていた。

だが、今年1月5日に行われた米上院の決選投票で議会のネジレが解消されたころから円買い持ち高の整理が始まり、今年3月中旬を境に一気に円売り超過に転じている。

先に指摘したように、この間に急激に進んだドル高・円安の基本的な背景は、日米の新型コロナワクチン普及率格差などを反映して開いた金融政策の印象ギャップだったとみられるが、それらをテーマに為替が最も激しく動くのは、巨額の資金を短期で動かす投機筋の売買戦略が180度変わる時期だ。

今後、国内外の投機筋が円売りポジションを維持している限り、基本的な売買戦略は「ドル/円での押し目買い」になるので、その間の地合いは下値が堅く、上値が軽くなりやすいだろう。ただ、投機筋の為替持ち高が円買いから円売りに切り替わることで相場に激震が走るヤマ場の時期はもう過ぎた。今後はこれまでと同じような速度や値幅で円安が進むことはないだろう。

他方、近年の日本の国際収支統計で基礎的マネーの出入りを確認すると、国際競争力のある「モノ作り」の拠点の一部が海外に引っ越し、次世代技術の革新で日本が後れを取っている分野が増えているため、貿易・サービス・移転等の実需決済の収支は少額の赤字と黒字が錯綜し、昭和や平成のころにみられた派手な円高も円安も起き難くなっている。

令和の日本の国際収支の構造をみると、海外に投資した有価証券から得られる利配収入や海外で設立あるいは買収した子会社から振り込まれる配当金など「海外への投資で稼いだ黒字を、再び海外への投資に回す」というループが定着しつつある。結果的に、日米の政治・経済・マーケットが激しく動いても、ドル/円は昔ほど派手に動かなくなっているのが実情だ。

実際、ドル/円の変動相場制移行後の年間変動率を比較すると、予測不能なツイートの連発などで市場を幾度も混乱に陥れ、ヤンチャな印象が強かったトランプ大統領と過ごした4年間の値動きが最もおとなしかった。トランプ時代のドル/円の変動率は13.2%と歴代平均39.5%の約3分の1に収まっている。

「令和の日本で起きている国際収支の構造変化が、極端な為替変動を抑制している」という筆者の見立てが正しければ、今後も大同小異の状況が続くだろう。

今年度の予想レンジについて、キリが良いので10円値幅で提示しているが、実際にはそんなに動かないかもしれない。105円前後から下は押し目買い、110円前後より上は戻り売りで臨みたいと考えている。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

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編集:田巻一彦

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