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コラム

コラム:ガス契約で急接近の中ロ、憂慮すべき5つの理由=カレツキー氏

[22日 ロイター] - ロシアのプーチン大統領は、4000億ドル(約40兆8000億円)に上る歴史的なガス供給契約を中国と結び、チェスの試合に例えるなら、複雑なエンドゲーム(終盤戦)で強力な結果を見せつけたグランドマスターのような満足感を抱いたに違いない。

 5月22日、ロシアのプーチン大統領(左)はクリミア編入によって政治的な支持を長年にわたって確保する見通しだが、中国とのガス供給契約はそれを上回る朗報だ。写真右は中国の習国家主席。上海で21日撮影(2014年 ロイター/Aly Song)

事実上、不可逆的なものとして世界が受け入れたクリミア編入によって、プーチン氏は政治的な支持を長年にわたって確保する見通しだが、ガス供給契約の合意はそれを上回る朗報だ。

モスクワ株式市場とルーブルは5月上旬までに大幅に上昇し始め、クリミアとウクライナにおけるロシアの戦略的利益はすでに明白になっている。こうしたなか、米国と欧州はプーチン氏に、さらに大きな思いがけない経済的・地政学的利益をもたらした。それは、北大西洋条約機構(NATO)と米国のアジアにおける同盟関係に匹敵する中ロ関係構築の可能性だ。

ロシアも中国も、数カ月前まではアジアと欧州のパートナーシップが可能とも望ましいとも考えていなかっただろう。21日に両国が合意したガス契約は、異なる外交的背景においては単なる貿易協定の1つにすぎなかったかもしれない。世界のエネルギー価格に影響を与えるという点を除いて、それほど重大な地政学的影響力はないように見えただろう。

しかし、ウクライナをめぐるロシアと西側諸国の対立に加え、日本、ベトナム、フィリピンや、サイバースパイ問題をめぐる米中間の対立など、最近の国際情勢を踏まえると、状況はかなり違って見える。

プーチン氏の訪中は、1972年にニクソン米大統領(当時)の中国訪問で始まった構造的なシフトに匹敵する、核保有超大国間の戦略的再編の始まりを意味する可能性さえもある。この考えはとっぴで大げさなように聞こえるかもしれないが、西側の指導者らがこれまでのように、この考えを単に否定することが楽観的かつ短絡的だという理由が5つある。

1.繁栄と衰退

中国は明らかに超大国に成長しつつあり、ロシアは衰退している。これは両国が、国際的な政治・経済の主導権を握る欧米との間に生じる摩擦を避けられないことを意味する。ロシアの場合、自国が経済的・地域的特権を持つと見なす領域が、米国の同盟国である欧州諸国によって侵されることに絡んで主な摩擦が生じる。これはまさに、現在のウクライナをめぐる対立でのロシアの姿勢を示している。

一方、中国の場合は、太平洋地域で米国の同盟国を侵略することで摩擦が生じる。どちらの場合も、両国は米国と対立するだろう。

2.影響力

米国の影響力は低下しつつある。それは米国が経済的や技術的に弱まっているからではなく、世界の警察官として行動することに消極的になったためだ。これにより同盟国は、特に規模の小さい領有権争いではロシアや中国の動きを阻止するために米国に依存することが現実的にできなくなる。理論上、相互防衛条約によって米国に守られることが保証されているとしてもだ。

3.最高の組み合わせ

中ロ関係は最高の組み合わせだ。両国は経済や軍事能力などで相互に補完している。ロシアはエネルギー資源が豊富だが、人的資源に乏しい。一方、中国は逆の問題を抱えている。また、ロシアは軍事面の先進技術や航空技術、ソフトウエアなどの分野が強みだが、消費財や電子機器の大量生産は得意でない。これらに関しても、中国は逆の強みと弱みを持っている。

4.連携拡大の可能性

購買力平価為替相場で見た世界第2位と第6位の大国間の戦略的パートナーシップは、政治的民主主義や、企業統治(コーポレート・ガバナンス)、貿易・金融分野の開放、消費者製品の質と安全性などで西側の基準を適用することができない他の国々、特にアジア諸国を引き付ける可能性がある。

5.共通の敵

おそらく最も重要なのは、ウクライナ情勢に加え、オバマ米大統領が先月のアジア歴訪の際に中国に対し、予想外に好戦的な姿勢を示したことで、超大国関係に新たな要素が加わったことだ。中国とロシアの指導者は歴史的に不信感や嫌悪感を抱き合ってきたが、彼らは米国に対し、それよりも強い嫌悪感を抱き始めている。

ロシア側の理由は明らかだ。中国の場合は、米国がサイバースパイ問題や領有権問題を過熱させるまでは不信感はそれほど強くなかった。

こうした米国の対立的な姿勢は一時的な異変にすぎないかもしれない。だが、オバマ大統領が中国を挑発し続ければ、歴史的な失態を演じることになるだけでなく、プーチン氏の戦略にはまることになるだろう。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKal Dragonomicsのチーフエコノミストも務める。

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