[シンガポール 1日 ロイター] - 5月31日に閉幕したアジア安全保障会議で、米国が日本に対する南シナ海関与の強化に期待していることが鮮明となった。
日本側は前向きに受け止めつつも、中国との緊張が続く東シナ海の対応で手一杯としており、米国の関心が特に高い共同哨戒は、引き続き慎重に検討していく構えを見せている。
<「ISRはやりたい」>
「後で出す共同声明を見てもらえれば明らかだ」──。米太平洋軍の関係者は、会議の会場となったシンガポールのシャングリラホテルでロイターにこう語り、南シナ海における日本の役割拡大に期待を示した。
会議2日目の30日に会談した日本の中谷元防衛相、米国のカーター国防長官、オーストラリアのアンドリュース国防相は共同声明を発表し、中国が南シナ海の南沙諸島で進める岩礁の埋め立てに強い懸念を表明した。
共同声明は、日本の安全保障政策の変化にも言及。「地域及び世界の安全保障に、より大きな役割を果たそうとする日本の最近の取り組みを歓迎し支持した」とし、自衛隊の役割が南シナ海にまで広がることへの期待を強くにじませた。
米国は日本に対し、装備協力や共同訓練などを通じて東南アジア諸国の防衛能力向上の支援を求めるとともに、自衛隊に米軍と共同で南シナ海を哨戒してもらいたいと考えている。
能力支援については、日本はすでに積極的に乗り出している。ベトナムの海上警察に中古の巡視船を供与したほか、潜水艦の事故が起きた場合の対応に関する研修を行った。
フィリピンとは今年5月に南シナ海で初の共同訓練を実施。さらに6月2日からのアキノ大統領訪日に合わせ、防衛装備品の供与に向けた正式協議の開始を決める見通しだ。
しかし、米軍との共同哨戒については思いが交錯している。「飛行機なのか、船なのか、ISR(情報・監視・偵察)はやりたいと思っている」と、防衛省関係者の1人は前向きな姿勢を示す。
一方、別の防衛省関係者は、日本は尖閣諸島(中国名:釣魚島)をめぐって中国との緊張が続く東シナ海を優先すべきと話す。「南シナ海は一義的には当事者がやるべきだ」と、同関係者は語る。装備、人員とも、東シナ海への対応で余裕がないという。
<中谷防衛相と中国の副参謀長、会議中に3度接触>
自衛隊の元海将によると、日本が南シナ海まで哨戒範囲を広げられるかどうかは、作戦内容によるという。
海域の一部を一周見回るだけなら今も可能で「東シナ海でいつも行っている活動を広げればいいだけだ」と、元海将は言う。
しかし、中国の潜水艦を追跡するといった任務だと24時間監視しなくてはならず、現状の能力と慎重に照らし合わせる必要があるという。
中谷防衛相は会議の開催中、中国人民解放軍の孫建国副参謀長と3度言葉を交わした。公には埋め立てに対し強いメッセージを発しつつも、何とか中国との関係を改善したいとの複雑な思いが見て取れる。
中谷防衛相が「さまざまな問題について大いに議論をしたい」と述べたのに対し、副参謀長は「(日中関係を)正常な方向に進めていくことを望んでいる」と応じた。
*見出しを修正して再送します。
久保信博 編集:田巻一彦
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」