[東京 22日 ロイター] - 柴山昌彦・文部科学相はロイターとの単独インタビューに応じ、日本経済の動向を大きく左右する人工知能(AI)やビッグデータを扱う高度デジタル人材をめぐって、短期的には海外人材の活用で対応し、中長期的には大学教育や社会人再教育の中で、最新デジタル技術を使いこなす即戦力に重点を置いた人材の育成に力点を置く方針を明らかにした。
ただ、教える側の人材不足にも言及し、高度なデジタル知識や技術分野では、教える側の「主力」として外国人を想定していることにも言及した。
また、学校現場での情報環境整備予算を大幅に拡充したものの、その具体的な使途は自治体の裁量に任せており、場合によっては、情報教育で地域間格差が生じかねないとの危機感も示した。
そうした事態を回避するため、文科相の独自プランとして、2020年度の早い時期に、先端技術を駆使した遠隔授業を実現することや、各自治体ごとに学校の情報化環境整備がどの程度進んでいるかを把握しやすくするための「見える化」も推進していくとした。
インタビューの詳細は、以下の通り。
──日本における高度デジタル人材不足は、国際競争力低下を招くのではないか。
「高度デジタル人材は、国際的に熾烈(しれつ)な獲得競争にある。先端IT人材は2020年に5万人不足と経済産業省が推計している。高度IT人材の育成・確保は、極めて重要な課題と認識している。ビジネスの生産性、日本が強みを持つ分野において、担い手不足が情報分野の国際競争力伸長の妨げになってしまう」
──即戦力となる現場でのIT人材不足の背景に、大学教育での問題があるのではないか。
「学生が学んできたことと、企業のニーズとのミスマッチが起きている」
「文部科学省としては、産学の連携による実践的な課題解決型学習の支援、IT技術者を対象とした学び直しなどを進めていかねばならない」
「短期的には、人材不足の解決のために、関係省庁や産業界が一体となって、高度デジタル人材の処遇、つまり給与水準の引き上げを含めて、就職しやすい環境に改善しないと、なかなか国籍を超えて日本にきて働いてもらえない」
「例えば、経済産業省の調べによると、IT人材の平均年収は日本で平均600万円、米国では1200万円程度と差がある。人材獲得には処遇は重要だと思っている。」
「長期的には教育の部分から、今後必要となっていく即戦力になるにふさわしい人材、つまり最新の情報を使いこなし、社会の具体的課題を解決できる人材の育成が必要。18歳を中心とする学生や社会人が、(即戦力を)身に着けられる機会をしっかりと確保していかねばならない。今まではそういう視点での育成ができなかった。だからこそ企業のニーズともミスマッチが起こっていた」
「従来の基本的知識を身に着けるだけでなく、お金を出すことができる産業界が参画して行うことが重要だし、最新の技術や知識を実践により習得する人材研修において、(企業に)協力してほしい」
──2020年度からは、小学校でプログラミング教育が義務化される。しかし、教える側の人材確保と予算確保はできているのか。
「子どもたちにプログラミング的思考を教える、アルゴリズムの基礎を教える内容なので、必ずしも大変高度な専門性のある教員が必要というわけではない。また、現在はプログラミング・アプリケーションもある」
「また、ICT(情報通信技術)環境の整備には予算も大事だ。自治体における整備のため、2018─22年度までの5カ年計画で、単年度1805億円の地方財政措置が講じられている。Wi-Fiやタブレット導入を念頭にしている」
「ただ、この予算はひも付き(予算消化項目の限定)ではないため、使途と違う目的で使ってしまうことがあれば、地域により(情報教育環境の)格差が出てくることもありえる。各自治体の意識や、やる気によって本当にICT環境整備に使われるかどうかわからない」
「私自身、このことに危機感を持っている。このため、新時代の学びを支える先端技術のフル活用に向けて『柴山学び学習プラン』を昨年11月に公表した。2020年度のなるべく早い時期に全ての小中学校において、先端技術を活用して遠隔教育推進や先端技術導入による教師支援、学校のICT環境整備を進めたい。また、地域による格差が生じないよう自治体ごとの整備の『見える化』を目指していきたい」
──大学や既存のIT人材の学び直しについて、教える側の人材確保は。
「海外からの人材を考えている。今回の外国人労働者受け入れ拡大に関する法改正で、クリエーターやクールジャパンの担い手など、これまでより多様なIT人材を受け入れ可能となった」
「さらに高度な技術者、ビッグデータ、人工知能に不可欠な人材確保に関しては、米国や中国において巨大なプラットフォーマーが技術開発に取り組んでいる。単にそうした先端技術を取り込むのではなく、日本のモノづくりの現場から生み出される良質なデータをもとに、人工知能を生かした研究開発など優れた基礎研究の推進や、国際競争力の強化につなげていきたい」
「ただ、国を問わず、こうした高度デジタル人材が流動化している現状であるため、日本としても研究力強化のためには、そうした国際的な人材を獲得することも重要。実際に日本の研究機関でも、多くの海外人材を採用している」
「こうした事実は、日本の科学技術分野の遅れを表していることではなく、日本の強みのある分野もあるため、特許をしっかり取り、海外に打って出るための戦略でもある」
*インタビューは21日に実施されました。
中川泉 Linda Sieg 編集:田巻一彦
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